2/7 旅の終わりに…「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」を観てくる。

 サルマンとの戦いに勝利したアラゴルンたちは、エントともにサルマンを封じ込めたメリーとピピンに合流する。一時の平和をローハンで楽しむ彼らだったが、サルマンの魔法の玉に触れたピピンがゴンドールの危機を予見してしまう。アラゴルンの故国を救うため、ガンダルフとピピンは一足早くゴンドールに駆けつけるのだが、時の執政デネソールは息子ボロミアを失った悲しみに明け暮れていた。一方、滅びの山に向かうフロドは、指輪の重みと旅の疲れにその足取りが重くなり、心配するサムをよそに指輪を取り返そうとするゴラムの画策にはまりつつあった。そして、それぞれの旅はいよいよ佳境を迎えるのだが…。

 物語はスメアゴルから始まるのですが、これがゴラムの夢なのか回想なのかはっきりせず、とってつけたようになっています。せっかくゴラムの動きを演じているアンディー・サーキスがCGI無しで出ているだけに、これは残念。これならゴラムをCGIにする必要はなかったんじゃないかと思うくらい、彼のスメアゴルがユニークだったというのはさておき、この後の展開からゴラムの夢じゃないかと思うのですが、それならば目を覚ましたゴラムのカットを入れてワンクッションおけばつながりも良くなるし、ゴラムの心情がより強く表現できたはずです。また、オルサンクの塔の戦闘後にメリーとピピンのとっている行動が、スペシャル・エクステンデッド・エディション(SEE)とつながっているのはおかしい。さらに、ここでのサルマンのシーンが全てカットされたのは誠に残念ですが、確かに中途半端に入れるよりは思い切ってカットした方が良い仕上がりになってたのはまあ良しとしましょう。しかし、こんなことなら2作目できちんと片を付けておくべきでした。そして、カットした分の尺を終わりそうで終わらない長い長いラストに持ってきたような気もしますが、ここはもうちょっと短めにまとめてほしいところ。観客は劇場の中で余韻に浸ってしまい、劇場を後にしてから残るものが細くなってしまいます。ここまで後を引く作りにするのなら、少しぐらいサルマンのシーンを残しておいてもバチは当たらないと思うぞ。せめて、クリストファー・リーに敬意を表して、エンドロールに登場させてほしかったな。滅びの山のラストでスクリーンを暗転させたのも、そのまま同じシーンにつながっているため、フロドとサムが意識を失っていたらしいことを意味するにはつながりが悪く、いまいち意図がつかめません。追記:目玉のサウロンはコメディーリリーフ、なーんだ、あんなのに操られちゃうなんて心って弱いもんだな、ぐらいに思ってみてあげましょう。

 いきなり批判をしてしまいましたが、気になったのはこれぐらい。核心となる物語は緊張と弛緩、緩急の巧みな構成によって3時間半という長丁場を決して飽きさせず、話が進むほどに引きつけられる魅力にあふれています。ただし、体は正直なので結構疲れました。さて、今回も見せ場である戦闘シーンは、危険なカットがCGIであることは明白なものの、圧倒的なリアリズムとヒロイズムで迫力満点。投石機から放たれる巨岩は今にもスクリーンから飛び出してきそうで、思わずよけてしまいました。敵対するサウロン軍をていねいに描いているのも前作同様で、不敵なオークの大将が実に感情豊かに活躍しています。もちろん、指輪物語の中における戦闘シーンは決して中心となるものではありませんが、やはり映画となると見栄えのするシーンであることは確か。そのため、戦闘シーンを単なるどんちゃん騒ぎにすることなく、キャラクターごとの見せ場を設け、きちんとストーリーを盛り込んでいるため、話がとぎれるだけでなく、これと対比する静かなドラマも引き立っているのです。これは各シーンごとだけではなく、アラゴルンたちとサウロンの戦いという動的なものと、フロドたちと指輪の戦いという静的なものという、作品全体を二分する構成にも現れています。陰と陽、静と動をきちんと描いている、これこそがこの長大なシリーズを引き立てている根本なんですね。どちらか一方だけを長々と見せられても、話が平らになって飽きるのも早いですし、映画そのものが破綻してしまいますから。

 細かいシチュエーションも、そのまとまりについてもいちいち上げていたらきりがない、というよりも、原作があまりに有名とはいえネタをばらすことになるのであまり多くを語ることはできませんが、エンドロールが終わる頃には旅の終わりの喜びと一抹の寂しさを堪能できる、納得のできる最終章となっています。もっとも、ストーリーそのものは決して複雑怪奇なものではないため、斜に構えることなくストレートに楽しむことができますし、途中で目を離しても話がわからなくなることはありませんが、きっと目を離したくなくなるはず。それでも3時間半をじっとしているのは大変なので、これを乗り切られるよう万全の体調で劇場に足を運んでください。おそらく、説得力に欠けている部分は、SEEでまとめてくるとは思いますが、それまではこの作品が全てです。いや、これだけの長編でありながら、ここは要らないというカットがほとんどなく、ここはもっと語るべきだと思わせる仕上がりというのはとんでもないことですよ。しかも、テレビシリーズなどではなく、劇場で観たいというのは。SEEのSEEができたらどうしましょ。その時には、多少盛り上がりに欠けるとしても、もっとドラマの部分を厚くしてほしいですね。まさに、歌劇「ニーベルングの指輪」に迫る、映画としてならそれを超える作品になりそうです。

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