2/4 バミューダ・トライアングル「ニューオリンズ・トライアル」を観てくる。

 ニューオリンズのとある月曜日。休日に息子の誕生日を祝ったジェイコブは、いつもと変わらぬ証券会社の慌ただしい朝を迎えていた。しかし、響き渡る銃声が平和な一日を暗転させてしまう。それから2年後、未亡人となったジェイコブの妻セレステは、惨劇の凶器となった銃器のメーカー、ヴィックスバーグ社を相手に訴訟を起こすことを決意、地元のベテラン弁護士ウェンドール・ローアとともに陪審裁判に臨む。これに対して、銃器メーカーはあらゆる手段を駆使して陪審員の表をものにする陪審コンサルタント、ランキン・フィッチを雇い、万全の体制を整えつつあった。かつて同様の訴訟で原告が勝訴した例はなく、もしもこれが初例となれば今後の裁判に大きな影響を与える、どちらにとっても負けられない裁判なのだ。しかし両者の思惑とは別に、陪審員の中に判決を自由に動かそうとする勢力があった。フィッチの力を持ってしても裏のとれないこの男、ニック・イースターは、仲間のマーリーとともに、ローア、フィッチの双方に陪審員の票を売ることを持ちかける。力押しで勝訴を勝ち取らんとするフィッチ、理想と情熱を持って陪審員の心を動かそうとするローア、そして知力を駆使して裁判を操ろうとするニック、このトライアングルの裏側には意外な真実があったのだった…。

 見終わった瞬間に祝杯を挙げたくなるほどにスカッとする、キャスティング、カメラワーク、脚本、構成、演出、その他諸々、ほとんど全てにおいてバランスのとれた裁判ミステリーサスペンス。短いカットではあるものの、緊張感をあおるための慌ただしいカメラワークには目がくらみましたけどね。実をいうとレビューはこれで終わりにしたいぐらいですし、内容についてはこの程度のあらすじを書くのが限界です。特に、鍵を握るニックとマーリーについては、本編の中盤からじわりとヒントを出してくれるので、極力予備知識を持たずに観てください。といったところで改めてレビューですが、ジェイコブを襲った悲劇がほんの短時間にもかかわらずしっかり描かれているため、物語の中心軸となる裁判への期待と不安がとてもしっかりしたものになっています。そして対立するのが理想主義という感情に訴えるものと、現実主義という理性に訴えるもの。この対極に位置するものの拮抗は、劇中の陪審員のみならず、観客をも翻弄すること間違いありません。しかも、見るからに悪人そうなジーン・ハックマンが演じる、冷酷で汚いながらも緻密で計算高い手段を駆使するフィッチ、見るからに善人そうなダスティン・ホフマンが演じる、積み上げてきたキャリアと勘を駆使するローア、この二人と二つの役の対立がまた見事なエンターテイメントとなっています。ハックマンとホフマン、胡散臭いのと頼りないおやじの対決なので絵面は決してきれいではありませが、一触即発の緊張感をはらんだツーショットとなっているのは、実に見応えあり。この虎狼の間に割ってはいるのが、ジョン・キューザック演じる物語の鍵であり大きな謎となるニック。何を考えているのかわかりそうでわからず、いい加減なお調子者ぶりから知性の片鱗を見せるまでの緩やかな変貌が素晴らしく、陪審員を誘導する口車はお見事という他はありません。また、ニックの相棒マーリーを演じるレイチェル・ワイズの感情を抑え込んだ演技もクールでしたし、バラエティーに富んだ陪審員たちの本音と建て前、理想と現実をさらけ出したドラマも秀逸。でも、気になりつつ結局わからなかったのが、ニックが持っていた古い懐中時計。なにかとても思い入れのあるもののように見えたのですが、それがなんだったのかは憶測の域を出ません。もしかして、見逃しちゃったのかもしれませんけどね。もっとも、ニックとマーリーの謎については、クライマックスで、最小限の情報にもかかわらず一気に理解させてくれます。どろどろとした人間ドラマを押さえつつも、明暗のコントラストがはっきりした物語によって爽快な気分にさせてくれる傑作でした。さあ、祝杯祝杯。そうそう、記憶が不確かですが「1000万ドルは簡単に用意できたよ、まるではした金みたいだった(後略)」というセリフがよかったですね。後略の部分は物語の決め手となるのですが、思わずひざを叩いてしまいました。

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