アバン


まぁ、未来の為に女アキトことアキさんが過去に行ったのはいいのですが、本当に過去なんて変えられるんですか?
単純なエリナさんならともかく私やラピスまで変えようなんて欲張りすぎると、あとで反動がどう来るかわからないんですけど・・・

ああ、これって短編ですからSecond Revengeのラストとは何の関係もありませんのでそのつもりで。



未来を変えるための作戦その5


メグミ「私はふつうに恋愛したいから未来を知らなくてもかまわないわよ。それでもたぶんアキトさんに恋をすると思うし」



ナデシコ・乗員昇降用デッキ


デッキで待っていたアキとアキトが見たものは、ラピスを引きずってきたプロスと、そのラピスに引きずられてきたルリの姿であった。
「すみませんお待たせして・・・」
「いいですよ。何となく理由はわかりますから」
アキはその何とも珍妙な一行に対してそう返事をせざるを得なかった。

プロスはエリナからの紹介状に目を通していた。実は事前にエリナから連絡がいっておりアキとアキト用のエステバリスも搬入されていたりするのだがそれは後のお話。

「いやぁ、腕のいいコックさんは是非とも欲しかったところなんです。何せ我が社は福利厚生施設の充実をモットウとしておりますので。
 とその前に・・・」
プロスはさっとDNAによる戸籍照合端末を取り出してアキの舌に押しつけようとした。
だがアキはさっと身をかわした。プロスは意外そうな顔をしてもう一度モーションをとろうとしたがアキに隙がないことに気がついた。
「ほう、なかなかやりますね」
「いえいえ、あなたほどでは」
「でも身元の確認はさせていただきませんと・・・」
「乙女の秘密に立ち入っちゃだめですよ。」
「「フフフ・・・・」」
不気味に笑いあうプロスとアキ・・・結局はプロスの方が折れた。代わりにアキトの方は問答無用で調べられた。

「1年前まで火星に!」
プロスはしげしげと二人を見る。
アキといい、アキトといい、彼ら二人が訳ありだということに再認識せざるを得なかった。あの気位の高い会長秘書が紹介状まで書いてよこすはずである。
「いいでしょう。お二人とも今日からナデシコのコックさんです!」
そういってプロスは契約金を提示してから契約書を差し出した。給料はかなり満足できるレベルだった。

「それでは食堂にご案内します。当艦のシェフを努めてもらってますホウメイさんにご紹介します」
プロスの先導で一同は食堂へ向かった。
当然ルリも『なぜ私はこんなところにいるの?』という表情をしながらも一緒に着いていったりする。なぜならまだラピスがしっかりとプロスと彼女の手を握っていたからだ。
あきらめモードながらもルリはあることが気になって、隣を歩いていた黒ずくめの女性であるアキを眺めた。

『闇の王子様・・・つまり男性ではないがそれ以外はぴったりのイメージだ。
 この人が暗号の手紙の主なのかな?』
ルリはそう思うと思った疑問をそのまま口に出した。
「あなた、闇の王子様ですか?」
「え?」
「いえ、心当たりがなければいいんです」
「ははは、何かの小説かな?」
ちょっと恥ずかしげにそっぽを向くルリに対してアキは冷や汗をかいた。
『そういえばルリちゃんって最近『世界を革命する力を』とか叫ぶ漫画に熱中してたっけ・・・』
こちらの世界のルリに送ったメールにどんな内容が書いてあるか怖くて聞けないアキであった。



ナデシコ プリンセス オブ ダークネス
第1話「女らしく」で行こう!<後編>



ナデシコ・食堂


「いやぁ、包丁を握れる人間が来てくれて助かったよ」
開口一番、ホウメイは気持ちのいい挨拶をしてくれた。
「すみません、シェフがいるのに押し掛けてしまって」
「よろしくお願いします!」
アキが愛想良く答えて、アキトは緊張気味にお辞儀をした。

「こら男子、とって食おうってわけじゃないんだから」
「すみません」
「それよりあんた達、何が作れるんだい?」
緊張しているアキトをほぐすとホウメイは二人の得意料理を尋ねた。
「オレ、一応中華料理屋で修行してたっす」
「私もメインは中華料理です。その他は凝っていなければ一通りは作れますが・・・」
「へぇ偶然だね。」
同一人物なのだから一緒で当たり前なのだか・・・と苦笑するアキだった。

