3/13 「ペイチェック 消された記憶」

 義理人情とアクションのジョン・ウーが作れば、フィリップ・K・ディックワールドの未来も明るくなる。伏線というほどではないが、物語への導入は謎とヒントをちりばめて、観客を期待と混乱の渦に一気に引き込む。中盤から御都合主義のようにさくさくと進む謎解きは次第にミステリーから離れてしまうが、その分をアクションシーンが増えるのでさほど気にはならない。そもそも、主人公のマイケル・ジェニングス以外にはパズルの答えなんてわかりっこないのだから、観客がそれを解こうというのが無理なのだ。物語を構成するミステリー以外にもおかしな点が散見されるので、頭をひねらずに楽しむことをお薦めする。そしてクライマックスは完全にジョン・ウーの世界、まさか出ないだろうと思っていたハトもしっかりとびたってくれて、なぜかホッと一安心。冒頭の一件が記憶を消すほどのものじゃないだろうと思わせるのは、本編の目くらましとして見事に機能しているのが秀逸。いかにも未来的な造形をしたり特殊効果を押し出すことをせず、リアリティーあふれる近未来を作り上げたことも、物語に説得力を持たせている。大きなウソを否定して、小さなウソをウソと思わせないといったところか。ところで、FBIの取り調べシーンで激しい光の点滅があったけど、こういうのは映画なら許されるのかな。気分は悪くはならなかったけど、左目がしばらく痛くてよわったぞ。(レビュー用のメモ書き)

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