10/19 伝説はクジラと共に「クジラの島の少女」を観てくる。

 ニュージーランド、クジラに導かれた勇者パイケアを先祖に持つマオリ族の小さな漁村では、代々族長の長男が伝統と村を守ってきた。しかしその年、族長コロの息子ポランギは双子を授かるが、難産のために男の子と母親は命を落としてしまう。妻と子供の一人を失ったポランギは悲しみに暮れ、族長の血筋ばかりを気にかけるコロと衝突し、村を出て行ってしまった。生き残った女の子は勇者と同じパイケアと名付けられ、祖父母の元で育てられる。やがて族長の後継者を育てる学校か開かれるのだが、パイケアは女であるがゆえに参加することを許されない。しかし彼女は、学校の外にあっても村の伝統と文化を学び取ってゆく。そんなある日、パイケアが歌う先祖への祈りの声に応えたかのように、村の砂浜にたくさんのクジラが打ち上げられる・・・。

 小さいながらも、現代におけるニュージーランド先住民の文化を色濃く現しているであろう逸品。ごく普通に現代の欧米文化を受け入れ、失われがちになるマオリ族の文化。しかし、それはマオリ族の人々に流れる血の中に、失われずに残されていく。そして、パイケアがスピーチコンテストで語る、一人の長が文化のすべてを担うのは疲れてしまうが、大勢で受け継いでいけば疲れることなく、より広く文化を広めることが出来るという一節が、この作品のすべてを象徴していると思います。また、もっと陽気で明るい雰囲気を想像していましたが、田舎独特の暖かさもさることながら、田舎独特の冷たさや暗さ、寂しさが意外なほど強く押し出されていることに少々驚きました。多少のユーモアを交えながらも、全体的には曇り空みたいな雰囲気に包まれています。せめて、自然の映像の中にもうちょっと華やかさがあると嬉しいんですが。そんな中であるがゆえか、自分の信念を貫き通そうと頑張るパイケアが、ひときわ輝いて見えますね。さらに、彼女を応援する人々、特に、コメディーリリーフでありながらいいとこを見せる叔父のラウィリとその恋人、ちょっと不良っぽいながら根は純真な友達のヘミがいい味を出しています。パイケアへの態度が2転3転しつつ愛情を失わない祖父母も、族長とその妻という立場も絡めて人間味にあふれていますね。

 そしてクライマックスのイルカに乗った少年ならぬ、クジラに乗った少女が見せる奇跡、パイケアが歌うマオリの歌の神秘的な旋律と相まって、これぞまさしくフォークロアらしいファンタジーでしょう。打ち上げられたクジラはリアルな作り物なのかな? 海中でクジラにまたがっているのはダミーかな? なんてところに目を向けている場合ではありません。そして、ラストではちょっぴり意外な展開が待っており、ちょっぴりホロリと感動させてくれます。マオリ族の伝統や人物相関において、ビジュアルでもセリフでも、それを補うパイケアのナレーションでも少し説明不足なところが見られますが、物語が進むにつれてさほど気にはならなくなることでしょう。実際のマオリ族の村がこの作品のようなのかはさておき、きちんとリアルできちんとファンタジーになっている、いいお話でした。エンディングに流れるマオリの歌が、じつに心地よく聴かせてくれます。

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