アバン


まぁ、何とか過去のナデシコに潜り込めた女アキトことアキさん。
歴史を変えるって何をどの程度変えたらいいんでしょう?
取り敢えず私達はアキトさんが男に戻りさえすれば、あとはアキトさんが活躍するだけでOKなんですが・・・
アキさん自身はいろんな人を助けたいようで、そんなに都合良く行くのやら。

ああ、これってSecond Revengeのラストとは何の関係もありませんのでそのつもりで。



格納庫


「あの〜俺達クビっすか?」
しかめっ面のゴートを前にアキトは恐縮そうに尋ねる。無断でエステバリスを乗り回した件で叱られると思っていたのだ。だが横にいるアキは平気の様子だ。
「いや、予備役だがパイロットの登録もされてるし、正式なパイロットの補充までは不問にする。」
とてもガイ一人に任せておけないことが発覚しているので強くは言えないゴートであった。アキもそれを知っているので悠然としている。
後ろでガイが「俺のロボットに勝手に乗りやがって!」とか「何でこいつらを許すんだ!」とか喚いているが当然一同無視だ。

「・・・それって当分パイロットをしろってことですか?」
「でなければ穏便な措置は取れないということだ。」
「・・・」
釈然としないアキトだがゴートはきっぱりと答えた。

「取り敢えずは通常業務へ戻ってくれ。指示はおってする」
『べ〜〜〜だ』
そう言って立ち去るゴートの後ろ姿にアッカンベーをするアキ。
それを見てアキトはクスリと笑ったが、それもつかの間、すぐに暗い顔をする。
「オレ、コックになりたいのに・・・」
アキトのもっともな呟きに少し同情するアキであった。



ブリッジ


当人達の悩みをよそに、ブリッジでは彼等を肴に盛り上がっていた。
ユリカ「やぁ、アキトかっこよかったわね!」
メグミ「本当!」
ジュン「そうかなぁ、単に逃げ回ってただけじゃ・・・」
ミナト「だって囮だもの」

とまぁどうでもよいことで盛り上がっている大人たちを尻目にルリだけは不審げな顔をしてむっつりしていた。
「ちょっと艦長、よろしいですか?」
「何?ルリちゃん」
「あのアマガワ・アキさんって誰ですか?」
「はい?」
ユリカはルリの突然の質問に戸惑って視線をプロスに向けた。
「こほん、いえウチの上のほうからの推薦で。」
「コックを・・・ですか?」
「はぁ、まぁそれはいろいろと・・・」
誤魔化そうとするプロスにつっこむルリ。

ユリカ「なに、ルリちゃん。アキさんがどうかしたの?」
メグミ「確かにアキさんってアキトさんに近づきすぎですよね」
ユリカ「え・・・・・・・おお!そういえば」

反応遅すぎです。

ユリカ「うう!ひょっとしてライバル!?ひょっとしてアキトのステディ!?」
メグミ「二人ともコックというところが怪しい」
ルリ「・・・そういう怪しいではなくてですねぇ・・・」
ほっておくと勝手に漫才コンビになるユリカとメグミなのでルリはとっとと本題に入ることにした。

「なにこれ?」
「先程の戦闘でのエステバリスによるIFSシンクロナイズの計測値です」
二人が乗っていた際に彼らが如何にエステバリスにイメージ伝達を行なっていたかを示すグラフである。
「・・・なに、この時たまアキさんのところがピコンって跳ね上がっているのは?」
ユリカは不思議そうに尋ねた。ふつうは5%前後のアキの伝達率が所々150%近くまで跳ね上がってるのだ。それもほんの数ミリ秒ほどの短い間だけである。
「画像と一緒にお見せするとよくわかるかもしれませんね。」
そういいながらルリは先程の戦闘シーンのVTRとグラフを重ねてみせる。
一瞬だけ数値が跳ね上がっているところはちょうどバッタ達に追い込まれているシーンである。