とそんなところに二人の女性が入ってきた。
「こんちわ!」
「お邪魔します〜」
ミナトとメグミである。
「おやおや、ブリッジクルーが二人して」
プロスが少し非難がましくいうが二人は意に介さなかった。
「だってあのキノコ頭がうるさいんだもん」
「それに艦長が来るまでこの艦って動かしようがないんでしょ?」

ナデシコは艦長がマスターキーを差し込むまで動作できません。

「しかしですねぇ・・・」
「まぁまぁプロスさん、ちょうど新入りのコック二人の腕を見るのに試食を作ってもらおうと思ってたんだよ。
 どうだい、食べてくかい?」
「「食べる!食べる!」」
プロスを押さえてホウメイは二人に提案した。ミナトとメグミはタダ飯にありつけるとあって大喜び。
「おチビさん達も食べるだろう?」
「・・・ええ」
「コクン」
ホウメイがウインクして言うとルリはむげに断るわけにも行かず、ラピスはルリを見習って素直にうなずいた。
プロスはやれやれと両手を上げて見せた・・・。

お題はチャーハン、さっそく6皿分の料理に取りかかる二人。
とはいえ調理の間、アキとアキトはルリ達女性陣観衆の中で調理せざるを得なかった。
まずアキの調理だが全てに無駄がない、流れるようなよどみのない手つきであり、誰もが感嘆の声を上げた。
それに比べればアキトの調理は所々で詰まったり、迷ったり自信なさげにしている。アキと比べる方がかわいそうだろう。
だが、女性陣の反応はこうだった。

ミナト「いい匂い〜あの女の人のチャーハンおいしそう!」
メグミ「ん・・・私は男の人の方がいいなぁ」
ミナト「彼にアタックしたいから?」
メグミ「そ、そんなんじゃありませんよ!」
ミナト「アキさんっだっけ?彼女の方が料理うまそうだよ?」
メグミ「黒づくめなんて怪しげですよ」
ミナト「嫉妬?姿と料理の腕は関係ないよ」
メグミ「そうじゃなくてなんていうか・・・一生懸命になっているところがいいんですよね。」
ミナト「ふーん、メグミちゃんは食い気より色気なんだ。何となく男の好みがわかったような気がする」
メグミ「ちがいますってば!!」

とか大人達が思っていれば
「・・・チキンライスの方がよかったな・・・」
とか思いながらルリはアキとアキトの調理を見ていた。アキのそれは料理に疎いルリが見てもうまいのがわかった。アキトはアキと比べるまでもないが、それでも一生懸命に調理する姿はニヒリストのルリでも好感の持てるものだった。
そんなルリにラピスが不意に尋ねた。
ラピス「・・・ねぇ、チャーハンって何?」
ルリ「こういうものですよ」
ルリはオモイカネを呼び出して資料をウインドウに表示した。
ラピス「ルリ、物知りだね」
ルリ「そんなことありませんよ」
しかしルリはすぐに自分がバカな行為をしたことに気づくことになる・・・。

そして食堂の主のホウメイはというと
『アマガワの方はさすがだね。皿によって微妙に味付けを変えてある。いい心遣いだ。そしてテンカワの方は・・・』
ホウメイはアキトの方に視線をずらした。
料理に迷いがあるものの表情は真剣そのものだ。そして料理をする事自身が楽しそうにも見える。
『客によりうまいものを食べて欲しいっていう情熱があるだけでも合格かな・・・』

そしてプロスはというと
『ほほう、パイロットのおまけとしてコックを雇ったつもりでしたが・・・これはなかなかの拾いものかもしれませんねぇ』
プロスの二人に対する心証がプラスされてたりする。

そして試食タイム・・・

一同「お、おいしい」
アキの皿を一口掬って食べた感想である。大人達にはしっかりとした味付けに、子供達にはさっぱりとした薄味に、そしてチャーハンの命であるライスは油っぽくなくパリっと炒めてある。これならどこの料理店に出しても恥ずかしくないだろう。
満場一致で合格点である。

