アバン


人々が注目するスーパーレディー アマガワ・アキさん。そのアキさんに不審な行動があればイヤでも人の目を引くというもの。
まぁ、それを出歯亀と呼ぶか興味本位と呼ぶかわかりませんが、とりあえず疑いを晴らさなければ人の心は収まらないもの。
だからもう少し自重した生活を送った方がいいですよ?アキさん。

ああ、これってSecond Revengeのラストとは何の関係もありませんのでそのつもりで。



証言者:ハルカ・ミナト


「話の発端はそんな大したことじゃなかったんだよね。プロスさんがみんなに話があるからって呼び出して。
 今にして思えばプロスさんの話も十分衝撃的な話だったけど、それ以上にその後起こった出来事の方がショッキングだったよね。」



ナデシコ・ブリッジ


「皆さんにお集まりいただいたのは他でもありません。」
そう前置きしたのはプロスペクターであった。非番のブリッジクルーも可能な限り全員集め、持ち場を離れられない食堂や整備班のクルーにも艦内放送を流すという念の入れよう。
それが彼らの雇い主からの意向であることをクルー達も薄々感じていた。

艦長であるユリカを始め、ジュンやフクベ、ミナトにメグミ、ルリやラピス、果てはゴートやガイまでいる始末。彼らはプロスの言葉に耳を傾けた。
「我々ナデシコが軍所属の戦艦ではなく民間所有の艦であることはご存じの通りですね?
 それはわざわざ軍に編成されて戦うことを意味するのではないということに気づかれているかと思います。にもかかわらず我々は今までその目的をお伝えしておりませんでした。」
「何でそんな回りくどいことを・・・」
ミナトのつぶやきはもっともだ。

「それは外部からの妨害を避けるためです。」
みんな一瞬嫌な顔をする。それは何かよからぬ企みに荷担させられそうだという予感だ。だが、プロスの続けた言葉はみんなの予想をもう少し上回っていた。
「我々はスキャパレリプロジェクトの一端を担い、火星に行きます!!」
「「「「「火星!?」」」」」
一同はその意外な単語を聞いて目を丸くしたのであった。



証言者:テンカワ・アキト


「火星に行くって聞いたとき、正直うれしかったです。だって一年前まであそこに住んでいたんだから。やっぱりアキさんに着いてきてよかったって思いました。
 でも後になって、アキさんってどうしてナデシコが火星に行くのを知っていたのか不思議に思いました。
 だって副長のジュンですら詳しくは教えられていなかったんですよ?」



再びナデシコ・ブリッジ


「何で火星なんです?」
メグミが素朴な疑問を口にした。
「火星会戦初期において地球連合宇宙軍は木星蜥蜴にボロ負け、戦線もとっとと後退、月すら死守できずかろうじて地球の防衛ラインにて食い止めているのが実状・・・
 でしたっけ?」
ルリがさりげなくメグミの疑問の論拠をつぶやいた。
「そう、確かに我々は火星を見捨てました。しかし今現在、火星に残された方達、資源はどうなってるのでしょうか!!」
「生存者っていっても一年以上もたってるし・・・」
「いるかいないかわからない人達のためにわざわざ出かけるというのも・・・ねぇ?」
「ま、ネルガルがわざわざ民間の戦艦を造ってまで火星に跳ばそうっていうんだから、慈善事業じゃないことだけは確かだけど。」
ミナト、メグミ、ルリの指摘は手厳しい。が、プロスはそれを丁重に無視した。

「我々は火星に赴き、その真実を見極める必要があるのです!」
「その必要はないわ!」
プロスの声を打ち消すようにある男の声が響いた。
副提督、ムネタケ准将の声である。



