12/17 「キング・コング」を観てくる。

 禁酒法と大恐慌に苦しむ1930年代初頭のニューヨーク。冒険映画に情熱と野心を燃やす映画監督カール・デナムは、人気脚本家ジャック・ドリスコルと、興行主の遁走によって食うに困ってしまった喜劇女優アン・ダロウ、一癖ありそうな貨物船ベンチャー号の船員たちを巻き込み、霧に閉ざされた幻の島スカル・アイランドで原住民に襲われ、アンを巨大ゴリラ「コング」の生け贄にされ、恐竜に襲われ、虫に喰われ、すったもんだの末にアンを助け出し、コングを生け捕りにしてニューヨークで見せ物にしたら、ちょっとした手違いからコングが逃げ出しアンと再会したのもつかの間、まだ避難も終わっていないような街中に弾丸の雨を降り注ぎつつ迫る軍隊に追われ、エンパイアステートビルをよじ登り…。

 というおおざっぱには1933年版と同じようなストーリー。

 異なるのは、スカル・アイランドまでのいきさつにほぼ1時間を割いた緻密な舞台設定、独特の文化というよりもまるで「指輪物語」のオークにしてしまった“恐ろしい”原住民、コングに的を絞るのではなく一大冒険スペクタクルとして幅を広げたカール・デナム一行のアン救出作戦。

 そして何よりも最後までコングを(アンから見て)恐怖の対象として描かなかったこと。これが現代風にアレンジした最大の変更ではないか思いますが、コングへの感情移入を強制されているようであり、笑いをそそるアンの行動がストーリーに横やりを入れているようで、少々目に余ります。緊張のあとの弛緩は必要ですが、あからさまに笑いを誘う演出はいかがなものでしょう。また、1933年版へのオマージュでしょうが、2005年版にちりばめられた同じシーンや俳優がパロディー気味になっており、良くも悪くも肩の力が抜けてしまいました。

 これらを面白いと感じるか、蛇足と感じるかで、本作への印象、特に1933年版と同じラストの台詞の受け取り方が、がらりと変わってしまうのではないでしょうか。ただし、コングへの感情移入が功を奏し、ラストでは誰もがコングを応援できる仕上がりになっているのも事実なので、ピーター・ジャクソンの狙いが当たっているのは確かなことなのです。

 映像技術が格段の進歩を遂げ、CGIでありながら近年まれに見る重量感を出しているのは素晴らしく、ちょっとやりすぎのきらいはありますが、そちらの期待には十分すぎるほど応えてくれるでしょう。

 それにしても、キャラクターの背景を緻密に描き、後々への伏線を張るために時間を割いた序盤、大冒険譚に仕上げた中盤のため、上映時間3時間強は頭にも身体にも結構つらいものがあります。その割にニューヨークでの終盤が短めだったのは意外でしたが、たたみかけるクライマックスのおかげで中盤を超える興奮を味わいました。

 コメディータッチの脚本と演出に不満はありますが、コングがただのでかいゴリラではなく、何がどうとははっきりと言いにくいのですが、きちんとモンスターとして描かれている点では、あまたある続編亜流の中の雑多な一つなどではない輝きがあります。ちなみに、私がいちばん蛇足に感じたのは、「美しい…」です。きっと感動するシーンでしょうが、ずっこけました。

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