続いてはアキトだが
「なんだかアキトさんかわいそう・・・」
メグミは思わずつぶやいた。アキトの緊張はものすごく伝わってくる。
さすがにアキの料理の後とあっては彼の作ったチャーハンがみすぼらしく見えてくる。しかし半人前のコックのアキトには仕方のない実力の違いだった。
「まぁまぁ、食べてみようよ。」
ミナトは慰めるようにいうと率先して一口掬って食べた。
それを注視するアキト。
「うん、悪くないんじゃない?アキさんほどじゃないにしても素朴な味で。
 出来れば少し塩気が欲しいかな?」
その一言でみんなは続くように食べ始めた。

アキトの味付けは基本的に子供達の味覚にあわせていた。彼に皿ごとに味を変えるだけの余裕も腕もなかった。
だが食べる相手のことだけはしっかりと考えていた。

「おいしい・・・」
「よかった!」
ルリがぽつりという。そこでアキトは初めて安堵の声を出した。
「心配してたんだよ。君に気に入ってもらえるか」
「何がです?」
アキトの言葉にルリは不思議そうに聞く。
「君、あんまり好みじゃなさそうな顔をしてただろう?」
「・・・」
そんな顔をしていただろうか?確かにチキンライスの方がいいとは思っていたが・・・
「オレのせいでチャーハンが嫌いになったらどうしようかと思って心配してたんだ。」
その笑った顔が何ともいえず素敵だった。

ルリは改めて知る。
ウインドウで知った情報に何の意味があったのだろう。
食事なんて空腹を満たすもの?栄養を補給するもの?
匂いも味もわからない、ましてや食べておいしいと思う感情や、料理を作ってくれた人の温かい気持ちなんてデータにはどこにも書いていなかった。
チャーハンを知らないラピスにとってデータなんて何の意味もないのに、そんな知識をひけらかして喜んでいたことに初めてに気がついたのだ。
『人形・・・か。そうかもしれない』

ルリは自己嫌悪に苛まれながらそう思った。

「ん・・・やっぱりおいしくない?」
「いいえ」
心配そうに覗き込むアキトに見つめられて、ルリは慌ててチャーハンを頬張る。『闇の王子様がアキトさんならいいなぁ』と思いながら

そしてそれを見ていたメグミは
「やっぱり一生懸命生きている人っていいなぁ・・・」
ちょっとアキトに興味を持ち始めていた。
みんながそれらの光景を微笑ましく見ているのをアキは満足げに眺めていた。

試食会の結果は二人とも合格、女性陣とプロスはそろそろ艦長が来るだろうということでブリッジに戻った。アキトたちはホウメイの計らいでナデシコ内の見学に回ることとなった。
無論、そろそろユリカがブリッジでブイサインをかまし、ダイゴウジ・ガイがエステバリスですっ転ぶ頃なのを見計らってのことだというのは言うまでもない。



未来を変えるための作戦その6


一同「やっぱり王子様は白馬に乗って颯爽と現れてお姫様のピンチを救ってくれないとね!!」



ナデシコ・格納庫


「ガイ!スーパーナッパー!!!」
格納庫に入ってきたアキとアキトを迎えたのは、拡声器から轟く暑苦しい声と、その数秒後奇声と共にズドーンと何やらすっころんだ音であった。
「へぇ器用に転けましたねぇ」
「・・・IFS使ってるからねぇ」
別に弁護する義理もないのだが、彼の人となりを知っているだけにそれとはなしにガイをフォローするアキ。

とそこに担架で運ばれるガイがアキトに声をかける。
「おーい、そこの少年!
 そのロボットの中にオレの宝物があるんだ。持ってきてくれ!」
右を向いても誰もいない、左を向いてもアキしかいない。
声をかけられたのが自分だと悟るとアキトは『何でオレが・・・』という顔をしながらもさっきの器用に転けたロボットが物珍しくて用事を引き受けることにした。