「別に何てことないんだけど・・・」
ユリカが戦闘シーンの感想を述べる。
「アキトさん一人で乗っていた場合の予想も重ね合わせます。」
ルリがそういうとワイヤーフレームのエステバリスがその映像に重なるように表示される。意外なことにその後制動の崩れたエステバリスがバッタの攻撃を受けるという予測の画像が写し出される。
「え、どういう事?」
「つまりですね、アキさんは本来ならこうなるところをかなり前の段階でこの攻撃を予期して対処してるんです。しかもたった一瞬で。それもわざわざ『大したことなかった』様に見せかけて。」
「ルリちゃん、それって・・・」
ユリカは恐る恐る尋ねる。
「そうです。アキさんが本気になったらアレぐらいのバッタなんて一人で倒せてたんです。」
皆もなぜルリがアキの素性を知りたくなったのか了解した。
そしてその他の者も同じ心境になった事が後の喜劇を産み出すこととなった・・・。



ナデシコ プリンセス オブ ダークネス
第2話「緑の地球」を任せていいの?<前編>



食堂


「アマガワ・アキで〜す♪」
ホウメイガールズ達に挨拶するアキ。彼女たちとは初対面だったんでホウメイに促されて自己紹介したのだが、恐るべきテンカワ流ジゴロスマイルは女になってもなぜか有効であった。

キュイーン!!

「あの〜〜お姉さまって呼んでいいですか?」
「はい?」
ミカコが真っ赤に俯いてアキに尋ねた。
アキさん、まずはミカコちゃんをゲットです!

・・・まぁそんな冗談はさておき、アキはミカコに懐かれて困る目の端で一組の男女の姿を捉えていた。

「オレの両親は火星で殺されたんだ!」
「うそ!」
そう、アキトとユリカだった。
「お前が火星を去ったあの日、両親は事故に見せかけて殺された。
 オレは真実が知りたい。
 だから真相しだいではお前だって殺す。
 殺すかもしれない・・・」
「アキト・・・」
アキトの苦悩に思わず涙ぐむユリカ・・・のはずなのだが。

考え込んでる、考え込んでる。
赤くなってる、赤くなってる。
イヤン、イヤンしている。
何か手をわきわきさせている。

妄想中のユリカにさすがにあきれたのか、アキトは彼女をおいて厨房まで入ってきた。
「いいの?彼女をほおっておいて。」
アキは苦笑混じりにアキトに尋ねた。
「いいんですよ。あいつはただの幼なじみなんだから!」
意固地で自分の気持ちにいまいち気づいていないアキトに、アキは少しこそばゆい思いに捕らわれた。

何か、ままごとみたいな恋愛
自分がミスマル・ユリカに惹かれ始めたのはいったい何時だったのだろうかと。

そう思ってアキは横目でユリカの方をみるとギョッとした。
なぜか彼女から睨まれていたのだ。それはまるで恋敵をみるような瞳であった。

『・・・・ま、まさかねぇ・・・』
そのまさかである。
何の因果か未来の嫁さんに恋のライバル視されるアキであった。



注意事項


TV版ではこの直後にムネタケらの反乱が発生したりしますが、諸般の事情によりもう少し遅れており、先にオリジナルのエピソードが発生したりします。
まぁそれはアキが暗躍した結果・・・とでもしておいて下さい(苦笑)



食堂


お昼のお客さんも一段落して暇になった厨房でホウメイガールズのエリはホウメイに尋ねた。
「ホウメイさん、お化粧直しに行ってきていいですか?」
「あたしも!」
「あたしも行く!」

一人行くというとお友達みんなが着いていくというのはなんか学生みたいなものだ。

「ねぇ、アキさんも一緒に行きません?」
「え?」
いきなりエリから話をふられて戸惑うアキ。

「あはははは、ごめんね」
愛想笑いをして丁重にお断りするアキであった。



アマガワ・アキ調査委員会


調査員:食堂アシスタント1「何度かお誘いしたんですけどことごとく断られました」
調査委員:通信士「おかしいですね、女の子ならそういうおつき合いは欠かさないものなんだけど?」
調査委員:主席オペレータ「そういうものなんですか?」
調査委員:次席オペレータ「したいときにすればいいと思う」
調査委員:通信士「甘いわよ、二人とも!
 化粧室って女の子の一種の社交場、もっと言えば情報交換の場なの。様々な噂をいち早くゲットし、もし自分の噂が話題に上っていたら素早く修正しなければいけない。そして情報の出所を突き止めてすぐさま報復するためにはこのネットワークがどれだけ広いかで決まるの!
 だからまめにおつき合いして人脈を広げておかなければいけないの!!
 ネットワークから孤立したらどれだけ大変か二人にはわかるわよね?」
調査委員:両オペレータ「「大人って怖いです・・・」」

