アバン


昨日、海に向かって口笛を吹いた。
『何かあったら口笛を吹くッス。そしたらどこにいても飛んでくるッスから』

期待していたわけじゃない
でも、そうしないと彼の夢を忘れてしまいそうだから

そうじゃないね
たぶんまた元気づけて欲しいんだよ
弱気になった私を励まして欲しいんだよ

しっかりしなきゃいけないのにね



Attention!!


本作品はFinal FantasyXの激しいネタバレになっております。
まだエンディングを見られていない方は激しく後悔されるか、激しくエンディングを見たくなるかもしれません(汗)
エンディングの解釈は人それぞれですが、これはEXZS流の解釈であってスクウェアの公式見解ではありません。FFX InternationalのおまけDVDがこういった内容である保証はどこにもありません(爆)

それでもかまいませんか?














よろしいですか?
ではお楽しみください♪



聖ベベル宮


「お願いします!!!」
「そんな、私は・・・」
ユウナは相手の申し出に困惑していた。

「そう言わずに!」
「私みたいな若輩者が総老師なんて・・・」
「何をおっしゃいます!マイカ老師のいない今、永遠のナギ節を打ち立てられた大召喚士ユウナ殿を除いて他に誰がスピラをまとめられると言うのですか!」

寺院の皆々は口を揃えて彼女を推挙した。

「私は本当にそんな大した事はないんです。とても勤まりません」
「そんなことありません。今までどの召喚士も成しえなかった偉業ですぞ!」
「私はエボンの教えに反したとして一度は断罪された身ですよ?
 究極召喚の源であるユウナレスカ様を葬った者ですよ?
 私の考えはもうエボンのそれでは・・・」
「それでも、民はエボンの教えを信じて生きてきました。民にはエボンの教えが、それを信じるに足る象徴が必要なんです!!」

そう言われてユウナは言葉を失った。
みるみる顔色が悪くなるユウナ。
そんな彼女を見かねて・・・

「ごめんなさい、彼女は働きづめなの。
 しばらく考える時間を与えてあげて。」
そばに着いていたルールーがそっと彼らを制してユウナを退室させたのだった・・・



飛空挺


飛空艇のデッキでぼんやり外の風景を眺めるユウナ。
彼女のガード達は通路の陰に隠れて彼女の身を案じていた。

「グアドサラムに行くなんて、どうしたんだろ?ユウナん」
「まぁ少しは休養させてあげたら?
 今まで混乱したスピラを飛び回っていたんだから」
リュックの疑問にやんわり答えるルールー

シンが倒れて数ヶ月、
永遠のナギ節が訪れたスピラであったが、それは同時にエボンの教えの終焉でもあった。
まだシンの傷跡も生々しいスピラであったが、ナギ節を喜ぶ人達の想いとは裏腹に信仰の中心であったエボンの寺院も急速にその力を失いつつある。
祈り子はその役目を終えて、ただの偶像となり果てた。
死の螺旋を描いていたスピラであったが、エボンの教えは一筋の光明でもあった。
しかし今は死の螺旋から解き放たれた代わりに、道しるべもない状態である。

誰かがこのスピラを支える礎とならざるを得ない。

そして人々はそれをユウナに期待した。
だから彼女はスピラを飛び回り、希望を説いてまわっていた。

でも・・・・

「なんか、ユウナん可哀想・・・」
「可哀想?」
リュックの呟きに首を傾げるワッカ

「だって、せっかくシンがいなくなって召喚士としての呪縛から解放されたかと思ったのに・・・」
「そんなこといったってよぉ・・・」
ワッカは口ごもる。確かに今のユウナは痛々しい。
でもエボンの教えだけを信じてきたワッカには人々の心細さもよくわかる。
そしてそれを和らげられるのはユウナしかいないのも事実なのだ。
とはいえ・・・

「私達はあの子のガードよ。
 あの子が支えて欲しいと言えば支えるだけ。
 でも・・・」
ルールーは寂しそうに呟く。
それはユウナが決めることだ。
召喚士としての呪縛に囚われ続けるか、
あるいは逃げ出すのか、

彼らガードはただ着いて行く事しか出来ないのだから・・・



Final Fantasy X Ending after story's
「いつかあの少年の夢を見よう」



異界


みんなに遠慮してもらって彼女はここに一人で来た。

異界

死者の魂が眠る場所

死者の魂に会うことが出来る場所

でも・・・・ここに来れば彼に会えるのか?