そしてエステに近づいてコックピットを覗き込むアキト。
「って何だよロボットの超合金かよ」
ゲキガンガーの超合金を繁々と眺めて呆れた。
「おーい、これでい・・・」
「はい、乗った乗った!!」
「ぅぅわぁぁぁ!!」
と、振り返ろうとしたアキトを黒い影がいきなり突き飛ばしてコックピットに押し込んだ。
「何するんですか!いきなり」
「ナニって・・・路上講習のじ・か・ん♪」
アキトをエステのコックピットに放り込んだ人物は続いて自らも同じエステバリスに乗り込んできたのだった・・・



ナデシコ・ブリッジ


「皆さん!私がナデシコの艦長ミスマル・ユリカでーす♪
 ブイ♪」
「「「「「「ブイ!?」」」」」」
そんなユリカの名台詞を一同が呆れて聞いた直後に木星蜥蜴の襲撃があった。

「どうするのよ!このままじゃ生き埋めよぉぉぉぉ!」
一人わめいているムネタケを余所に皆は対策を検討していた。
ジュン「地上部隊は?」
ルリ「とっくに全滅しているもようです」
ゴート「メインゲートからは発進できるか?」
ルリ「多分ゲートを開けた瞬間にバッタさん達に入り込まれて飛立つ前に撃沈かと・・・」
ムネタケ「じゃ、真上に向けて主砲を撃ちなさいよ!」
ミナト「わぁ最低〜」
メグミ「そうですよ。全滅とはいえまだ地上に人が残ってるんですよ!」
ムネタケ「うるさいわね!私さえ生き残ればそれでいいのよ!」
ミナト・メグミ「ひっど〜いい!!」

「艦長、君の意見を聞かせてもらおう」
そんな喧喧諤諤しているところでお飾りとはいえ一応提督のフクベが艦長であるユリカへ意見を求めた。
「いったん海底ゲートから出港、その後地上に浮上してグラビティーブラストにて敵を殲滅します!」
ユリカは慌てず騒がずきっぱりと答えた。
「それはいいが、その間敵がおとなしく待っていてくれるか?」
ゴート・ホーリーがもっともな意見を表明した。
そこでユリカの意図を察してガイが名乗りを上げた。
「そこでオレの出番!
 オレ様がエステバリスにて出撃!
 囮となって敵を引きつけている隙にナデシコは脱出!」
「って、あんた足が折れてるんじゃ・・・」
「そうだった!!」
ガイが自分の見せ場に張り切っているのをウリバタケが冷ややかにつっこんだ。

「他のパイロットは?」
「正式な搭乗は来週となっておりまして・・・」
ジュンが尋ねるとプロスが申し分けなさそうに謝った。
「他にパイロットはいないの!!!!!!」
「パイロットではありませんが、エステバリスなら多分操縦出来ると思います・・・」
あんまりうるさいのでルリが挙手をする。
「あんた行きなさい!」
「オペレータがいなけりゃ、ナデシコは飛ばないんじゃないの?」
「んがぁ」
ムネタケの無責任な発言をミナトがとっとと撃墜する。

「囮なら既に出てるけど・・・」
「「「「「「「へ?」」」」」」」
不毛な会話に巻き込まれていたルリの代わりにラピスがサブのオペレータとして現状を伝えた。
確かにラピスが出したウインドウには地上への搬送用エレベータにて陸戦フレームの赤いエステバリス1機が地上に向かっているのが映し出されていた。

「エステバリスに搭乗している者、名前と所属を名乗れ!」
ゴートが無断でエステバリスにのっているパイロットに呼びかけた。
「ども〜〜♪」
ウインドウが開くとともに、乗っていた人間達の愛想のよい返事が聞こえてきた。
プロス、ミナト、メグミそれにルリとラピスは驚いた。彼等は先程までウインドウの中の人物達と会っていたので余計だった。

『アマガワ・アキで〜〜す!』
『・・・テンカワ・アキトです・・・・』
なんというか、アキの前にアキトが座るという二人乗りの状態であった。男性陣にとってはうらやましいというか妬ましいポジションである。
「彼等は!?」
「おお、そうでした。彼等を先程正式にコックとして雇ったのをすっかり忘れていました。」
プロスが思い出したように答えた。
「コック?囮なんて無理に決まってるでしょう!」
『へ、囮って何のことです?』
「いえいえ、そうとは限りませんよ。あのお二人はあれでもIFSの保持者ですし」
「IFS持ってるだけで命を任せるくらいならそこのおチビちゃんの方がましだわ」
「いえいえ、かなりの修羅場をくぐっている方達かと」
『だから囮って・・・』
アキトが戸惑いを隠せないのを無視してムネタケとプロスが言い合う。
そしてさらにそんなやりとりなどどこ吹く風で一人アキトの名前を反芻していたユリカが突如思い出したように叫んだ。