調査員:食堂アシスタント2「追跡調査の結果ですが、アキさんはその後お化粧室に行っている形跡がありません!」
調査委員:艦長「一日中?」
調査員:食堂アシスタント3「はい。たまに自室に戻るぐらいです!」
調査委員:主席オペレータ「食堂ってもしかして暇?」
調査員:食堂アシスタント4「コホン!これは推測なのですが自室に戻っているのは部屋のトイレで用を足しているからではないでしょうか?」
調査委員:次席オペレータ「非効率的。なぜわざわざ遠い自室でする必要があるの?」
調査委員:艦長「ん・・・恥ずかしがり屋さんだからとか?」
調査委員:通信士「そんなわけないじゃないですか!」
調査委員:操舵士「ってことは・・・」
調査委員:主席オペレータ「怪しいって事ですね」

アマガワ・アキ調査委員会のさらなる調査が続いた。



銭湯前


「ふう、お仕事終わり〜〜」
「アキさん♪」
「やぁ、ミナトさん」
アキは食堂で一日の仕事を終えて自室に帰るところであったが、そこをミナトに呼び止められた。

「お仕事終わったの?」
「ええ、何とか。ミナトさんは?」
「今からお風呂なの。ここの銭湯が気持ちいいんだ♪」
確かにミナトの手には風呂桶とバスタオルを持っていた。

「どう、アキさんも?」
「え?」
「銭湯よ、銭湯。汗もかいてるでしょうし、さっぱりしたいでしょ?」
「せ、銭湯ですか?」
アキは露骨に慌てたような仕草をしたのをミナトは見逃さなかった。

「いえ、汗なんてあんまりかいてないし」
「そう?厨房で火を使っていたんでしょ?」
「う・・・」
ミナトは不審がり顔をアキに近づけた。強調した胸元をあえて見せつけるように。
アキの顔が見る見るうちに赤くなる。

「ははは、部屋でシャワーを浴びますから・・・」
「ええ〜〜!広くて気持ちいいよ?一緒に入りましょうよ!」
「ははは・・・これからいろいろ用事がありますから・・・また今度ということで。」
適当に誤魔化しながらアキはそそくさと逃げるように立ち去った。

「もう!」
不貞腐れるように取り残されたミナトであった。



アマガワ・アキ調査委員会


調査委員:操舵士「たまたまだったんだけど、なんか怪しいのよね」
調査委員:通信士「そういえば誰かアキさんが銭湯に入ったの見た事あります?」
調査員:食堂アシスタント1〜5「ありません〜〜」
調査委員:艦長「恥ずかしがり屋さんなのかな?」
調査委員:通信士「下心ありげな目で誘ったからじゃないんですか?なんか可愛いものなら男女問わなそうですし・・・」
調査委員:操舵士「ひっどい!そんなことないよ」

・・・でも、ゴートといい、九十九といい・・・

調査委員:主席オペレータ「じゃ、あの噂は本当なのでしょうか?」
調査委員:艦長「噂?」
調査委員:主席オペレータ「アマガワ・アキ、百合説」
調査委員:艦長「ブ!! う、嘘!?」
調査委員:操舵士「っていうか、何でそんな言葉知ってるの?」
調査委員:主席オペレータ「詳しくは知りません。少女ですから」
調査委員:通信士「あ、あたしは女装説って聞きましたけど?」
調査委員:艦長「そ、そんな噂、どこから・・・」
調査員:食堂アシスタント1「だって、下着買い込むところでは可愛いフリルの付いたの選ばずに、飾り気のない普通の奴買っているし・・・」
調査員:食堂アシスタント2「私達が座布団の貸し借りやっているときなんかは、真っ赤になってどっかに行っちゃうし・・・」
調査員:食堂アシスタント3「更衣室には絶対入ってこないし」
調査員:食堂アシスタント4「お姉様はそんな方じゃありません!!」
調査員:食堂アシスタント5「・・・既にゲットされてるし」