彼女自身、そんな淡い期待があったのかもしれない。
ただこの場所に足が向いたのだ。

「ねぇ、私どうしたらいいんだろう・・・」
ユウナは呟く。
すると幻光虫が寄ってきて人の形を成す。

『まさか!』

期待したユウナだったが、それは少し期待した人と違っていた。

「どうした?ユウナ」
「アーロンさん・・・」
そう、ユウナの前に現われたのは彼ではなくアーロンであった。
「待ち人じゃなくてすまなかったな」
「そんな事ありません。そんな・・・」
真っ赤になりながら大慌てに否定するユウナであった。
しかしそんな彼女にアーロンはあの頃より幾分和らいだ笑顔で告げる。
「冗談だ。
 でも・・・・お前は聡い。
 俺はお前の記憶の中のアーロンだという事がわかっているはずだ。
 つまり俺がこれから話す事も心の奥では薄々気づいているはずだ。」
「・・・そうかもしれません」

異界が本当に死者の魂と合える場所か?という事には諸説がある。
幻光虫が見せる幻という説もある。
現実的なアルベト族はこの意見を主張するモノも多い。
しかし、なぜかここには異界送りされた者、死を覚悟した者のみが現われる。
死者の魂は幻光虫に宿るというのがエボンの教えだ。
だが、真実は明らかではない。

でも・・・

たとえそれが幻の存在でも、
たとえそれが死者の魂でも、
たとえそれが生者の追憶の中の残照でも、
ユウナにとってそれはどこまでもあのアーロンでしかなかった。

「なぜアイツではなく俺が現われたのか、お前にはわかっているんだろ?」
「・・・・はい」
「お前は心の底ではアイツが死んだと認めたくなかった」
「そうかもしれません」
「でも泣き言は聞いて欲しかった、
 こうした方がいいって言って欲しかった」
「はい」
「なぜあいつらにそう言わない。何のためのガードだ?」
「それは・・・」
「甘えさせてくれる言葉を聞くのが恐かったからか?」
「今聞いてしまうとくじけそうで・・・」
ユウナはアーロンの問いかけに素直に答える。
いや、それはアーロンという幻想の力を借りた彼女の告白なのかもしれない。
ルールーやリュック達には言えなかったことをユウナはアーロンにポツリポツリと語り始めた。

「総老師になって欲しいと頼まれました」
「・・・で、本当はなりたくないと?」
「ええ」
「若い自分にはとうてい無理だと?」
「それもあります」
「今のスピラでお前に出来なければ他の誰にも出来ないさ」
「私はそんな大した人間じゃないんです。ただ・・・」
「ただ?」
「私はみんなから後押しされただけです。
 ルールーやワッカ、キマリにリュック、それにビサイドのみんな
 そして・・・・
 いっぱいの人達から応援されて・・・
 ただそれだけでここまで来ただけなんです。
 そんなわたしに人々を導く事なんて・・・」
「・・・違うだろ?」
「え?」
アーロンはユウナの偽りの言葉を遮る。

「お前はエボンの老師になるのが嫌なだけなんだ」
「・・・・・」
「お前の心の中では、エボンの教えはもう金科玉条じゃない。
 今のお前はエボンの教えを信じてビサイドを出た頃のお前じゃない。
 エボンの教えはスピラを死の螺旋にしか導かなかった。
 シンの呪縛から解き放たれたスピラの人々に、またエボンの教えを説かなければいけないのがたまらなく嫌なだけなのさ。
 もう信じてもいないモノを人の為だといいながら、自分を偽りスピラの民を偽って説いて回らなければいけないのがたまらなく嫌なだけなのさ」