「あああああ、アキトだ!!!」
『はい?』
「ほらほら、あたしだよ。ミスマル・ユリカだよ」
『ユリカって・・・・あのチューリップ組のユリカか?』
一組の幼なじみ同士の邂逅が始まった。かなり一方通行なものではあったが。
「そうそう、いやぁ懐かしいねぇ」
『ってお前そんなところで何やってるの?』
「あたし?あたしはナデシコの艦長さんなんだよ。えっへん!」
『マジ?』
アキトの問いにブリッジのみんなはこめかみを押さえながらも一様にうなずいた。

ジュンは嫌な予感がしてユリカに尋ねた。
「ユリカ、あの人は知り合い?」
「うん、アキトは私の王子様なの!」
ガーンという擬音が聞こえそうなほどの衝撃を受けたジュンをよそにユリカはその劇的な再会を自分の都合のいいように受け取った。

「やっぱり、アキトは私の王子様よね。ユリカがピンチの時に助けに来てくれるなんて!」
『助ける?』
「私のために身を挺して囮を引き受けてくれたのね」
『おい、囮って何だ!?』
「わかってるわ。アキトも男だものね。女の私がやめてっていっても意志は曲がらないよね」
『何勝手に盛り上がってるんだ?』
「あなたの犠牲は無駄にはしないわ。じゃご武運を!!」
『コラ・・・・ブチ』
アキトの叫び声をよそに一人盛り上がったユリカは一方的に通信を切るのだった・・・。



エステバリス・コックピット


エステバリスはエレベータで地上に向かっていた。ナデシコが発進するまでの囮を務めるためである。その事実を知ったアキトはあまりのことに一瞬呆けていたが、すぐに我に返って自分をエステに乗せたアキに突っかかった。
「アキさん!これは一体どういうことですか!?」
「何って囮・・・」
「じゃなくって!
 出来るわけないじゃないですか、こんな乗ったこともない機体に!!」
「大丈夫、IFSで動くからラクチン、ラクチン。それにいざとなったら私がフォローして上げるから」
「無理ですよ!オレがバッタを怖いの知ってるでしょ!!」
「でも他にパイロットはいないわよ?」
「アキさんがやればいいじゃないですか!」
かたくなに拒否するアキト。

「でもいいの?アイちゃんを助けられなかったのが悔しいんじゃないの?」
自分の隠し通していた疚しさを言い当てられてギョッとするアキト。
「今度はルリちゃんかもしれないわね。そうやって逃げ回ってても傷をえぐるだけだって知ってるくせに・・・」
「あんたに何がわかるんだ!オレのことを何でも知ってるからって!!」
「アキト君・・・」
「大体、何様のつもりなんだ!ナデシコまで連れてきてこんな機動兵器に乗せて戦わせるのがあんたの目的だったのか!
 もうたくさんだ!
 戦いたければあんたが戦えばいいだろう!」
アキを全く拒絶するアキト。

そう、これは歴史の反作用だ。
歴史を修正しようとするアキに対して歴史は本来あるべき姿に戻そうとする。
いるはずのない二人のアキト。
そして片方が歴史を変えようと試みればもう一人がそれを引き戻そうと動く。
アキの起こしたひずみは他の誰でもない、もう一人のアキトに現れるのだ。

でもアキは変えなければいけなかった。もう一人の自分を。
逃げ出したくて仕方なかったあの日の自分を。
それは彼女が今の自分を肯定することに等しかった。

「アキト君、たとえ私がどんなに君を知っていようと、私は君にはなれないの」
「なっ、」
「たとえ今の私にあなたを越える力があろうとも、私に出来るのは時の道標をほんの少し良き方向に向けることだけ。
 あなたが成すべき事は他の誰でもない、あなた自身にしか出来ないの。」
「・・・言っていることがよくわかりません」
「いいの?やっと見つけた居場所なのよ?
 逃げて、逃げて、でもやっと自分を受け入れてくれる場所に辿り着いたのよ?
 あなたの料理をおいしいといって食べてくれる人がいる場所を」
「!!」
アキトは思い出す。
おいしいといってくれたルリを、ラピスやミナト、メグミの顔を
そして自分のことを王子様と言ってくれたユリカの笑顔を