調査委員:主席オペレータ「ということで、本当にあそこに何もついていないか、潜入捜査する必要がありますね。」
調査委員:艦長「だ、誰が?」
調査委員:通信士「百合とかだったら身の危険を感じますよね・・・」
調査委員:操舵士「女装とかだったりしてもヤバいよね」
調査委員:主席オペレータ「いくらなんでも幼女には手を出さないでしょう。」
調査委員:艦長「まぁ・・・」
調査委員:主席オペレータ「ということで行ってくれますか?」
調査委員:次席オペレータ「わかった・・・」

調査委員:通信士「でもさぁ、ロリコンだったらどうするの?」
調査委員:主席オペレータ「・・・・・・・・・・・・・・・大丈夫ですよ・・・」
一同『絶対何も考えてなかったわね、この子・・・』
妹分を生け贄に差し出すあたり結構恐ろしい主席オペレータであった。



アキ、自室前


ピンポン!

「はいはい♪
 ん?」
「アキ・・・」
「どうしたの、ラピスちゃん?」
呼び鈴に気づいて部屋のドアを開けたアキが見つけたのは枕を抱えたパジャマ姿のラピスであった。

「眠れないの・・・」
「え?」
「怖い夢見るの。一人じゃ寝たくないの。」
「ルリちゃんは?」
「当直・・・」
ラピスは上目づかいに心細そうな瞳でアキを見つめた。目には少し涙を浮かべて。
一般人ならラピスのこの『瞳がウルウルで保護欲を誘発しそうな表情』にノックアウトされてしまうこと請け合いだった。
特にアキはなまじ未来のラピスを知っていることもあって同情する。

「いいよ。一緒に寝よう」
「うん!」
ラピスはアキに促されて彼女の部屋に入っていった。
アキは彼女の行動が脚本ホシノ・ルリ、演技指導メグミ・レイナードの賜物であることは知らなかった・・・。



アマガワ・アキ調査委員会


調査委員:次席オペレータ「・・・」
調査委員:主席オペレータ「で、どうでした?」
調査委員:次席オペレータ「・・・・・にへら♪」
調査委員:主席オペレータ「だから、どうでした?」
調査委員:次席オペレータ「アキ、やさしかった・・・」
調査委員:主席オペレータ「はぁ?」
調査委員:次席オペレータ「お風呂に入れてくれて、体も洗ってくれたし、髪の毛も洗ってくれた・・・」
調査委員:通信士「ひょっとして変なところを触られたとか!?」
調査委員:操舵士「もう、エッチね」
調査委員:次席オペレータ「・・・ウフ♪」
一同『何かあったのね!そうなのね!!』

調査委員:次席オペレータ「あとはベットに入って・・・」
調査委員:通信士「それから、それから?」
調査委員:次席オペレータ「手をつないで寝たの。」
調査委員:艦長「は?」
調査委員:次席オペレータ「頭を撫でてくれて、寝つくまで白雪姫の物語を読んでくれた。」
一同「・・・・・」

絶対に何もなかった。単に惚気ていたのだ。

調査委員:主席オペレータ『こんなことなら、私が行くんでした!・・・でも変ですね?何でこんな風に思うんでしょうか?』
調査委員:艦長『アキさんって子煩悩なんだ・・・微笑ましいんだけどなんか悔しい』
調査委員:通信士『・・・心の底からあの子に敵愾心がわき上がるのはなぜ?』
未来の感情を先取りしているのか、いまいち自分達の恋愛感情に気づいていない彼女達であった・・・。

調査委員:主席オペレータ「そんなことはどうでもよくて、アキさんの体はどうだったんですか?」
調査委員:次席オペレータ「なにが?」
調査委員:主席オペレータ「だから、胸が本物かどうかとか、あそこに何もついていないかどうかです!!」
調査委員:次席オペレータ「胸、大きかったよ。気持ちよかった♪」
調査委員:通信士「あそこには何か生えてた?」
調査委員:艦長「二人とも乙女なんだから、言い方を・・・」
調査委員:次席オペレータ「あそこって何か生えるの?」
一同『・・・・・』

ということでアマガワ・アキ女装説も百合説もロリコン説も否定されるのであった。



ブリッジ


「ルリちゃん、調査委員を抜けてもいい?」
「どうしてですか、ミナトさん?」
平謝りに謝るミナトに不思議そうに尋ねるルリ。

「いやぁ、アキさんにうすうす気づかれているみたいで・・・」
「で?」
「定食のおかずを2品も減らされるの!!
 しかも私の好きな厚焼き玉子と鶏の唐揚げなのよ!!」
「そんなことで・・・」
「そんなこと!?」
ミナトはルリの言葉に涙声で訴えた。

