人の気遣いというのはありがたい物である。
時として余計なお世話、ありがた迷惑な場合もあるが、基本的に嬉しい物だ。
普通の人でもそうなのだから、人よりも苦労の多い人なら余計にそれを感じる。
ましてそれが子供からなら・・・・・・
まだまだ幼いと思っていた子がそこまで成長したかという喜び、幼いなりに自分を労ってくれる事への感動。
思わず目頭が熱くあったりもする。
ああ、この話はEXZSさんの「黒プリ」の、私が勝手に書いた外伝ですのでそのつもりで。
いつものように夜になり、ラピスが字の練習に来た。
はじめの頃はジャンケンのグーで持っていた鉛筆も、このところはちゃんと持てるようになってきた。
字も、知識だけは元からあったラピス。
元となった漢字を教え、それからどういう風にひらがなやカタカナが出来てきたのかを教えてからは、格段の上達を見せた。
『スポンジが水を吸い込むように。』
まさに、そんな感じの上達であった。
従ってお勉強としてはもう充分といえるのだが、せっかくラピスも書くと言うことが面白くなってきた時期であり、その習慣を終わらせるのも終わらせるのも忍びなく、今では完全に日課となっていた。
しかし、その日は。
「こんばんわ、アキ・・・・・・」
何かいつもと違う、もじもじした雰囲気のラピス。
入り口の所で立ったまま、何時までも入ってこない。
「どうしたの?ラピスちゃん。」
アキが変に思って尋ねても、ラピスは照れくさそうに立ったままだった。
ふと見れば後ろ手に何か隠しているような格好だ。
アキはラピスが何か壊してしまったのかな?と思った。
すると、ついに意を決したのか、ラピスは照れくさそうに話し始めた。
「あのね、ラピス、初めてお給料貰ったときに、アキに何かプレゼントしようと思ったの。
ラピスはいつもアキにお世話になってるし、ラピスはアキが大好きだから・・・・・・
それでミナトに相談して、注文したのがさっき届いたの。
だから、・・・・・・はい!」
そう言って渡された小さな包み。
アキは目頭が熱くなった。
自分こそ、どれほどこの子に救われているだろう?
黒百合だった世界で、そしてこのナデシコで。
目の前の少女がただただ愛おしくて、可愛くて、アキはラピスを抱きしめた。
「ありがとう、ラピスちゃん・・・・・!」
「アキが喜んでくれて、ラピスも嬉しい!」
「ねえ、アキ。
開けてみて!」
ラピスに促され、アキは受け取った包みを見た。
カルティエの包み。
決して安くは無かっただろうに、この少女は自分のために・・・・・・
こらえていた物が目からあふれ出しそうになるアキ。
丁寧に、決して破かないように包みをほどき。
高級そうな木製の箱の蓋を開けた。
それは、非常に美しい装飾品だった。
さりげなくあしらわれた貴金属による装飾が決して嫌みではなく。
伝統と確かな技術で、1個の芸術品として完成していた。
1つ1つの素材から徹底的に吟味され、1流の職人がその持てる腕前を惜しみなく注いで丁寧に作ったと感じられる逸品。
アキはその芸術品を手に取り、ラピスに尋ねた。
「・・・・・・首輪?(汗)」
「うん♪」
「なんで首輪?(汗)」
「だってアキ、似合うのにあの後しないから。
だから、もっと良い首輪を作ってもらったの。」
『首輪が似合うなんて言われても嬉しくないわ〜〜!!(血涙)』
という魂の叫びを、アキは辛うじて飲み込んだ。
「ね、アキ。
つけてみて♪」
きらきらした目でアキを見つめるラピス。
う・・・・・・
確かにラピスには純粋な善意しかないのだろう。
この目を裏切ることはアキには出来ない。
諦めて、「1度だけは・・・・・」と思ったその時。
ガラッ
いきなり入り口が開き。
「「「お姉さま〜〜♪
私たちの首輪も届きましたの〜〜♪」」」
ミカコ・ジュンコ・ハルミが首輪をつけて入ってきた。
「「「私たちの首輪を引っ張って、散歩に連れて行ってください♪」」」
「いやあああああああ(泣)」
ついに自我境界線の崖っぷちまで追いつめられたアキは逃走した。
「アキ!」
「「「おねえさまああ!」」」
「首輪は嫌〜〜!!(血の叫び)」
結局その日、アキは部屋に戻らなかった。
アキは追っ手を逃れて、朝まで厨房の隅で泣いていたという。
「うう・・・・・・首輪は嫌・・・・・・(涙)」
余談だが、翌日の朝食の時間ミナトの魂の叫びが食堂にこだました。
「いやああああ!ごめんなさいいいいいい!(血涙)」
ラピスにあんな買い物をさせたことに対するアキの復讐スペシャルメニューが原因だったという。
「ふりかけご飯はゆるしてえええええ!!!!(号泣)」
<前半>
ええ話や・・・・・(ホロリ)
ラピスちゃん、絶対幸せになってね!!
<後半>
・・・・・・おい
元ネタは黒プリ第7話『いつか僕らが「歌う詩」』です、念のため。