09/07 大江戸・タップ・シティ?「座頭市」を観てくる。

 ヤクザの銀蔵と大店の扇屋が結託して仕切る、とある宿場町。浪人との試合に敗れ、自らも浪人に身を落とした服部源乃助は、病弱な妻おしのの薬代のためにヤクザの用心棒となった。10年前に両親を殺された旅芸人のおきぬとおせいは、敵の盗賊一味を捜して流れ着いていた。そして、盲目にして居合いの達人、座頭市もまた、行く当てのない旅路の途上で、その宿場にほど近い農家のおうめの元に身を寄せていた。座頭市は銀次の賭場で、おきぬとおせいは扇屋の席で、それぞれが起こしたトラブルは思わぬ展開を見せ、宿場町に血風が吹き荒れる・・・。

 粋で残酷な座頭市のチャンバラは、開始早々ヒートアップ。いかにもいわくありげな源乃助とおきぬたちも、何もせずとも一癖ありそうな雰囲気は秀逸。ヤクザ者の横行する宿場に流れ着いた、各人の過去がカットバックされるこの序盤は、これぞエンターテインメント。お座敷芸にさり気ない小ネタの数々も、出しゃばることなく物語に花を添え、これから起こるいざこざに、否応なく期待は高まります。ところが、なのですよ。おきぬとおせいの過去を二度手間に描き、長々と挿入されたこの二人の踊りの後から、すべてのパーツがバラバラになってしまうのです。駆け引き、ドラマ、チャンバラ、芸能、小ネタのすべてが、それぞれを引き立て合うことなく好き勝手に繰り広げられてしまい、まるでバラエティーの様相。それも、序盤ではせっかくリズムを大事にしていたのに、どうにも乱れてしまっています。

 また、銀次と扇屋にきちんと盗賊一味を絡め、おきぬとおせいに最後の見せ場を用意するべきでしょう。銀次の正体は入れ墨からすぐにわかるんだけど、というかくちなわの意味を知らないってことに驚いたのはさておき、どうにもイコールで結ばれません。大親分の正体には驚かされるので、やっぱりおきぬたちが過去だけではなく現在でも深く関わってきてほしかったところ。座頭市と源乃助の活躍は十分予測できるものなので、おきぬとおせいが意外な強さを見せるってのに期待していたんだけど。どちらかが命を落とすぐらいでもいいと思うよ。そして、予告編では見せ場のひとつと思わせられるタップダンスが、完全ではないもののストーリーから切り離されているのはもったいない。これこそ大立ち回りにカットバックさせて双方共に盛り上げてほしかった。座頭市たちの激しい斬り合い、町民農民たちの激しい踊り、この相反する二つの情熱が絡み合えば、また違ったおもしろさが出たんじゃないかな。もしくはこの映像をエンドロールにのせて、座頭市の最後のセリフで幕を閉じるってのもよかったかもしれません。タップダンスとエンドロール、同じような曲を二度繰り返されるのは、結構苦痛です。和服女性のタップは、なかなかに色気があってよかったんだけどね。

 たけし版「座頭市」、時代劇っぽくないけどしっかりとチャンバラ時代劇、俗っぽいけど低俗ではなく、小粋さと皮肉のスパイスがきいていてなかなかに面白いし上がりでした。よく観る顔の多いキャスティングですが、全員がきちんと機能しています。健康的な夏川衣結が、それなりに不健康に見えたのがユニーク。おせいの正体もちょっとおかしいなと思いつつ、明かされるまでは確信できませんでした。たけし軍団はあいかわらずだけど、素で土臭さを演出できるのは一芸か。それぐらい、しっかりと役を作らせていると思われます。観る前はちょっと心配していたものの、決して勝新太郎の座頭市と比較しながら観るような作品ではないでしょう。勝新太郎ほどに張りつめたシュールさはあまり感じられないけど、弛緩と緊張のメリハリが強いビートたけしも悪くはありません。まあ、勝新太郎版で、こぼしたみそ汁をかき集めてご飯にかけたシーン以上のインパクトは、私には感じられなかったんだけどね。黒澤明の時代劇へのオマージュも垣間見られますが、こちらも鼻につくほどではありません。といっても、そういう視点から見るのなら、失敗しているとしか言えないのですが。それだけに、やっぱり終盤の構成にはもう一工夫ほしかったところ。もっとも、私でも簡単に思いつく構成にしなかったのは、なにかしら監督の意図があったのかもしれませんけどね。特別美味しいわけではないけどお腹いっぱいになる下町食堂感覚って、こういうことなのか?

 余談なのかどうか、「子連れ狼 三途の川の乳母車」を彷彿とさせられる、スプラッター度が高く実に痛い殺陣には、意外にも嫌悪感ではなく爽快感を感じました。でも、CGで作ったらしい刀身はちょっと違和感があったぞ。堂々とめくらにこじきと言い放つあたりには驚きましたが、まったくもって不自然ではなかったことにもまた驚きました。これらは徹底して容赦のない描写とシナリオの妙なのでしょう。念のために断っておきますが、半端な意識で放送禁止用語を設定して、逆に差別意識を持たせられる風潮には反対なのですよ、私は。やるんなら、卑下罵倒する言葉をすべて禁止にしてみなさい。な〜んてこと書くと厭な風が吹いてきそうなのでこれでおしまい。

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