証言者:テラサキ・サユリ


「そういえば今朝からアキさんの姿が見えなかったですね。まぁ、あの人は昨日遅番だったからあまり気にも留めてなかったんですけど・・・。」



再びナデシコ・ブリッジ


「火星になんか行く必要はないわ。」
ムネタケが銃を携えた部下を大勢引き連れてブリッジに雪崩れ込んできた。
クルー全員が両手をあげたのはいうまでもない。

ブリッジだけではない。食堂も格納庫も、民間クルーに化けていたムネタケの部下に銃を突きつけられていたのだ。

「ナデシコは軍が徴発するわ。」
「ムネタケ、血迷ったか!!」
お飾りだが本来の最高責任者フクベ提督が叫ぶが、ムネタケは涼しい顔だ。
「おやおや困りますね。既に軍とは話し合いがついているはずですが?」
「それはこの艦がただの戦艦だったらの話。
 地球圏で唯一木星蜥蜴に対抗できる戦艦だとすれば話は変わってくる。
 生きてるかどうかもわからない火星なんかに飛ばすより、アタシの出世のために役に立ててあげるのが有意義な使い道というものよ!」
プロスの言葉にエゴ丸だしで答えるムネタケ。

「それって結構非人道的よね。」
メグミは先ほどの自分の発言を棚上げしていうが、銃を向けられて口を押さえた。
「ムネタケ准将、これはあなた個人の判断ですか?」
「少なくとも数時間で軍の総意となるわ」
「それはよかった。」
「よかった?」
プロスはムネタケの答えにほっと胸をなで下ろした。

「ということです。アキさん」
「はいは〜い!」
「え?」
プロスの言葉に応えるようにブリッジの扉が開いた。

「准将・・・」
「どうも〜アマガワ・アキで〜す♪」
ムネタケの部下の一人に銃を突きつけてアキはブリッジに入ってきた。その行動には不似合いな、やたら朗らかな笑顔をしながら・・・。



ナデシコ プリンセス オブ ダークネス
第2話「緑の地球」を任せていいの?<後編>



証言者:メグミ・レイナード


「私たちってひょっとして火薬庫のそばで火遊びしていたのかもしれません。
 だって軍人さん相手に互角に戦っちゃうんだもの。
 普段にこやかな人だから大して気にも留めてなかったんですけど。
 絶対に怒らせないようにしよっと。」



再びナデシコ・ブリッジ


「あんた、何者!?」
「何者って、いやですねぇ。アマガワ・アキですよ。そう名乗りませんでした?」
「そうじゃなくって!」
人を小馬鹿にしたような口調のアキにムネタケは怒った。

「あたしの部下に銃を突きつけてどうしようっていうわけ!?」
「いえいえ、あなたと同じ事です。」
「は?」
「『言うことを聞かなければ、人質の命は保証しないぞ♪』ってやつです。」
ムネタケは絶句する。まさか人質を取ってる自分達にさらに人質を取って脅し返してくるとは思わなかったからだ。

「あんた、何考えてるわけ?人質を取るなんて悪党のする事よ!恥を知りなさい!!」
「いやぁ、あんたに言われたくないんだけど・・・」
女子クルーの誰かがクスリと笑ったが、ムネタケの形相にあわてて顔を引き締めた。

「こっちはナデシコのクルー全員が人質なのよ?
 対等の条件で話し合えるとでも思ってるの!?」
「全員じゃないですよ。このブリッジだけです。」
「なに!?」

「食堂のテンカワ君〜〜」
『こちら食堂のテンカワです!』
アキが呼びかけるとウインドウがポップアップして食堂の様子が映し出された。アキトの後ろには縛られたムネタケの部下の姿が映し出されていた。

