03/08 廃墟に響く「戦場のピアニスト」を観てくる。

 第2次世界大戦中のワルシャワ、ナチス・ドイツの迫害を受けたユダヤ人ピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンの過酷で数奇な運命。この史実を、自身もまた7歳の頃に強制収容所へ送られ、脱走したという経歴を持つユダヤ系ポーランド人のロマン・ポランスキーが描くのですから、まったくもって私ごときがなにをかいわんやなのですが・・・。

 あまりにも淡々とした映像とストーリーは、ドキュメンタリーとフィクションの狭間にあるとも言うべきでしょうか。ささやかに盛り込まれるあきらめにもにたユーモアですら、ナチス・ドイツによる民族浄化、ことにユダヤ人排除という真実の説得力のひとつとなっています。これらは、戦争という狂気の名の下に、しごくあたり前に行われる殺人よりも印象的でした。映画としてははっきりと描かれていないものの、ナチス・ドイツのポーランド侵攻、そしてここから物語が始まるワルシャワ陥落、ユダヤ人居住区(ゲットー)から強制収容所への足取り、その間の恐怖の支配下におかれたワルシャワの町並みと人々、レジスタンスに逃亡活動、ドイツの敗色が濃くなってきた頃の廃墟と化したポーランド。映画としてはこれらの全てが、終盤、心あるドイツ軍将校の前で、死の町と化したワルシャワに鳴り響く、シュピルマンのピアノのために用意されたといっても過言ではありません。

 この、あまりにもむなしく、あまりにも情熱的な景色には、恥ずかしながら、ただただ涙を流すほかにはありませんでした。シュピルマン自身が信念や執念といったものをあまり強く感じさせない、どことなく本作そのもののように淡々としていることも、どう表現していいかわからない、感動とは別の何か不思議な感情の高まりに拍車をかけているような気がします。何しろ、ほとんどを自分の意志というよりは敵味方関係なく周囲に助けられているのですから、これを天命といわずしてなんといいましょうか。しかし、彼を助けた多くの人は不幸な末路をたどってしまったのがまた哀しいものです。

 もっとも、確かにナチス・ドイツによる、というか戦時下の国家という狂気のもとに行われる、ホロコーストの恐怖を描いた作品には違いないのですが、しょせん立場次第では人間なんて同じようなもんだとほのめかしていたり、立場に関係ない善悪を描いていたり、実に感慨深いものがあります。いや、せめてこれがフィクションであったなら、もっと違った形で楽しく鑑賞出来たのではないかと思います。民族戦争どころか、国際戦争(紛争どころの騒ぎじゃありません)すら未だに絶えないのですから。まったく、人間社会が戦争から学んでいるのは、次はいかにしてうまく戦争をするかであって、いかにして戦争を回避するのかではないようです。

 こんな作品なのに、髪も髭も伸び放題になったシュピルマン、ドイツ将校のコートを着た姿が「白夜の陰獣」のクリストファー・リーみたいだなんて思ったのは内緒だ。

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