7/1 美術館長の暗号「ダヴィンチ・コード」を観てくる。

 別に「ダヴィンチの暗号」じゃなくてもいいじゃんというと身も蓋もないので…。
 冒頭、トム・ハンクス演じるラングドンの講義が実にユニークで、同音異字みたいなものの数々を巧に説明している。その内容の興味深さもさることながら、この映画はこんな感じで進みますよという道筋を示しているのだろう。さらに、必要な説明の埋め込み方が実に巧妙なので、脚注を聞かされているという台詞やナレーションがないのがお見事。アクションもミステリーもサスペンスもちょうどいい具合にちりばめられているので、テンションが落ちきってしまう部分もない。ソニエール館長が残した暗号が、死の間際にしては周到すぎるのも、それぞれの暗号の前に地だまりができているのに、それに触れないフランス警察がバカっぽく見えることもご愛敬。
 難をいえば、重要なヒントである「PS」が冒頭に提示されてしまうので、謎のひとつが早々に想像されてしまうことか。こういうシチュエーションでは、本人が知る知らないにかかわらず「先の副将軍」みたいな素性があったりするので、これをどういう段階を踏んで示していくかは難しいところ。
 もう一つは、ジャン・レノ演じるファーシュ警部が、クライマックスまで関わらなかったこと。続々と現れた村人達を遠目に見ているというだけでも、彼の役割が終わったと印象づけられたと思うのだが。もちろん彼自身ではなく、達観している印象が強いコレ警部補でもいい。
 どうでもいいことでは、トム・ハンクスが「フレンチ・コネクション」のジーン・ハックマンに似ているなぁとか、狂信的なシラスと「ブレードランナー」のロイが重複するなぁとか。まあ、そのあたりは気にしなければ気にならないが、フランスのシーンではついついポパイ刑事と呼びたくなってしまうのであった。
 そんな主役脇役を含めて、最もミステリアスでユニークなのがイアン・マッケラン演じるサー・リー・ティービング。本編中では「サー・リー」と呼ばれるので、どうしても大英帝国騎士団長の称号を持つクリストファー・リーが頭に浮かんでしまう。イアン・マッケランもサーの称号を持つのだがそれはともかく、リー・ティービング自身もそうなのだが、彼を取り巻く人物相関図がまた一筋縄ではいかないというか、二転三転する裏切り合戦の様相を呈していて全く持って気を抜けないのだ。
 で、本作で重要な「キリストの末裔」に関しては、何で日本の天皇みたいにならなかったのかなぁという方が先行してしまう。神の子は神でいいじゃないか、というわけだが、そこはそれ唯一神と八百万神の違いなのだろう。もっとも、そのおかげでキリストを預言者にするか神にするかの議論云々は実に面白いことになっている。神が先か宗教が先か、鶏と卵みたいだね。聖書の誕生も含めて、宗派が交錯するこの議論が実に人間的なのだ。ま、信仰と布教の名の下に行われた数々の争いと殺戮にまで触れるとめんどっちいので、本作の宗教論に関してはこの辺で。
 そんなわけで、実は「ニュートンの暗号」ではないかという本作、展開に力業がないのできちんと頭を使いながら楽しめる作品なのでした。

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