「じゃぁ、次は格納庫のウリバタケさん〜〜」
『あいよ。こっちは格納庫だぜ!!』
格納庫のウインドウも同様にムネタケの部下が簀巻きにされていた。

「が・・・・」
「准将もテロかけるつもりならもう少し訓練積んだ部下を連れてこなきゃ。私一人で十分でしたよ」
「あ、あんた、何者!?」
「ですからアマガワ・アキ、職業コックです。」
「うそよ!!」
「ま、それはどうでもいいんですけど・・・
 どうします?人質の数ではこちらの方が上になりましたけど?」
アキは余裕綽々でムネタケを眺めた。ムネタケの顔は真っ赤だった。
「か、彼らだって軍人よ。使命のためなら命を落とす覚悟だって出来てるわよ!!」
「おやおや、准将は作戦のためだったら部下の命なんていくらでも惜しくないと?」
「な!?」
「まぁ、本人はどう思っているか知らないけど?」
アキは自分が銃を突きつけているムネタケの部下をのぞき見る。彼のために死ぬのなんてまっぴらなんて顔をしている。

「か、彼らだって脅迫に屈するぐらいなら名誉ある戦死を望むはずよ!!」
「どうあっても部下の命はいらないと?」
「撃ちたければ撃ちなさいよ!そうすれば私の元にだけ人質が残ることになるんだから・・・」
どう見ても交渉人の器としてはアキの方が上だったが、それでもムネタケは踏ん張っていた。自分は部下の命を失ってもさほど痛みを感じない。しかし彼らは民間人であり、仲間を殺されることをなによりも嫌がるはずだ。その違いがある限り自分たちの優位は変わらないと信じていたからだ。



証言者:ホシノ・ルリ


「もしも闇の王子様がいるとしたらあの人のことかもしれません。
 だってたとえ演技だったとしてもあんな殺気のこもった瞳が出来るものなのでしょうか?
 そしてそれと同じだけ悲しい瞳をしていたのは思い過ごしでしょうか?
 まぁそれはいいとして、あの人の発言って演技じゃなくて絶対本気だったような気がするんですけど・・・。そう思いません?いやマジで」



再びナデシコ・ブリッジ


「・・・・ふぅ。
 まぁ、予想された反応ではあるわけだけれど・・・」
アキは一息ついて銃を突きつけていた男の後頭部を殴って気絶させた。
「?」
アキが自ら人質を放棄したのをムネタケは理解できなかった。

「賭をしよう、ムネタケ准将。
 私のリボルバーには弾が6発。それでこの人質すべてを救えるかどうか。」
「はぁ?」
ムネタケはあまりの言葉に驚きを隠せない。他の一同もだ。
「私は最初にムネタケ准将の眉間をねらう。次はクルーに発砲した順番だ。
 あんた達はムネタケ准将の命を守れるか、
 または人質を一人以上殺せるか、
 はたまた私を撃ち殺せるかどうか。」
「あんた正気!?人質を殺されずに私を殺せると思ってるの!?」
ムネタケは相手を全く信じられないようにアキを責める。
人質はユリカ、ジュン、ゴート、プロス、ルリ、ラピス、ミナト、メグミ、そしてガイとフクベである。とてもではないが6発の銃弾で助けられる数ではない。
しかしアキの瞳は異様に冷ややかだった。

「別に一人や二人殺されたところで私にはどうってことないんだけど・・・」
ムネタケは仰天した。そして一同も仰天する。
「何いってるのよ、あんた!
 ブリッジクルー殺されて火星にいけるとでも思ってるの!?」
「別に、この船はほとんどAIによる全自動航行が可能だもの。操舵士や通信士がいなくてもオペレータがいれば運用可能だし」
ミナトやメグミが思わず首をすくめる。

「そのオペレータを殺したら・・・」
「どちらか片方が残れば十分だし、最悪私にだってコントロールできるし。」
「な!?」
「あら、私がIFS持っているの知ってるでしょ?オモイカネへのアクセスキーをもらってるんだ。」
ルリが思わずプロスを睨む。プロスは済まなそうに手を合わせた。

「パイロットは・・・」
「ま、彼は正義の味方だから名誉ある戦死は望むところ・・・」
「だ、誰もそんなことは言ってないぞ!!」
ガイが慌てて否定するがアキはもちろん冗談のようだった。
「アキト君もいるし、私だっている。どうせそのうち正規のパイロットを補充するはずだからここで一人や二人死んだって・・・」
そう言い切られてガイも思わず絶句する。