グサリとくるアーロンの言葉

「そうかも・・・しれません」
「確かにエボンの教えは神の言葉だったのかもしれない。
 でもそれを行うのは人だ。
 信じるのも人
 導くのも人
 人は迷い、驕り、そして堕落していく
 留まる水が濁るように、停滞した組織はいつしかそれ自身の存続が自己目的となっていく。
 宗教とて例外ではない。」
「・・・」
「でも人々はエボンの教えを救いと信じて生きてきた。
 今さらそれを嘘でした、それは誤りでしたとはいえない。
 人は信じていたモノをそう簡単には棄てられない。
 すがって来たモノを奪われて生きていけるほど人間は強くない。
 良きにつれ、悪きにつれ、エボンの教えをいきなりスピラの民から取り上げることは難しい」
「・・・わかっています。だから・・・」

だからユウナは断るに断れない。
自分を偽ってでも人々の心の不安を拭いたいと思う。
でも・・・ユウナは自分の心を偽れるほど強くなかった。

そんなユウナを見てアーロンは柔らかい笑顔を浮かべる。

クシャクシャ
ユウナの頭を優しく撫でるアーロン

「アーロンさん・・・」
「言ったはずだ。これからはお前達の物語だと。
 ザナルカントが見た夢も、
 祈り子達が見た夢も、
 ユウナレスカが見た夢も既にない。
 エボン=ジュの呪縛も召喚士の悲哀もない。
 これからはもうお前達がお前達の考える物語を紡いでいけばいい。」
「あ・・・・」
「お前達が究極召喚を捨て、自らの力でシンを倒すことを決めた時点で、もうエボンの呪縛から逃れたのだ。
 ただ今は大海に投げ出されてどちらに進めばいいかわからないだけだ。
 でも進みたい方向はいずれ見つかる。
 今の気持ちを素直に声に出してみればいいんだ。」

アーロンの言葉にユウナはあの時のことを思い出す。

ザナルカントでユウナレスカと対峙したとき、あの少年が言った言葉を
「これはもう俺達の物語なんだ!」

私は何がしたいんだろう?
私は・・・・

ユウナはそれだけを考えた。
思い出に浸るユウナの顔はすごく楽しげだった。
それを見やるとアーロンは満足げに幻光虫の瞬きに還っていった・・・。



再び飛空挺


「私、総老師の職を受けようと思います」
心配していたガード達をよそに、ユウナはすっきりした顔で帰ってきた。

「ユウナ・・・・イヤだったら断っていいんだぞ?」
ワッカが慌ててそう言う。
「そうだよ、ユウナん!」
『ワッカってさっきと言ってること違うじゃん!』とリュックは思いながらも、ワッカに同調する。
「イヤじゃないですよ♪」
そんな彼等をユウナは笑顔で否定した。

「イヤじゃないんですけど・・・」
「けど?」
ルールーは不思議そうに尋ねる。
「ちょっと素直に思っている事を言わせてもらうかもしれません♪」
ユウナにしては珍しく悪戯っぽく笑う。

「ユウナ?」
「ユウナは好きにやればいい。
 キマリはユウナを守る。
 アイツの分まで」
ルールーは目を丸くしたが、一人キマリだけはいつものぶっきらぼうな声でそう言った。



ルカスタジアム


その日、ルカはブリッツボールを行なわないのに多くの人で賑わっていた。
シンが倒れて以来、もっともめでたい行事が行われるからだった。
「永遠のナギ節」を打ちたてた大召喚士ユウナ導師がエボン寺院の総老師に就任するからだ。

そして今日、ルカスタジアムはその祝賀式典の会場となり、多くの人々はその若き指導者の誕生に沸き立っていた。
あの伝説の召喚士が我らの指導者になるのだ。
これを喜ばずになにを喜ぶというのだ!

