8/21 「ヴァン・ヘルシング」を観てくる。

 ヴァチカン専属の怪物退治屋ヴァン・ヘルシングがドラキュラ退治に赴いたら、ドラキュラ本人から記憶を失っていた自身の出自を知らされる話。

 良く言えば終始こけおどしのSFXアクション満載で見かけはえらいことになっているぞ…良く言っているのか? 悪く言えばアメコミのコマ割り風にシチュエーションを積み重ねただけ、セリフもアクションも息つく間もなくて逆に空回りだし、まき散らした伏線と謎はほぼほったらかし、ラストは全てをぶちこわし。ドラマ性をストーリーよりも映像に頼っているのはスティーヴン・ソマーズらしいとも言えるが、この人は物語のポイントを外さないだけにこの傾向はもったいないと思う。まあ、緻密に描きあげるよりは、おおざっぱでもいいから力業でガンガン展開させたいのだろう。それぐらい脚本はおそまつ、というか子供の遊びみたいなもので、最初に決めた設定をどんどん忘れてそのつど新しい設定をでっち上げることを繰り返し、しまいにはこの作品のプロットはいったいどういうものだったんだろうとなってしまうのは、さすがにいかがなものか。思いつきで作ったシチュエーションでもかまわないから、もう少しきちんとつなぎ合わせてほしかった。

 アクションのほとんどがCGIアクターに取って代わられただけでなく、動きの必要のないシーンにまでCGIアクターが進出してしまった。これは、特殊メイクを施すよりもCGIで作って合成した方が安上がりになってしまった証なのだろうか。それはともかく、CGIのクオリティーの低さをごまかすためか、単に動くものは動かしたいだけなのか、むやみやたらとCGIキャラクターが跳ね回り、重厚であるべきカットに全く落ち着きがなくなってしまった。暗いモノトーンに統一された色調や、重厚かつ豪華に再現されたセットといった見かけは古典ホラー映画にならっていても、このようなポップコーンがはぜているようにしか見えない演出が、本作のポイントとなるべき重量感と存在感を消し去ってしまっているのが残念でならない。

 巨漢が宙を舞うのは「ハルク」以来の流行なのかもしれないが、空を飛べないキャラクターに、無理に宙を舞わせる必然性はないと思うぞ。どうせ空中ブランコをさせるのなら、ターザンでも出したらどうかね。生身でアクションらしいアクションをしていたのは、ウィル・ケンプの狼男狩りぐらいではないのか。もっとも、CGIを駆使して実写のアニメを目指していたのなら、こういう作品にしあがるのも納得できるのだけど。ファンタジーなのだからリアルさにこだわることはないが、存在感にはもっとこだわりを持って欲しいもの。ウソの一言で片づけるのは簡単だけど、それを作り手がやっちゃいかんでしょ。たしかにCGIなくしては作り得ないキャラクターと映像の時代になってしまったが、「ほら、CGIのVFXってすごいでしょ」という作り手の声が聞こえてきてならない。だいたい、腕を切り落とされたというのにちっとも痛そうじゃないし、血の一滴も出ないのはどういうことだ。CGIで作ったキャラクターには血が通ってないのか、仏作って魂入れずではないのか、H氏だからという言い訳にはならないぞ。

 アニメ版「吸血鬼ハンターD」に影響された部分は散見されるけど、世界観や物語までインスパイアされてはいない。成り立っている世界が違うのだから、キャラクターやスタイルが類似しているからといって、Dのような新しい世界を確立させるのは不可能だろう。もっとも、製作者がストーリーの根幹に持ってきたものはキリスト教的なものなのだから、そこまでDと比較するのはナンセンス。そもそも、ターゲットもおそらくキリスト教圏なのだろうが、ルシファーとガブリエルをなぞらえるのは少々安直すぎじゃなかろうか。ドラキュラの薄っぺらさを、堕天使ルシファーの物語で補おうとでもしたのかな。だったら少しでもいいからルシファーとドラキュラの物語を映像化しておいた方が良かったと思うぞ。言葉の端にのぼるだけじゃ、知らない人にはなんの意味もなさないよ。でもまあ、あまり深く考えたりせずに観るのが、本作の正しい鑑賞法。ドラキュラと狼男の関係に何も説明がないことが、それを如実に物語っている。観客に有無を言わさぬ強引な展開は、狼男は銀に弱いといった定説を作り上げた初期ユニヴァーサルにだってあるのだから、突っ込みは楽しく入れてあげよう。

 それにしても器はでかいけど空っぽなんだよなぁ、とりあえず落ち着いて話をしようよ。途中は寝ていてもいいから、クライマックスだけは目と耳をとぎすまさないと(すましていても?)話の根本がわからないままだぞ。そういうぼくも何だっけ状態だけど、2度も観に行かない。とまあ酷評しておいて言うのもなんだが、駄作の気はあっても愚作ではないし、余計な部分に覆い隠されがちだけど事の真相もなかなかユニーク。ヴァレリアス一族の運命やドラキュラとヘルシングの関係には十分注意し、わからないところは想像力で補って見よう。そのかわり、ラストの空模様には目をつぶってあげるように。原作や初期ユニヴァーサルへのオマージュはそこそこちりばめられているので、そんなマニアックな部分で楽しむのもいいだろう。ただし、劇場でぶつぶつつぶやくのは迷惑だから、こっそりとニヤニヤするように。

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