「あんたって・・・」
「まぁ、ゴートさんにしろプロスさんにしろ、こんなヘナチョコ兵士の弾に当たるほどの方々じゃないでしょうし」
「アキさん、それは買いかぶりですよ・・・」
プロスとゴートはマジで冷汗をかいていたが、アキは丁重に無視して言葉を続けた。
「まぁ、唯一殺されて困るのは艦長ぐらいだけど、殺して困るのはあなた達も一緒でしょう?だって艦長を殺したらナデシコを再度動かすのにネルガルの会長を連れてこないといけないんだから。」
「あ・・・」
「それより自分の心配をしたらどう?
 部下の命を屁とも思っていないあなたですもの。部下の人達が身を挺してまで助けてくれるかしら?案外あなた一人殺せば彼らは怖じ気づいて降伏してくれると踏んでるんだけど・・・」
「軍を敵に回すつもり?正気なの!」
ムネタケが遅まきながら相手の殺気に初めて気がついた。

「いたって正気。」
アキは事も無げにいう。
「私は火星に行きたいの。
 それを邪魔するものは実力を持って排除するし、そのための犠牲だって知ったこっちゃないわ。そうはいっても犠牲が出たら寝覚めが悪いから穏便な方法を採ろうとしたけど、あなたがいかなる犠牲を払おうともこの船を徴発をするという。
 だから私はあなたを話し合いの通じないただのテロリストと判断した。」
「わ、私がテロリスト!?」
「そう、そしてテロリストへの対処の鉄則はどんなに犠牲が発生しても決して譲歩しないこと。そうでしたよね?ムネタケ准将。」
「・・・」
「だから賭をしようといったんですよ、ムネタケ准将。
 命をチップにした賭を。」
「あ、あんた!」
「人に銃を向けておいていつまでも自分だけ安全でいられるなんて思ってるんじゃないわよ!!!!!」
「ひいいいい!」
アキが思いっきり殺気のこもった声で怒鳴る!
ムネタケは思わずビビって腰を抜かした。



証言者:アオイ・ジュン


「え?そのときの感想ですか?
 無我夢中ですよ。宇宙軍が正しいとか、ナデシコが正しいとかそんなこと考えている余裕なんてなかったです。
 ただ止めなきゃって、それだけですよ。」



再びナデシコ・ブリッジ


「どういうつもり?アオイ・ジュン君。」
腰を抜かしたムネタケを前にアキのネゴシエーションの90%は上手くいったと言えるであろう。しかしそれに対する造反者がいた。
アオイ・ジュンである。
「銃を構えるのはいいけど、手が震えてるよ?」
アキは後ろも見ずにジュンの様子を言い当てた。確かに悲しいかなジュンは及び腰で銃を構えている。

「や、止めて下さい。アキさん・・・。」
「銃を向ける相手が違うんじゃないの?
 それとも君は宇宙軍のスパイなのかな?」
アキの突き刺すような冷たい声が背筋を震わせる。が、ジュンはどうにかこうにか耐えた。普段の彼からすれば奇跡と言っていい。
「ぼ、僕はな、ナデシコのふ、副長です。く、クルーの安全を守る義務があります。」
「で、宇宙軍の奴らの横暴は許すと?」
「す、少なくとも要求に従う限り、クルーの安全は保障されます!」
ジュンの言葉は正論だった。彼はクルーの安全を守る責務がある。それがたとえ宇宙軍よりの考え方に見えたとしても。
だがアキの冷酷な表情は変わらなかった。

「それでナデシコはめでたく宇宙軍所属の軍隊になるわけよね。
 じゃぁ、君は何のために宇宙軍を辞めてナデシコに乗ったの?
 女の子のお尻を追い回すため?」
「!」
ジュンに突きつけられた命題。それはブリッジクルー全員、あるいはナデシコのクルー全員に突きつけられた命題である。
その言葉はウインドウを通じてすべてのクルーに伝わった。

『何のためにナデシコに乗るのか?』
給料のためか?
刺激のためか?
地球を守るためか?
それら様々な目的の何割かはナデシコなどに乗らなくても宇宙軍に入りさえすれば実現できる内容ばかりである。
なのに何故あえてナデシコに乗ったのか?