『では新たなる総老師ユウナ様のお言葉を頂きます』
アナウンサーの声に促されるようにユウナは演説用の壇上に上がる。
そしてユウナはゆっくり会釈をすると軽く手を振る

ウワァァァァァァァ!!!!!!

ただそれだけで声援が、拍手が、歓声が湧き上がる。

そしてユウナは手を止める。
それを合図に観客は静寂を取り戻す。

まるで水を打ったように静まるスタジアム。

みんながユウナの言葉を待った。

そしてユウナはゆっくりと話し始めた。

「私達召喚士はその旅を始めたときから究極召喚を得てシンを倒すことを決意します。」

何を当たり前のことを?とみんなは思う。

「父ブラスカがそうであったように、それは究極召喚を行えば自身も死ぬという事と同じ意味を持ちます。」

え?
そのことを知っていた者、知らなかった者、
誰も大声で口にしなかったその事実、
でも暗黙のうちに了解していて、それでも誰の口に出さなかった事実。
口に出せばナギ節を望むことは召喚士が犠牲になってくれる事を望む事になるから

だから誰も口に出さなかった。
送り出す方も、
送り出される方も

でも、それを改めて召喚士の口から聴かされることにスタジアムは少なからず動揺を覚えた。

「だから召喚士はみな死ぬことを覚悟して旅に出ます。
 それはたとえわずかなナギ節であっても、大切な誰かが死なずに平穏に暮らせることを願って。
 大切な人達が希望を失わずに生きていけるように、と願って。
 そして私もその誓いは揺らがないつもりでした。」

ザワザワ・・・
召喚士が何を言い出すのだろう、みんな不安げに聴いていた。

「私は旅に出る前、ある少年と出会いました。
 ザナルカントから来たという少年
 ああ、ザナルカントと言っても『聖地ザナルカント』の事じゃありません。
 『眠らない街ザナルカント』
 父ブラスカのガード、ジェクトさんから聞いた街
 シンに怯えることもなく、地面を覆い尽くす建物と暗闇になることのない明るい街
 ブリッツボールだけは私達の世界と変わらず楽しまれているそんなお伽噺のような街」

ユウナは楽しそうに思い出を語る。

「私はその街のことを子供の頃、子守歌のように聞かされてワクワクしました。
 そしてその少年はあのあこがれの街から来たと言いました。
 私はその少年に好奇心に近い憧れを持ちました。
 みんなはシンの毒気にやられたって呆れてましたけど。」

クスリ、と思い出し笑いをするユウナ。
寺院の者たちは話の流れからイヤな予感がして少し顔をしかめていたが、ユウナはかまわず話し続ける。

「彼は私に『シンを倒したら俺ん家に行こう。ザナルカントに連れていくッス』って言ってくれました。
 でも私は召喚士です。シンを倒すということはこの命を引き替えにすること。
 シンを倒したら彼のザナルカントには決して行けないのに・・・
 その時、私は『彼のザナルカントに行ってみたい!』って思いました」

ザワザワ
戸惑いの声はさらに大きくなる。

「でも召喚士としての旅をやめるつもりはちっともなかったんです。
 矛盾していると思うでしょ?でもその時の私は、なぜかシンを倒して彼のザナルカントへ行けるかもしれない・・・そう思っていたんです。
 なんの根拠もなく、バカみたいにそんなことを思っていたんです。」

寺院の者たちはこれ以上ユウナがしゃべるとまずいと察したようだ。
だが行動を起こす前に彼女のガード達が油断なく構え彼らを牽制した。
究極召喚に頼らず、シンを倒した伝説のガード達。
その静かな闘志は彼らを怯ませた。

「そして私達は『聖地ザナルカント』に着いて、究極召喚の真実を知りました。
 召喚士の一番大切な人を召喚獣にする事によって、その絆の強さを力に変える・・・それが究極召喚の秘法だったのです。」

人々は衝撃を受けた。
今まで明かされなかった禁断の真実。
だが、彼らが驚くのはまだこれからだった。

「父ブラスカはガードであり親友だったジェクトさんを究極召喚しました。
 そしてジェクトさんが召喚獣となってシンを倒しました。
 けれど・・・・
 エボン=ジュの呪いにより、今度はジェクトさんがシンになってしまいました・・・」

!!!
スタジアム全体が大きくどよめく!

