01/26 スパイは地味だ「ボーン・アイデンティティー」を観てくる。

 嵐の夜、一隻の漁船がイタリア沖で漂流しているダイバーを救出した。彼は背中に2発銃弾を受けており、尻の皮下にはスイスの銀行口座を記録した小さな機械が埋め込まれていた。彼は船中で意識を取り戻すが、記憶を失い、自分が何者かもわからない。漁船を手伝いながらイタリアに上陸した彼は、船医ジャンカルロからスイスまでの旅費をもらい受け、自分を知る唯一の手がかりである銀行を目指す。そして、貸金庫に入っていた6カ国のパスポートから、自分の名前はおそらくジェイソン・ボーンであることを知るのだが、その直後から彼は何者かに命を狙われてしまう。アメリカ領事館で偶然出会ったマリーに頼み込んでフランスへの逃亡を図るジェイソンだったが、二人とも警察に手配されているのみならず、どこへ逃げても暗殺者の影から逃れることは出来なかった・・・。

 冬のヨーロッパ、特にそのほとんどをどんよりとしたパリを舞台に繰り広げられる、スパイ・サスペンス。このヨーロッパの景観は確かに寒々しいものの、どこをとっても情緒漂う雰囲気が素晴らしい。とりあえずこの景色を見るだけでも一見の価値はあるのですが、それではただの環境映像。TGVって内装もかっこいいのね。

 といったところで肝心な本編ですが、ちまちまとネタを割ってますのでご注意をといっても、見てみればだから何なのでご安心を。ジェイソンをつけねらうのは便宜上謎の組織といいたいところですが、その正体は最初から明らかにされ、ジェイソンの正体もまた観客にはすぐにわかってしまいます。そのため、彼がどのように危機を乗り切り、いつ記憶を取り戻し、どうやって事態を収拾するか、これが時間いっぱい描かれるわけですが、これがまた地味なこと地味なこと。スパイというリアリティーを考慮したのかヨーロッパが舞台だからなのかは定かではありませんが、いかにもハリウッドポリスアクションの派手さをひかえつつ、それなりに見せ場としてのアクションやカーチェイスは繰り広げられます。ただし、これが間抜けな警察にチープなCIAと少々コメディーよりに見えてしまうのが残念。

 さらに、ジェイソン本来の任務のターゲットも交えて三つどもえになるかと思いきや、これがまあ期待はずれ。そして観客を引き込むために残されたたったひとつの謎、「飛び石作戦」の実体がいったい何であるのか、ジェイソンがその作戦とどのような関係があり、その後の彼にどう関わってくるのかが重要なポイントになるはずだったと思われるのですが、これもまた期待はずれ。一応、なぜそんな結末を迎えたのかのヒントにはなっているのですが、観客が知りたいのはそんなことではありません。

 とまあ、アクションも控えめなら謎解きも控えめなのが地味に拍車をかけているのですが、前半のカーアクションは愉快ですし、話の展開そのものは結構ドキドキのサスペンスタッチ。決して退屈するほどではありませんし、爽快さはないものの面白い水準には仕上がっています。スパイ物なのに絶対的使命がなくて実は中途半端な内部告発、おまけに謎が謎として機能していなかったのが物語としての敗因、派手さをひかえたのはともかく、やや田舎臭くなってしまったのがアクション映画としての敗因でしょうか。それと、そんなバカなでもいいからヒロインやエージェントには美人をそろえておくこと。これ、娯楽アクションの鉄則でしょう。主役のマット・デイモンがあまり見栄えがしないのだから、一花添えてあげようよ。

 それと、もう一つケチをつけさせてね。ボーンがマリーに対して「たった一人の友達」と言っているのですが、ちょっと待てい。おまえを助けてくれた漁船の船員、特に船医のジャンカルロにはかなり世話になってるでしょう。命の恩人には恩義や友情を感じないのかよ、こらっ。フランスへ送ってもらうのに2万ドル出せても、命の恩人にはびた一文送金してないぞ。とりあえずスイスまでの旅費ぐらい返せよな。あーすっきりした。(友達云々ってのは、もしかしたら字幕の誤訳かもね。「頼れるのはあんただけなんだよ〜」ってのが自然だと思うんだが、セリフはちゃんと聞いてなかったのだ。)

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