「・・・・それはわからない。
 でも今クルーのみんなを失ってまで達成すべき事だとは思えない。」
ジュンは迷いながら答えた。
むろん動機はユリカがナデシコに乗るというから一緒に着いてきた。でもそれはユリカへの恋愛感情が動機の一つでもあるのだが、一番大きいのはユリカの才能を一番そばで見ていたい、自分がその才能を引き出してみたい、という思いがあるからだった。彼にとってそれは十分人生を賭けるに足る理由だった。
だからユリカの居場所を失わせたくなかったのだ。

「甘いねぇ。いくら正義の御旗を掲げていようが、これは戦争だよ?
 君の指図一つでパイロットは戦場に行かなきゃならない。そして犠牲者は絶対にゼロじゃすまないんだ。シミュレーションやゲームじゃないんだよ?
 ピクニックにでも行くつもりならここで引き返した方がいい。」
「それでもです!!」
ジュンはアキの突き刺すような殺気に耐えきった。どこにこんな勇気があったか不思議なくらいだった。

その言葉を聞いたアキは深くため息をついて銃のトリガーから指をはずした。
「ふぅ・・・
 やっぱり歴史は同じ道をなぞる・・・か。」
「え?」
アキの顔は一気にいつもの穏やかな表情に戻った。ジュンはその行動に呆気にとられる。

「まさか君がそういう行動に出るとは思わなかったよ。さすがに君の銃に撃たれると怪我だけじゃすまないからね。」
「え?え?」
「馬鹿だねぇ、アオイ君。私がクルーのみんなを怪我させるつもりがあるわけないじゃない。准将達の銃は昨晩モデルガンと取り替えておいたんだよ。ウリバタケさんのコレクションから。」
「はい?」
「だから、最初からムネタケ准将が造反するなんて知ってたの。でも決定的な証拠がないから泳がせて現場で造反の意志を叩きつぶしてやろうと思っていたのに・・・。
 君は顔に出るから黙っておいたのが仇になったかな?」
「え?え?え?」
ジュンはまだ信じられないように辺りを見回す。

「ジュン君ごめ〜ん」
ユリカが手を合わせる。プロスもゴートもミナトもメグミも手を合わせる。
ルリやラピスはそっぽを向いていたがおそらく知っているのだろう。
ガイだけがジュンと同じようにキョトンとしていた。
「みんな・・・騙したの?」
「だってジュン君にこれだけ勇気があるなんて思わなかったんだもの。」
ユリカは愛想笑いをして答える。
「あ、あ・・・」
ジュンとガイは開いた口をパクパクさせて呆けていた。

「まぁ、どちらにしてもタイムアップか。」
「え?」
アキの声にユリカが気づいた。
ムネタケが正気を取り戻す前に宇宙軍の本隊が訪れたのだ。
どちらかといえばこちらの方が本番である。こちらはムネタケのようにハッタリや小細工は聞かない。

そして・・・

『ユリカ!!!!』
暑苦しい親バカミスマル・コウイチロウの声がナデシコのブリッジに轟いたのはいうまでもなかった。



証言者:ミスマル・ユリカ


「『アキさんの言うことよく信用できましたね?』ですか?
 だってそりゃ、私とアキトの仲を応援して下さる方ですもの!
 悪い人であるはずがありません!!」



再びナデシコ・ブリッジ


宇宙軍の本体が来たことにより気を取り直したムネタケであったが、部下は簀巻きにされるわ、銃はモデルガンにすり替えられるわで、為政者にしては威厳もへったくれもない。
そうはいってもそこはナデシコ、そこは艦長のユリカ。
結局は元の歴史の通り・・・