「シンは自らを倒した召喚獣に乗り移り復活する。
 それは避けられない定め。
 これが私だけの命で済むなら、私はいくらでもこの命を捧げたでしょう。
 でも大切な人を犠牲にし、結局はその人にも深い苦しみを与えてしまう・・・
 私には出来ませんでした・・・」

今度は水を打ったように静まり返る。
みんなこの召喚士から告げられる真実を戸惑いながらも、真摯に受け止め始めていた。

「その時、私は思いました。
 私達は永劫、この悲しみの螺旋を繰り返さなければいけないのか?
 私の命はただつかの間の儚い希望を人々に与えることしか出来ないのか?
 このまま究極召喚を行ってもこの死の連鎖は止められないのでは?
 私は絶望しました。
 これは救いではない・・・と。
 でも・・・そのとき彼は言いました。
 『眠らない街ザナルカント』から来た少年は私に言いました・・・」

みんながユウナの言葉を待つ。

「これはもう俺達の物語なんだ・・・と」

その言葉がみんなの胸にどう届いたかわからない。
でも・・・

「私は彼の言葉に背を押されて私達の道を選びました。
 結果、ユウナレスカ様を退け、究極召喚を破棄しました。
 もしかしたらそれがシンを倒す唯一の方法だったかもしれません。
 でも私達は別の道を選びました。
 シンを倒せたのは幸運だったのかもしれません。
 ・・・・いえ、そうじゃない。
 きっとそれは必然だったのです。
 彼は『眠らない街ザナルカント』から来ました。
 シンのいない街、夢の都、スピラの死の螺旋に縛られない街
 その街は古のザナルカントの住人達が見た夢
 祈り子たちが見た夢
 憂う事の無い夢の都から来た彼だから・・・
 スピラの、エボンの呪縛に縛られなかった彼だから・・・
 そんな彼が背を押してくれたから・・・
 私達は呪縛から解かれたスピラを信じる事が出来たんです。」

そしてユウナは一度言葉を区切る。

「これが私の知る全てです。
 私の母はアルベトの出身です。そして機械を使う事が悪い事だとは思いません。
 こんな私はエボンの総老師になるには相応しくないかもしれません。
 私の言葉はひょっとしたらエボンの教えではないかもしれません。
 でも許されるなら・・・私は私の方法でスピラを導けたらなと思います。
 昔の人達が見続けた、憂いを帯びた物語を繰り返すのではなく・・・
 あの時、彼と見た夢を、
 私達の未来の夢を、
 スピラの人々と共に作り上げていきたいと思います」

ユウナがしゃべり終えた後、スタジアムはシーンとしていた。
みんな語られた真実を受け止めるのに必死なのだろう。

戸惑う者、
永遠に知らせて欲しくなかった者、
今だにエボンの教えが全てだった者、

だけど・・・・

パチパチ・・・

誰かが拍手する。
続いて隣の人が拍手した。

それは次々と連鎖して・・・

パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
ウォォォォォォォォ!!!

やがてスタジアム全体が拍手と歓声に包まれた。

「総老師ユウナ様バンザイ!」
口々に叫ばれる声にユウナは救われた気がした。
ルールー達も満足気だった。
ただエボン寺院の人達の中にはしかめっ面をする者もいたが。

それがスピラ中の人の気持ちかどうかはわからない。
ユウナのやり方に反対する者も現われるかもしれない。
それでも・・・
それでも・・・

「最後に・・・」

ユウナは手をあげて人々の拍手が終わるのを待った。
そしてみんなが彼女の言葉を聞こうと静粛にする。

「私からのお願いです。
 ときどきでいいですから、いなくなった人の事を思い出してあげてください。
 いつかあなた達のそばを駆け抜けていったあの少年の事を夢見てあげてください。
 彼は夢の世界から来た人でしたが、彼がこの世界を駆け抜けた軌跡は決して夢なんかじゃありません。」

