2/21 エスニックウエスタン「ヘブン・アンド・アース」を観てくる。

 西暦700年、中国の西の果て。トルコ民族の捕虜を警備していた李隊長は、女子供ばかりの捕虜全員の処刑を命じた上官に逆らい、数名の部下とともに逃亡した。一人流浪のみとなっていた李はある日、砂嵐に巻き込まれたところを、同じ砂嵐にあってわずかに生き残ったキャラバンの警護隊長に助けられる。恩義を感じた彼は、かつての部下たちとともにキャラバンの護衛をし、唐の都を目指すことにした。13歳で遣唐使となった来栖旅人は、唐王の元で文武を学ぶうちに25年の歳月が流れていた。望郷の念に駆られる日々を過ごすようになった彼が帰国したい旨を申し出ると、最後の仕事として李の処刑を言い渡される。シルクロードの西方に李のゆくえを求めた来栖は、屈強な頭、安の率いる盗賊と、トルコ民族から命懸けでキャラバンを守る李たちと行動を共にするうちに、互いへの友情を感じ始めていた。しかし、大群を率いる李とトルコ民族の前に、キャラバンは死地へと追い込まれてしまう。

 時代も中身も中国の歴史劇なのですが、この作風は見事に黄金期のアメリカ西部劇をなぞらえています。中国大陸ならではの景観の見せ方も、壮大な美しさよりも自然の荒々し寄り。もちろんコルトもウィンチェスターもありませんが、キャラバンを取り囲み馬かける盗賊団、少人数で砦に立てこもる護衛たち、剣を交え弓を放つその戦いはまさに西部劇そのもの。東洋楽器を使っていながらも西部劇を彷彿とさせる劇判となっています。他作品と比べることをひかえるのが心情の僕でも、これは「荒野の7人」ではないかとうならざるをえません。とはいえ、決してパロディーなどではなく、「荒野の7人」が「7人の侍」をベースにしつつもきちんとひとつの作品として成り立っていたように、この作品も見事にオリジナリティーを昇華させています。惜しむらくは、キャラバンの運んでいる重要な荷を披露したところで、SFファンタジーになってしまうところ。西洋がキリストの奇跡を描くように、東洋が仏陀の奇跡を描くのはかまいませんが、いきなり真実味が失われてしまいました。そのため、意外な展開のクライマックスのその先が少々腰砕けなのも残念。また、ハリウッド資本なのかどうか、アクションシーンがいかにもワイヤーではないものの、アップと細かいカットを多用した何をやっているのかよく判らないという今時の悪い部分ばかりでしかないのも見応えを減少させています。それでも、シチュエーションを詰め込みすぎて話が飛び気味ではあるものの、展開にはそれなりに緩急をわきまえています。

 ただ一人の日本人、遣唐使来栖として起用された中井貴一が相変わらずそつなく役をこなしていますが、むさ苦しい男ばかりのキャスティングの中でスクリーンに花を添えるためだけ役回りではないかと思われる、文珠を演じるヴィッキー・チャオが、ナレーションばかりで演技らしい演技をしないために客寄せパンダにしか見えないのは残念。もっとも、もしもでくの坊のアイドル程度でしかないとしたらこれは手堅い演出なのですが、もっと物語の中心に絡んでくれればさらに面白かったんですけどね。まあ、シルクロード西域、トルコに近い場所が舞台とあって、エキゾチックな顔立ちの女優ばかりがキャスティングされていたのは、よくある中国映画とは一線を画していてユニークでした。

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