1/3 偽善と欺瞞「すべては愛のために」を観てくる。

 イギリスの実業家ヘンリーと結婚し、何不自由ない生活を送るサラ。彼女は、義父の慈善活動をたたえるパーティーの場で、エチオピアから乗り込んできた医師ニックと、彼が連れてきた難民の子供ジョージョーに出会い、その翌日移民局から逃げ出したジョージョーが寒さのために死んだのを知ったことから、私財をなげうって慈善活動に乗り出す。しかし、彼女の心は難民救済という当初の目的から少しずつ外れ、ニックとの関係にすべてをかけるようになってしまう。

 原題は「Beyond Borders」、国境の彼方という意味でしょうが、この作品に関しては邦題が正解。難民の悲惨な実情と、その救済に危険を冒しても命をかける人々がテーマといったユニセフあたりのコマーシャルなどではありません。もちろん、この作品を見て慈善活動に乗り出すもよし、何もできない、何もしない自分に憤るもよし、ニックたちの活動に感動するもよし、サラの愛に涙するもよし。ですが、エチオピアからイギリスまで、どのような手段を使ったのか知りませんが、難民の子供一人を連れてきてこれが現実だと訴えるニックの行動そのものが一種のプロパガンダ、コマーシャルでしかないのですよ。サラの心移りも確かに不倫なのですが、事業に失敗したヘンリーがサラの留守中に元部下の女性と家にいるという、どう考えてもヘンリーも不倫だろうという部分がはっきりと描かれてず、それでもロンドンに帰る家があるという設定のため、ちっとも同情や感情移入ができません。ニックの活動拠点が世界各地を転々とすることによって戦争は世界各地にあると訴えているらしいことに異論はありませんが、難民の受難よりもニックの受難に話が移ってしまった上、どうにもニックの信念といった部分がはっきりとせず、ああご苦労様ですねという他はありません。せっかく2時間あまりとコンパクトにまとめたのですから、舞台はエチオピアだけでも良かったと思いますよ。それに、ニックとヘンリーの関係の顛末は、二人の愛の深さを物語る以前にこの作品のポイントがこちらであることを如実に物語っているとしか思えません。だからこそ、邦題が正解なのであり、決してドキュメンタリーではありません。というわけで、私はこの作品にきれい事も本音もあまり垣間見ることが出来ず。何の感慨も感動も反感すらもありません。まあ、戦争と難民は未だに絶えないことは現実なので、多少なりともそれをしらしめるのならいいのかな。でもね、おかしな意見かもしれませんが平和ボケ万歳なんだよ。最後に、カンボジア難民救済のため、かつて街頭募金に立っていた経験から一言。募金や救済活動は確かに意義のあることですが、その活動をする自分の食費は、時に募金の額を上回るのです。この作品でも救済活動にはそれなりの費用がかかることを示唆していたことは、ささやかながら評価しておきます。

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