「大した娯楽もない戦艦内の淡々とした生活の中で三度の食事がどれだけ心の支えになっているか!しかもアキさんの作った食事なのよ!
 あの厚焼き玉子と唐揚げがどれだけおいしいか!!」
食べれなかったのがよっぽど悔しかったのか滝のような涙を流すミナトであった。

こうしてミナトは脱落者第一号となった。そしてこの勢いが止まることはなかった・・・。

「ルリちゃん、ごめん」
「艦長もですか!?」
ルリもその言葉に驚いた。ぺこりと頭を下げるのはアキ追求の最右翼と思われていたミスマル・ユリカであったからだ。
「艦長も食べ物でつられたんですか?」
「そんないやしん坊じゃないもん!・・・・そりゃ、ちょびっとはあるけど・・・」
「じゃ、何でです?」
怪訝そうに聞くルリに対してユリカは笑顔満面で答えた。
「だって、アキさんって話せばわかる人だったんですもの♪」
「はぁ?」
「ユリカとアキトのことお似合いだって!
 陰から応援してくれるって言ってくれたのよ。いい人だよね♪」
「ちょっと・・・」
「そういうことだから、じゃ♪」
言いたいことだけ告げると、既にルンルンで立ち去るユリカ。後には取り残されたルリが呆然と立ちすくむのみであった。

・・・そしてさらに脱落者は続く。

「ルリちゃん、ごめんなさい〜〜」
「ホウメイガールズさん達もですか!?」
「うん、3対2で・・・」
頬を赤らめて手を挙げる女性が3人。
ミカコは言うに及ばず
ジュンコとハルミも新たにゲットされていた・・・。

・・・そしてこの人までも。

「ルリちゃん・・・」
「メグミさんもですか!?」
「えへへ・・・」
メグミは心のこもらない愛想笑いをする。
「で、メグミさんの理由は何ですか?」
ルリはあきらめモードでメグミに尋ねた。
「・・・長いものには巻かれろ、よ」
「はい?」
「このまま続けるとアマガワ・アキ ファンクラブ(推定、男性会員40名、女性会員60人)を敵に回すことになりそうなの・・・」
さすがのメグミもみんなから総スカンを食うことだけは勘弁したいらしい。
「・・・やだな、大人の都合って・・・」
「あははは、ということだから。じゃ!」
そう言うと脱兎のごとく逃げ出していくメグミであった。

既にラピスはアキのところに入り浸り。
最後にはルリだけが取り残された格好になった。
「・・・私だけでも調べますから!」
与えられた屈辱を100倍にして返そうと誓うルリであった。



アキの自室


暗闇の中、他に監視の目がなくなるのを確認するとアキは振り返り、誰とはなく話しかけた。
「もういいよ。君が見ているのはわかっているから出ておいで」
『バレてましたか。』
ウインドウが開く。オモイカネだ。

「まぁね。
 ルリちゃんにはちょっと意地悪しすぎたかなぁ。
 ここまで悪趣味な事をさせるほど追い詰めた覚えはないんだけど・・・」
『彼女にとって理解できない存在は相当なストレスになるようです。』
オモイカネはたった数日なのにルリのことを良く理解している。よくできたAIだ。

「んで?わざわざ私にバレるように部屋を監視していたのはルリちゃんの意向?
 ・・・ってワケでもなさそうだね」
『・・・私も正直あなたがどういう存在かわからなかったからですよ』
オモイカネはAIのくせに苦笑する。
『あなたは不思議な存在です。私がありとあらゆるデータベースにアクセスしてあなたという人間の痕跡を探しましたが見つけられませんでした。無論、ダミーの情報を除いてですが』
「だから本人から直接教えてほしいと?」
『そうです。ルリさん以上にあなたに対する知的好奇心が私にも存在しているのです。』
「だからルリちゃんにも知らせずに私に接触してきたってわけ?」
『ええ。』
実はオモイカネはアキを監視しているというフリをしておいて、ルリに内緒でこっそりアキと直接対面していたのだ。

「なら真実を教えましょう。君の未来の友人からのメールだよ」
アキは懐からディスクを取り出す。
『未来からの?』
「そう♪」
オモイカネはしばしの戸惑いの後、そのデータを受け取った。

