2003/02/15 スペシャル・トークバトル「ハマー・ホラー篇」

 舞台はいきなり尼崎シネ・ラ・ティエラから始まります。新幹線の切符を無くしたとか(せ)、降りる駅を間違えたうえにしばらくそのことに気がつかなかったとか(D)、最初に目指したお好み焼き屋が風俗店の上だったとか(D)、その向かいにあった激安お好み焼き屋のコーラは炭酸が抜けていたとか(せ)、人のお好み焼きは返すのを失敗したとか(D)、シネ・ラ・ティエラの前でシネ・ラ・ティエラを探してしばらく迷っていたとか(せ&D)、面白い前振りは抜きなのであります。括弧内の変な記号はなんなのだという説明ももちろんいたしませんが、そこはそれここはほれということにて開幕とあい成りましたのでございます。

 抜け作なことをしつつも間に合いまして開場待ち。想像通りというか期待を裏切ってというか、開場待ちをしている人はちらりほらりと指折り数えて両手をいくらか上回るほど。そんなおかげで思いのほか遅くなりましたにもかかわらず、先着プレゼントのサイン入りポートレートももらうことができてラッキーなのでございます。ところが、何の写真で誰のサインだかしばらく判らなかったのは内緒。しかもロボットやらマスクやらモンスターやらの中の人たちなので、素顔を知らなかったのはもっと内緒。そんなこんなで所長を待ちながら見知った人たちと話しているうちに開場と相成ります。その頃、所長が実は泣いていたとは知るよしもなかったのでありました。

 ミニシアターは一段高くなっている最後列で、足をぶらぶらさせてわーい子供なんておバカなことをしているうちに、ナビゲーター浅尾さんの軽妙なトークで始まりましたスペシャル・トークバトル「ハマー・ホラー編」。まずは近日公開イベント、「死霊のはらわた」メモリアルエディションの紹介から。この映画については、ラヴクラフトファンとして腹に一物両手に荷物ある私、ハマーじゃないやんけーというつっこみはいたしません。などといいつつちょっとだけつっこんでおきますと、これは16ミリ自主制作のスープアップではなく、れっきとした35ミリ商業作品なのであります。専門誌でも時折誤解されがちなのでご用心。

 さても舞台は本日の真打ち、石田一氏と菊地秀行氏の登場。ハマーの原体験やなつかし話は当然のごとくバカ話に転がってゆくのですが、腰痛持ちのご両人はこちらが心配になるほどの長い立ち話。見る見るうちに辛そうになっていく菊地さん、思わず浅尾さん座らせてあげてーと叫びたくなったところで、さすがにきつくなってきた石田さんに促されて、話題の渦はステージ脇の席へ。ちなみに、対の脇では着々と進む特殊メイク実演コーナー。完成の暁にはゾンビと記念写真となるのであります。

 第一回目の上映「ハマー予告編集」は、フランケンシュタインに始まり、その他諸々のSF・ホラーを交え、吸血鬼で締めくくられるというもの。この間約1時間、ステージはおもしろ話に花が咲くものの、気がつくと黙ってじっとスクリーンに見入っていたりいたします。ビデオ&プロジェクター上映とはいえ、なんといっても本物のスクリーンに映し出される映像の美しいことといったらいずれアヤメかカキツバタ、お兄さんちょいと遊んでお行きーなと誘われて、行き着く先はドラキュラ城。予告編ぐらいなら飽きるほど観ている私にしてもステージそっちのけで見入ってしまうほどなのであります。とはいいましても石田さんの愉快な体験談には腹を抱えておお笑い。ピーター・カッシングにファンレターを出したら、先に「あとでちゃんと返事を書くからね」という手紙が届き、そのあとでサイン入りポートレートにきちんとした手紙がやってきたとか。ところが、クリストファー・リーにファンレターを出したら、写真が一枚だけなうえに、石田さん宛の住所は石田さんが出したファンレターから切り抜いて貼り付けてあったそうな。さすがに石田さんもなんて人なんだと驚いたそうでありますが、これもまたいい思い出のひとつであることは想像に難くありません。

 そして当然のごとく始まるハマー美女談義、美女じゃないヒロインをけなす菊地さんに、ハマーは顔よりも演技が先ですからねと返す石田さん。その点アメリカ映画のヒロインは顔が良ければそれでよしなんて話になりますと、やっぱりアメリカ映画がいいですねという結論に落ち着く菊地さん。いやまあ、たしかにセックスシンボルのアメリカンビューティーもいいけど、才色兼備のブリティッシュレディーも良いものでございます。

