3/28 白い石黒い石「恋愛適齢期」を観てくる。

 ヒップ・ホップ・レーベルのレコード会社を経営するハリー・サンボーンは、60歳になるプレイボーイ。30歳以下の女性としかつきあったことがなく、彼に言わせれば若い女性しか自分を選ばないらしい。とある週末を交際中のマリンと二人っきりで過ごすため、マリンの母エリカの別荘にやってくる。ところが、劇作家のエリカと叔母のゾーイもこの別荘で週末を過ごそうとやってきてしまったため、ハリーたちと鉢合わせ。自分よりも年上のハリーが娘とつきあっていることに戸惑いを隠せないものの、4人ともいい大人なんだからというゾーイの一言で共に週末を過ごすことにする。ちぐはぐな夕食のあと、ハリーとマリンはことを始めようとするが、ハリーは心臓発作で倒れてしまった。病院に担ぎ込まれて事なきを得たものの、若い医師ジュリアンにしばらく静養することを約束され、エリカの別荘で過ごすことになる。離婚後、人と距離を置き恋をしないことで一人で強く生きてきたエリカは、どうにもいい加減な雰囲気のハリーに嫌悪を感じるのだが、無理を強いてきた心を開き始め、ハリーもまた生まれて初めて本物の恋に気づき始めた。しかし、ジュリアンがエリカに恋をしてしまい、二人の間はちょっと微妙な雰囲気。やがて元の生活に戻ると共にすれ違い始め、別荘での一件を戯曲「愛すべき女」にしたエリカに、ハリーは腹を立ててしまう。

 別荘のシーンにやたらと赤い点がちかちか出たのは編集ミスじゃないのか? というのはさておき、笑って笑って泣いて笑える、いい歳こいた大人のラブコメ。無意味なコメディーパートはいっさいなく、シチュエーションで笑わせる。ハリーとエリカの間にじれったさは感じられず、長い人生経験の積み重ねから来る頑なさを感じさせる。これらは全て脚本の妙。怪優ジャック・ニコルソンもダイアン・キートンも実にキュートで存在感たっぷり、これは演技力の妙。心臓発作と胸のときめきを交錯させたのはユニークで、その都度ジャック・ニコルソンが笑わせてくれます。延々と泣きわめきながら劇作を書き上げてゆくダイアン・キートンは、しまいには泣いているのか笑っているのかわかりませんでしたよ。しかし、脇を固める役者たちがこの二人に圧倒されすぎていたのか、もうひとつ押し出されていませんでした。誰もがユニークであっただけに少々残念。特に、ジュリアンのパートが薄すぎて、三角関係のおもしろさがまったくといっていいほど出されていません。劇中の戯曲「愛すべき女」も含めてラストへの布石にはなっていますが、今ひとつどんでん返しにはなりませんでした。ジャック・ニコルソンとキアヌ・リーブスをぶつけること自体が難しいとは思いますが、このストーリーならジュリアンはいなくてもいいんじゃないかな。もしくは、マリンを交えてもっとややこしい関係にするとか。こういうラブコメはラストの予想がだいたいついてしまうので、もう少し時間をとって話を散らかしても良かったと思います。

 年齢層をあげたこともあって夢物語のようなおとぎ話にはなっていませんが、そのぶんちょっとリアルで身近に感じられる作品に仕上がっています。ジャック・ニコルソンの歌う、ルイ・アームストロングの「バラ色の人生」を聴きたい向きは、長いエンディングの最後まで席を立たないように。でも、ほんのワンフレーズとは短すぎるぞ。

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