08/03 怒らないヒーローと泣かないヒロイン「ハルク(吹き替え版)」を観てくる。

 米軍の研究施設で肉体強化の研究をしていたデビッドは、許可の下りなかった人体実験を自らの体で行うが、それは授かった息子ブルースにも受け継がれてしまった。しかし、4歳になったブルースには何も知らされることなく、ある事件でデビッドは逮捕されてしまう。やがて養父母のもとで成長したブルースは科学者となり、同僚のベティと共に偶然にも父と々研究に着手していた。そんなある日、実験中の事故でガンマ線を大量に浴びたブルースは奇跡的にも一命を取り留めるのだが、それは奇跡ではなかったどころか、彼自身の心身に眠っていた父の研究結果を「緑色の怪物ハルク」という形で呼び覚ましてしまう。ベティの父であり、かつてデビッドの同僚だったロス将軍に保護されたブルースだったのだが、研究の横取りを企むグレンによって生体実験の標的とされてしまうのだった。

 画面構成がコミックスそのままにコマ割りされていたのには恐れ入りました。しかし、おそらく監督のアン・リーは頑張ってアメコミを研究したのでしょうが、残念ながらそこから得たものは、そういったビジュアルだけだったのかもしれません。とにかく、ブルースがハルクとなるまでの長い長い前半の作りはいただけない。ていねいに描いているわりには説明不足すぎて後半へのつながりが悪く、さらにはつじつまの合っていないセリフが多々見られます。「おまえには教えない」と言っておきながら「おまえにはわかるまい」とぬかすんですから、コントかと思いましたよ。本筋に関係ない部分はばっさり切り捨て、もっとワクワクするような前振りにするべきでしたね。ハルク状態の時に怒り以外の感情が目立つもの減点ですが、ハルクの正体がブルースであることをベティが最初っから知っているのも大きなマイナス。いや知っていてもいいのですが、その事実を簡単に受け入れてしまってはいかんでしょう。社会にも恋人にも拒絶され、怒りの感情のみに支配されたときにはベティをも危うい状況に追いやってしまうブルース。そんな彼を最後の最後に受け入れ、愛してこそ、ハルクの悲哀が活きて来るというものです。これがまた悪いことに、ラストに愛がなかったりするのですから困ったもの。クライマックスを見守るベティ、まるでカエル実験のように冷静だぞ。そこで泣き叫ばなくてどうする。他のところでホロリと泣いているのになぁ、おかしいなぁ。

 それでも、スピーディーであっと驚く展開を見せる、やり過ぎもここまで来れば立派なコメディーの戦闘シーンは見応え十分。ブルースの髪の毛からハルク犬を創るデビッド、きまくりすぎです。ハルクと戦うハルク犬、インパクトありすぎです、特にプードル。ヘリと戦うハルク、動きすぎです。戦車と戦うハルク、パワフルすぎです。戦闘機と戦うハルク、頑丈すぎます。坂の街サンフランシスコで小暴れするハルク、お茶目すぎます。ドラマが薄っぺらな分カタルシスはありませんが、笑い転げられる分は楽しめます。フルCGのハルクには一抹の不安がありましたが、多少ぎくしゃくした動きと、これは走らせるのが面倒だったのか高速に移動させたかったのか、やたらジャンプしている以外はさほど気になりませんでした。重厚長大なイメージのハルクですから、あまり早く動かさない方がいいとは思いますけどね。数カットしかありませんが、ものすごい勢いで走るハルクには、イスからずり落ちましたよ。

 とまあせっかく盛り上がったクライマックス第一回目を、まるでちゃぶ台をひっくり返すように台無しにするもう一回あるクライマックスにはまた恐れ入りました。息子がガンマ線を浴びてハルクになったように、親父もガンマ線を浴びて物質同化(透過とはちょっと違う)能力を得るんですけどね、これが結末へつなげる苦肉の策にしてはどうにもこうにもトホホなんですよ。軍に投降した親父が手錠をかけられているんですけど、この手錠がいつポロッと落ちるかワクワクしていたのに、それがなかったなんてのはかわいい方で・・・まあいいや。ヒロインもクールなことだし、感動させたかったのか笑わせたかったのか、どうにも中途半端なんだな。それにこの物足りなさは、マッド・サイエンティストのデビッドと、欲のかたまりみたいなグレンの二人以外に感情の起伏があまり感じられないからなのかもしれません。肝心なブルースの怒れる男にも、というかCGのハルクの方が表情豊かなのはどういうことだ?

 さて、お約束のつっこみどころ「ハルクのズボン」なのですが、ワンシーンだけすっぽんぽんのブルースが出ます。大きくなっても破れないのに、小さくなったら脱げちゃったのかね。

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