コウイチロウ『さぁ、マスターキーを渡してもらおう!』
フクベ「我々は軍人ではない。渡す必要はない!」
コウイチロウ「提督、これ以上生き恥をさらすおつもりですか?」
フクベ「・・・・」
コウイチロウ「ユリカ〜〜お父さんの言うことを聞いておくれ。
 父さんが今まで間違った事を言ったことがあるか?」
ジュン「オジサンの言うことが正しい。まずここは地球の守りを固めてだなぁ〜〜」
プロス「ジュンさん、これは契約違反ですぞ?」
ガイ「だまされるな!これは敵の罠だ!!」

とかなんとかしゃべったあげく・・・

ユリカ「抜いちゃいました♪」
とあいなるのだが、やはり元の歴史とはズレていた・・・

「へ?私も行くんですか?」
アキは素っ頓狂な声をあげていた。
宇宙軍の交渉に際して、ジュンの代わりにアキが連れて行かれたのだった・・・。



証言者:アマガワ・アキ


「いやぁ、まさか私が連れて行かれるとは思いませんでした。宇宙軍が出張ってくるまでにかたがつかない可能性を考えていたので、いざとなればこの後のチューリップ戦も自分で出るつもりだったんですが・・・
 まさか自分が交渉に出かけて身動きが出来なくなるなんて予想してませんでした。
 せめて、アキト君がゲキガンガーに染まるきっかけを回避したかったんだけどなぁ・・・」



ナデシコ・食堂


取り敢えずナデシコクルーはしょうがないので食堂に集まっていた。
ムネタケとその部下はアキがコウイチロウの元に連行して行っていた。
まぁ、マスターキーはないのでナデシコは動きようもない。頼りないムネタケに見張らせても大した効果はないだろうというコウイチロウの判断である。

みんな塞ぎ込んだまま、ムッツリとしていた。
最初に口を開いたのはウリバタケであった。
「自由の日々は一日にして終わり、明日は女房の尻の下・・・か」
溜め息をつくウリバタケに対して反応したのはアキトであった。
「・・・ウリバタケさんがナデシコに乗ったのって、奥さんから逃げる為っすか?」
「ば!ばか、ちがうわい!!」
「じゃ、なんで?」
「なんでそんなこと聞くんだ?」
ウリバタケに問いなおされてアキトは改めて自分の発言を省みる。そして自分の考えをまとめるように呟いた。

「さっきアキさんが言ってたっすよね?『何のためにナデシコに乗ったのか?』って。
 オレは最初、火星が故郷だからもう一度見てみたい、そんな風に考えていました。
 でもよく考えるとそうじゃないんだって気がついたんっすよ。
 あそこが地球から見捨てられて、毎日毎日木星蜥蜴に脅えて暮らしていて、あんな暮らしはもうまっぴらだって今まで思っていた。
 んで運良く地球に戻れて・・・だけど」
「だけど?」
「結局地球でも木星蜥蜴とかに脅える毎日だったけど、アキさんに『火星に行かないか?』って誘われて思ったんっすよ。」
「なにを?」
「地球は曲がりなりにも軍に守られている。しかし、それでも脅えている自分って何だろう?
 脅えているフリをして忘れたがってるんじゃないのか?あの火星での出来事を。」
「・・・」
「そう思ったら火星に行かないといけないんじゃないのかって思ったんです。
 行って火星の人達の安否を確認して・・・あの時の恐怖に立ち向かわなきゃ一生脅えるだけの生活をしなきゃいけないんじゃないか・・・って思ったんです。
 だからアキさんの誘いにのってナデシコに乗ったんです。
 でもそれは皆に押しつけるべきものじゃない。
 だから・・・」
アキトの言葉に一同は感じ入った。それは今の生活の継続という選択肢ではなく、ナデシコに乗るという選択肢を選ばせた動機を思い起こさせるものだった。

