06/30 気分は名画座の空「ムーンライト・マイル」を観てくる。

 1973年、マサチューセッツの港町、ケープ・アン。フロス家は一人娘ダイアナの葬儀に追われていた。うわべばかりの弔問に苛立つ母親ジョージョー、冷静を装い前向きに進もうとする父親ベン。そして、ダイアナの婚約者ジョー。婚約者ダイアナの希望で彼女の故郷に住むことに決めたジョーは、3週間前からダイアナの両親と暮らし始めていた。しかし、ダイアナはベンと待ち合わせていたレストランで起こった事件に巻き込まれ、命を落としてしまう。娘を失いながらもジョーを息子として受け入れ、新しい関係に希望を見いだそうとするジョージョーとベン、そしてどうしていいのかわからない気持ちのまま、二人の希望を壊さないようにしようとするジョー。だが、ジョーとダイアナは事件の3日前に婚約を解消していたのだった。それを打ち明けられないままに、ベンの仕事を手伝い始めるジョーなのだが、ふとしたことで知り合ったバーティーに安らぎを求めてしまう。しかし、彼女もまたベトナムで3年前から行方不明になってた恋人への思いを抑えていることを知るのだが・・・。

 まずはお断り。原因と結果が符合していないとか、人物像がよく判らないとか、脚本の穴というか説明不足が散見されるので、わからないところは想像して補って観ましょう。そういうレベルの脚本と演出の、古くさい青春映画です。

 単純に最愛の人が亡くなってしまった悲劇ではなく、最愛の人とすでに別れてしまっていた後に起こった悲劇というちょっとひねった設定が功を奏して、新しい人生を模索する三人ともう一人の心境の紆余曲折がユニーク。また、湿った話に終始することなく、ベンとジョーの仕事や事件の犯人の裁判をきちんと織り込み、ほどよくコミカルに描いているのも好感が持てます。特に、優しさと臆病さの入り交じったジョーを演じる、ジェイク・ギレンホールの奇妙に複雑な表情はお見事。もちろん、名優ダスティン・ホフマンとスーザン・サランドンもいい雰囲気を出しています。。

 ブラッド・シルバーリング監督が実体験をもとに脚本を書き上げた作品なのですが、それでも監督の事件は1989年。ベトナム戦争末期に舞台を移したのがどうにも腑に落ちないのですが、舞台だけでなく映像の色合い雰囲気から音楽まで徹底的に1970年代で埋め尽くされたおかげで、新作にもかかわらず名画座で昔の映画を観ている気分にさせてくれます。それが当時を知らない観客の目にどう映るのかはともかく、過去の悲劇を忘れ去ることはできないけど、前向きに進むことはできるというメッセージになっているのでしょう。もしかして、最近戦争ばっかりしているから、これにベトナム戦争も引っかけているのかな。それとも、単純にノスタルジックにすることで、悲劇は過去の出来事ってことを強調しているだけなのかな。あ、もしかして「卒業」っぽいイメージでもあったのかな、ダスティン・ホフマンの役が同名だし、ってのは考えすぎだよね。でも、個人的には雰囲気を大事にしつつも現代を舞台にしてほしかったな。

 舞台の古さに加え、繰り返されることが多いテーマなので新鮮味には欠けますが、ちょっとしたひねりのおかげで同調できる心境の時にはたまらなく共感できる作品でしょう。余談ながら、ジョーから見れば夫婦仲のかんばしくないフロス夫妻なのですが、ジョージョーは「夜寝る時におしりを突き出すの。そうすると、どんなに寒い夜でもおしりの先に(ベンの)ぬくもりを感じるの。それが安らぎなのよ」と答えるんですね。同じ空気も吸いたくない〜なんてパターンはさておき、そういうささやかな安らぎを見いだすことができれば、誰もみなもう少し幸せで満たされるんじゃないでしょうか、なんて柄にもないことを言ってみたり。そうそう、この作品ではエンディング・ロールの後に監督のメッセージがあるから、ネタにしたい向きは席を立たないように。

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