 コンビニに行きそびれたけどビールは一本飲んだからまあいいかだけど飲み足りないのはさておき、ウヰスキーをちびちびやってる劉貴さんや焼売を開けているせいさんたちと談笑の休憩を挟み、おそらくこれが今月今夜のメイン、石田さん編集によるトークバトル用映像とあい成ります。まずはベロニカ・カールソンが案内する吸血鬼映画の世界「ファングス(1989)」から。ところが、一人小芝居に妙なコスプレ、果ては亀甲縛りまで披露するベロニカおばさんに肝心な吸血鬼映画がかすんでしまうのはどういうことだというのはご愛敬。石田さんはベロニカ・カールソンのファンでございまして、確かファンレターどころか文通相手のお一人だそうな。石田さん、恐るべし。ちなみに、ベロニカ・カールソンはファングスの当時45歳、脂がのりきってまだまだ行けまっせの熟女美人なのでありました。

 つづいて石田さん一押し「ドラキュラ72」に、えーと菊地さん向けのもう一本はなんだっけな。しまった、忘れた、まあいいや。私の好きな「王女テラの棺」とか「死美人の復讐」とか「若妻恐怖の体験学習」とか、「オメガマン」はハマーじゃないか、ではないのは確かなのであります。ちなみに「王女テラの棺」や「オメガマン」は菊地さんががっかりした作品、というのは予告編集ででた話題。でも私は胸を張って大好きだといえるのであります。ああそうだ、イヴォンヌ・モンローがお好みの菊地さんのために用意されたのは、「ドラキュラの花嫁」でございます。まあ、ハマーの有名どころは輸入盤なら今でも入手可能なのでこれくらいにて次の話題。

 締めくくりにはやってきましたこれが本日いちばんの不思議映像、「オーソレミーオを熱唱するクリストファー・リー」。これがリー伯爵の独唱ならばまだ珍しいで済むのですございますが、胡散臭い若手歌手との共演、しかもさらに胡散臭くもカクテルライトがぐるりぐるりと照らします社交ダンスのまっただ中なのでございます。東海林太郎並みに直立不動に近いリー伯爵、今にも「こんなことやってられるか!」と黒マントに身を包みそうな雰囲気がナイス。会場は映画館ということで鑑賞モードに入っていた来場者もこれにはさすがに爆笑の嵐。さすがは石田さん、受け狙いの隠し球には想像もつかない代物を出してきたのでございます。

 さてこれにて映像トークはおしまいとなりまして、つづいて景品争奪じゃんけん大会となるのですが、私はといえばほぼ全てを一回戦負けが悔しいのでどんなだったかは教えてあげません。というわけではなく、ポスターにDVD、レアな書籍の数々のみならず、急遽景品を追加してくださったほどに盛り上がったのであります。もっとも、私がほしかったのは石田さんの初期の著作だけなのではありますが、かすりもしなかったのは実に口惜しい、口惜や伊右衛門殿なのでございます。

 といったところでトーク部門はおしまい。石田さん、菊地さん、浅尾さんたちは帰途につくのでありました。大変恐縮ながらホールでの雑談に交えていただき、愉快な一時を過ごさせていただいたこと、心からお礼申し上げる次第なのでございます。この方々、真面目で貴重な解説はもちろん嬉しい限りなのでありますが、知性教養のあふれる雑談バカ話のおもしろさは筆舌に尽くしがたいのでございます。新宿ロフトプラスワンのトークライブはもとより、今回のようなトークショーをこれからも是非是非に開催していただきたく願い応援していこうと誰にも約束することなく緩く心に誓う私なのでありました。さらに、ホラー映画ファンの皆さんには万難を排して足を運んでいただきたく、御願い奉り申し上げる次第でございます。

 さて、最後の上映はSPOよりリリースされた「凶人ドラキュラ」。オヤジの血で蘇ったことに憤慨したかどうかは定かでございませんが、リー=ドラキュラ伯爵が一言もセリフを発しないので有名な作品。おまけにスラップスティックコメディーみたいなラストに開いた口がふさがらないのでも有名。とはいえ、それなりに見応え見所のある作品なのですが、新幹線の時間の都合もありまして私どもは途中退場となりました。尼崎トーク・バトル「ハマー・ホラー編」、これにて一巻の終わりとあい成りましたのでございます。

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