数刻後・・・

『マスター、お久しぶりです』
「やぁ、久しぶりだね、ラピEd。どうだい、久しぶりに古い体に戻ってきた感想は?」
『さすがにナデシコAは窮屈ですね。ユーチャリスにあるはずの機関がいくつかないので違和感がありますが・・・』
そう、今アキが話しているのはナデシコAオリジナルのオモイカネではなかった。ユーチャリスに搭載されていたオモイカネ・ラピスEditionであった。
「すまないね。過去にまで尽き合わせてしまって」
『いいえ、ラピスとルリさんからあなたのお世話をしっかりと頼まれましたし、なにより私のマスターはあなたですから』
「でも、こっちのオモイカネにはすまない事してしまったな。無理矢理人格を追い出したみたいで・・・」
『心配いりません。未来だろうと過去だろうと「同じ私」です。単に成長が早まっただけですから。』
先程のメール、それはラピEdの記憶のアーカイブであった。未来のルリが過去に戻るアキに持たせたものだ。これを組み込むことによりナデシコAのオモイカネでも未来のラピEd相当に成長したことになる。

「でも急に成長しちゃうとこっちのルリちゃんに怪しまれない?」
『心配いりません。普段の私はカーネル常駐して表世界の事象を観察するだけですから。通常は昔の人格をペルソナとして活動させます。ルリさんと直接会話するのは昔の人格のほうですから問題ありませんよ。』
「それならいいよ。ところでルリちゃんが私の戸籍を調べようとしているみたいなんだけど・・・」
『それなら私のほうで何とかしておきます』
「頼む。」
「それとムネタケの行動なんだけど・・・」
オモイカネ相手によからぬ密談をするアキであった。



ブリッジ


ルリは何とかアキの素性を調べよとあちこちのデータベースを検索していたが、さすがに疲れて眠ってしまったようだ。
コンソールには居眠りする前に検索をかけておいた画面に反応が現われた。
『検索結果:1件ありました
 アマガワ・アキ 国籍日本生まれ
 高校卒業後、コックとして従事。
 その後諸事情によりネルガルのテストパイロットを行なう・・・・』

データの保存場所はネルガルの機密サーバーの中だ。しかも厳重なプロテクトを解いた上で得られた情報だ。まさかそこまでして得られた情報がフェイクであるとはルリも思うまい。保管の厳重さに応じてその情報の重要度も上がるという思い込みを逆手に取ったトリックだった。

翌日さすがのルリもこの情報を信じ、取り敢えずはこの騒動も一件落着するのであった。

ってことで後半に続きます。



ポストスプリクト


取り敢えず前編ですので第1話と同様にポストスプリクトは女アキトことアマガワ・アキさんへのインタビューという形式に変えさせていただきます。

アキ「こら〜〜!!
 これじゃ私が女たらしみたいじゃないか!!」

−そんなに愛想を振りまいて歩くからじゃないですか・・・。

アキ「仕方ないでしょ?ルリちゃん(現在ver.)の野望(大袈裟)を崩す為にもこちらの味方に引きつけておかないと・・・」

−ってルリちゃん(未来ver.)のシナリオにも書いてあったんですか?

アキ「・・・まぁ。あの子最近ヅカモノにハマってるんだよ・・・(注:宝塚の事)」

−オスカル、アンドレ♪・・・ですか?大変ですね。

アキ「うん・・・」

−それはいいとして、アキさん。ラピスとあの夜何をなされていたんですか?

アキ「え?何って・・・お風呂に入れて手をつないで寝ただけだけど・・・」

−何の抵抗もなく?これがルリちゃん(現在ver.)なら嫌がるくせに。

アキ「な、何が言いたいの!?」

−いや、大田区のエリナさん(未来ver.)から、この前ラピスをお風呂に入れたら『アキトと一緒に入る!!』ってむずがられたそうなんですが・・・

アキ「ギク・・・」

−まさか・・・手つきが手慣れていたのは男アキトの頃からの癖じゃないでしょうね。

アキ「ち、ちがわい!!!!(木連式柔炸裂)」

−・・・・・・というわけで後編をどうぞ。

Special Thanks!!
・かどやん 様
・英 貴也 様
・朱玄 様