3/14 「ブラザー・ベア」

 エンディングのようなプロローグから一気に急展開する作りには驚かされた。アメリカ先住民、というよりも古代人の自然信仰と、それを具現化したオーロラの奇跡は秀逸。クマになってしまったキナイと、母とはぐれた小熊コーダとのふれあいと変化は、特に奇をてらうこともなく平凡なパターンではあるが、この物語にはこの素直な展開がしっくりと来る。ただし、2匹が自分の足を使わずに旅をするのは、旅そのものを通じての2匹の交流が軽くなってしまった。この旅がもう少し苦難を伴っていたら、終盤の説得力がもっと増したはず。さらに旅の途中、定住型の動物たちを巻き込んで小動物大移動の様相を呈しているのに、その先が描かれていないのは中途半端。結局彼らは使い捨てのキャラクターなのか。それでも、デナヒがキナイに痰をかけようとするシーンと、ラストの後日談と、エンドロールの後につけられたおまけの本編を覆すようなとんでもない内容に比べればずっとまし。アメリカって国は痰を人にかけることをいとわないのか? 下品を通り越しておかしいと思うぞ。人間も自然の一部なのだから交流するのはおおいに結構だが、一定の距離を保って描かれてきた人間と野生の関係が崩されてしまった。そして、「一匹の鮭も殺していない」などとたわけたおまけは命を重く扱ったドラマを台無しにしている。しっかりとクマが鮭を補食しているのだし、切り身だって出てきているという矛盾が生じていることにすら製作者たちは気づいていないのか。しゃれのつもりなのであろうが悪い冗談にしか見えず、温まった心が一気に冷めてしまったぞ。CGIは多用されているものの、絵作りはいたって古典的な方向性、ディズニーのお家芸とも言える背景の美しさは健在。シツカの導く鷲のトーテムがかっこよかった。こういう自然信仰は、争いの絶えない唯一神信仰よりもよっぽど理にかなっていると思うぞ。(レビュー用のメモ書き)

 日本語の吹き替えは、東山紀之も森光子も役を作りすぎず素直な印象。天童よしみの歌にもまったく不安はない。でも、ヘンな英語訛りの一曲はなんだったんだろう、まさかフィル・コリンズ本人じゃないよね?

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