「私は自分の弱さゆえにせっかく掴んだ居場所を失ってしまったのよ。
 失ってみて初めて気づいて
 大切な人を取り戻そうと足掻いて、傷つき、ボロボロになり
 そして結局自分の力で取り戻すことができずに
 自分は全てを失ってしまったと思いこもうとして逃げ出したのよ・・・」
「アキさん・・・」
「私にはもうそれらを自分の力で取り戻すことは出来ない。
 でもあなたはまだ選べる。取り戻すことも、逃げ出すことも
 だから自分の意志で選びなさい。
 全てに目をつむりこのまま市井に埋もれるか
 あるいは困難だけど今の居場所を守り、そして全ての真実を知るか。
 だけどこれだけは保証するわ。
 ここから先には君の知りたい真実が全て存在する。
 ミスマル・ユリカ、ホシノ・ルリの事
 テンカワ夫妻がなぜ死んだのか
 そしてなぜ君だけが火星から生きて帰ってこれたのか」
アキの言葉に真剣に考えるアキト。

しばらく無言の後にアキトは一言尋ねた。
「・・・あなたのことも?」
「それは時がくれば自然にわかるわ」
「わかりました!やるっす!!」
その言葉と共にエレベータは終点に辿り着いた。
ハッチが開き、エステバリスは地上にその身を表わした。
まさにバッタ達が群がるその地に・・・。



そして・・・


その後、何とかアキト達は囮の役目を無事果たし、海底トンネルから出港したナデシコのグラビティーブラストにてバッタの群れは見事撃破出来た。
ユリカはアキトとの感激の再会に艦長の立場を忘れて騒ぎたてたのはいうまでもない。

取り敢えず、アマガワ・アキこと女アキトによる過去を変える作業の第一段階はなんとか成功したようである。無論、それは歴史を俯瞰してみれば取るに足らない些細な変化かもしれない。
でも実際にその時間の流れの中で生きる者たちにとっては確かに価値のあることであった。

終わり



ポストスプリクト


最初にお断りしておきます。第1話とか書いていますが、続きません(爆)

一応、仕事で3週間も出張していてネットライフを寸断された反動で発作的に書いたものですので、続きなんぞ考えておりません。

とはいえ「第一なんで今更時間逆行ものを、しかも女アキトなんて既に誰かがかかれているものを・・・」なんて思いながらも、こうして書いてしまったのは女アキトがとっても魅力的に思えてしまったからです。

ですんでどなたから感想をいただくなり、リクエストを受けるなり、ネタを貰うなりすると続編を書くかもしれません。まぁ、そうだとしても連載形式にせずTV版を無作為にピックアップして書いていくと思います。

ということでもしもおもしろかったなら感想をお願いします。

では!

2001/05/31追記分
 上であんなことを書いておきながら・・・続いております(苦笑)
理由は思いのほか反響が良かったことです(爆)
取り敢えずリベ2が完結するまでは我慢!と思っていたのですが、ナデシコというカテゴリがそれまで需要があるだろうとか?とか、ヒット記念にすればカウント数アップが加速されるだろうな・・・などという不純な理由があった事は否定しません(爆)
ともあれ、リベ2がナデシコの続編を狙ってどちらかといえばいろんな事を解決する上でどうしてもシリアスなお話しを盛り込まないといけないのと対照的に、黒プリの方はライトなお話しで、でも実はアキトの成長記を狙っています。
また黒プリの壮大なチャレンジは『如何に歴史を変えずにみんなを幸福にできるか?』ってなところであったりします。
ってことでリベ2とパラで書いて自分の首を絞めつつありますが、これからもお付き合いのほどよろしくお願いします。

Special Thacks!!
・英 貴也 様
・まるい55号 様