ユウナは切なそうに、それでいてやさしい笑顔で語りかける。

「『眠らない街ザナルカント』は古のザナルカントの住人達が見た夢の世界でした。
 それは現実を見るのをやめて、今はなき追憶の街の記憶を留めようとする夢でした。
 夢の中だけでも平和で穏やかで幸福な世界を作りたいと願った悲しい夢でした。
 叶わぬから見た夢でした。
 でもそんな中でも彼は一生懸命怒って悩んで、そして駆け抜けていきました。
 そしてこのスピラを駆け抜けていきました。
 だから・・・もう一度夢見てあげてください。
 今度こそ夢の中だけで終わらないように、
 あの夢に満ちた街がもう一度このスピラに築かれるように、
 あの夢を現実のモノとするように、
 ・・・・
 そしてみんなの心に少しずつでも彼の夢が残っていれば・・・・
 このスピラは彼のザナルカントになるかもしれないから・・・
 だから、ときどきでいいですから、いなくなったあの少年の事を夢見てあげてください。
 それが私のささやかな我が侭です。」

ユウナは深くお辞儀をした。
もちろん、スタジアムは割れんばかりの拍手に包まれた・・・



エピローグ


ユウナは今日も一人ビサイドビーチの波止場に来て口笛を吹いていた。

「どうしたの?ユウナ」
「あ、ルールー・・・」
彼女に声をかけたのは彼女の姉のような存在の女性であった。

「心細いの?」
「いえ、癖みたいなものなんです。」
ルールーの問いにユウナは笑って答えた。
未だにあの少年の面影に縋って口笛を吹いているのかと思っていたらそうでもないようだ。

「それにしても驚いたわ。あなたが総老師になりたいって言ったときは。
 てっきりエボンの教えに不信感とか持ってると思っていたから」
「それは今でも一緒ですよ。
 でも・・・・やりたいことがあるんですよ。」
「やりたいこと?」
「予感がするんですよ♪」
ユウナは嬉しそうに笑う。
その顔を見てルールーは何となくわかった気がした。

そう、祈り子達も言っていた。
『僕たちはもう一度君のために夢を見よう』

だから私達も夢を見よう。
あの少年のために、
このスピラが彼にとっての『ザナルカント』になるように、
そうしたら彼もこのスピラで泳ぐことが出来るかもしれないから、
これは『私達の物語』
未来は私達の手で作り上げるモノだから・・・

みんなであの少年の夢を見よう

そうすれば・・・

きっともう一度、彼に逢える気がするから



ポストスプリクト(自サイト掲載ver.)


というわけで本作はいつもお世話になっているサイト、PC+亭 FF8&9のお部屋に投稿した作品を一部修正の後、自サイトへ掲載したモノです。

書いた動機なぞはオリジナルを読んでいただくとして(汗)
本バージョンは主に手直し程度の変更に留まっております。ストーリーに差はありません。
ただ、どうしても・・・ティーダの名前が一ヶ所書かれていたので消したバージョンも作りたかった・・・ってのがあります(苦笑)

そう、どこにもティーダの名前って書いてないんですよ。この小説。
ゲーム本編と一緒というか、思い出ですから、名前を出さないのもありかな?
というよりも、皆さんがこの小説を読んで名前も書いてないのにティーダの事を思い出してくれたら、それは彼の夢を見たことと同じに、エンディングでユウナが「ときどきでいいから、いなくなった人の事を思い出してください」って言葉と通じるかな?
って気持ちがあっての演出だったりします(笑)

まぁもう少しこのお話はどうでもいいところに手を入れたしますが、これが私なりのFFXのエンディングの解釈だったりします。皆さんの解釈と違うかもしれませんが、いつかユウナとティーダが再会するという希望を持ちたくて書きました。
どうでしたでしょうか?

もしおもしろかったなら感想などをいただけると幸いです。
では!