11/10 マカロニヤクザの恨み節「キル・ビル」を観てくる。

 ブラック・マンバの異名を持つかつての暗殺者も、組織を引退して幸せな結婚式を迎えようとしていた。しかし、組織のボス、ビルはそれを許さず、式を急襲して皆殺しにしてしまう。それから4年後、奇跡的にも一命を取り留めた暗殺者は意識を取り戻し、夫とお腹の子供の命を奪った組織のトップに復讐するため、血塗られた旅に出る・・・。

 のっけからショッキングな殺人シーンで幕を開け、ある時は幼い娘の前で、ある時は雲霞のごとく押し寄せる的を相手に、手足が飛ぶ飛ぶ首も飛ぶ。もうあっけにとられるほどのスプラッター&スラッシュシーンの連続。やりすぎも度を超せばギャグになるとはいえ、残酷な人体破壊描写が嫌いな向きには耐えられないかもしれません。といいつつ、実は私も嫌いな方なんですが、この奇妙な爽快感はなんだろう。残酷で名をはせたマカロニウエスタンをマフィアの世界に置き換え、闘う女性たちで綴る復讐劇。おまけに舞台は、おそらく1960〜80年代ぐらいのB級アクションの焼き直しの中に詰め込まれた、ありそうでなさそうなパラレルワールド。この年代の映画で育った向きには、おそらく聞き覚え見覚えのあるパーツが少なからず見つけられることでしょう。カトーマスクで「グリーン・ホーネット」だなぁと思っていたら、テーマ曲が流れるんでやんの。梶芽衣子の「修羅の花」には思わず唸ってしまいましたね。それって思い切りバカにしていないかとしか思えないルーシー・リューの落ち武者のような姿を一瞬忘れてしまいましたよ。ルーシーといえば、下からのアングルが多くてあの変な目つきをやけに強調していたな、素で笑いをとろうとしていたのかな。話を戻して、思わず吹き出してしまう冗談のようなシチュエーションを用意しておきながら、どういうわけかばかばかしくはない。ユマ・サーマンとルーシー・リューにわざわざ片言の日本語で会話させる必然性なんて全くなく、かえって何を言っているのかわかりづらいというのに、これが一笑に付しそうで、おかしな方向ではあるけどそれなりにうまい方向にテンションを持っていく。日本語のセリフなのにちょっとたどたどしいけど明暗の差がばっちりなサニー千葉、完全にぶち切れていることが魅力的な栗山千明、その他日本のキャストも奇っ怪なパワーをぶちまけています。何より、全てのキャラクターが同情と嫌悪という相反する感情を抱かせる悪党ばかり。このような、一歩間違えれば作品の足をひっぱりかねない要素が、全て牽引する方向に向いているのが、本作の凄いところです。惜しむらくは、パート1の見せ場ではあるものの、「青葉屋」の大殺陣が長すぎですね。観ている方が疲れちゃいます。ひょっとしたら、こういうところを切りつめれば2部に分けなくてもすんだんじゃないかな。それと、ヒロイズム(ヒロイニズム?)を優先させた結果なのかどうか、報われない過去なんか描いたりしているわりにはどのキャラクターも今ひとつ人間くささが希薄。ユマ・サーマンも強すぎじゃないかな。

 そんなこんなで痛いのがダメな向きは絶対に観ない方がよろしい作品ですが、そうでない向きには、この、どう見ても笑い事なのに圧倒的なパワーに引きずり込まれてしかも単純なストーリーだけど見事なシナリオだったりするもんだから決して笑い事ではないけど歓心感嘆の笑いはこらえきれないというちょっと言葉では言い表しがたい世界に放り込まれてしまえってんだべらんめぇ。いや、オーレン・イシイの生い立ちを綴るアニメにはちょっとイスからずり落ちたけど、これこそ栗山千明でぶちかまして欲しかったぞ。キャラが違ったって、おかしな二役になったっていいじゃないか。結末なんて二の次、早く次が観たいぞ。それでだな、危ない看護婦ダリル・ハンナの口笛が耳から離れないのだよ。彼女の活躍もパート2に持ち越しだ。

戻る