ウリバタケ「オレはただ過ぎる日常から逃げ出したかったんだよ。女房子供の為って我慢しながら自分のやりたいことができないまま時間だけが過ぎて行くのがたまらなく嫌だった。
 何か残したかったんだよ。オレがやりたい事をやって、それが何かになる事を。」
ジュン「じゃ、なんで宇宙軍じゃ・・・」
ウリバタケ「宇宙軍じゃ命令には逆らえん。」
ジュン「そりゃ、軍なんだから・・・」
ウリバタケ「その命令にたとえ疑問を持ったとしてもか?それが自分の信念に反していてもか?」
ジュン「それは・・・」
ウリバタケ「それならまだ女房の尻の下のほうがましだ。そういうあんたはあのムネタケの下で働けるのか?」
ジュン「・・・」
ウリバタケ「そういうことさ。」
そんな彼等のつぶやきは他のクルーに伝播して行った。

メグミ「私は職場の男の人達が軽薄だったからかな〜〜」
ミナト「メグちゃんの価値判断基準って男の人なんだ。」
メグミ「そうじゃありませんよ!」
ミナト「じゃぁ、なに?」
メグミ「あんな環境に浸ってると自分まで日々をどうでもよく過ごしちゃいそうで・・・。それがたまらなく嫌だったんです。」
ミナト「・・・その気持ちわからなくないなぁ。わたしもそんなだったし・・・」
メグミ「ミナトさんもですか?」
ミナト「あんなしかめっ面の人間達の中で毎日判を押したような生活して・・・窒息しそうだったな。」
メグミ「ふうん・・・」

とか、

ラピス「ルリは何でナデシコに乗ったの?」
ルリ「・・・別に。私にしか操作できないコンピュータがあるからって。」
ラピス「ラピスはルリがいるって聞いたから」
ルリ「・・・私が?」
ラピス「うん。私の気持ちをわかってくれる人がいるって聞いた。」
ルリ「誰から?」
ラピス「闇の王子様・・・懐かしい感じがした。」
ルリ「・・・・・私もそうかもしれません」

ガイ「オレはだなぁ・・・」
一同「ロボットに乗りたかったからでしょ?」
ガイ「・・・・・はい。」

などなど。
ただ、それは確実にみんなの意識を変えていたのであった。



そして・・・


その先はほとんど元の歴史と変わらない。
反乱騒ぎというものはなかったが、チューリップの活性化によるドタバタ劇はやはり起った。
さすがに今回の歴史ではアキトが陸戦フレームで飛び出す・・・なんてバカな事も起こらなかった。(当然ガンガークロスオペレーションもなし)
厄介なムネタケは宇宙軍に押しつけたし、ジュンが置いて行かれるという事もなかった。
・・・ナデシコがチューリップにつっこんでグラビティーブラストをぶっ放すっていうのだけは一緒だったが(苦笑)

歴史の流れはほとんど変わらなかった。しかし人の心のありようだけは確かに変わりつつあった。それが後の歴史にどれほどの影響を与えるはわからないが、変わりつつあるのだけは確かだった・・・。



ポストスプリクト


前編はおちゃらけ、後編はシリアス、どういう話なんだ、これ?(苦笑)
それはさておき、『プリンセス オブ ダークネス』の『ダークネス』の
部分はこういう事です。多分アキなら本気でやりかねん・・・

取り敢えずジュンが置いて行かれるような事はなく、ガイが殺される要因は
除いておきましたが、さてはて3話はどうなるのやら。(笑)

このお話はリベ2と黒プリ外伝と平行して書いていたのでわけわからなくなりながら書いてました。しばらくはSecond Revengeを頑張ります。

ということでもしもおもしろかったなら感想をお願いします。
次回は4万ヒットぐらいでお会いしましょう。

では!

Special Thanks!!
・みゅとす様
・say様
・9R 様
・AKF-11 様
・英 貴也 様