07/08 シネパラ赤狩りハリウッド「マジェスティック」を観てくる。

 赤狩りの暗雲に包まれた1951年のハリウッド。そんな時代にあって新進気鋭の脚本家ピーター・アプルトンは、初の脚本作品「サハラの海賊」が「アフリカの女王」(1951/ジョン・ヒューストン)と共に劇場にかけられて前途洋々たる気分だった。しかし、彼が大戦中に所属していた団体から非米活動の嫌疑をかけられ、赤狩りの審問にかけられることになる。やけ酒をあおったピーターは、そのまま気晴らしのドライブに出かけるが、さらに運悪く事故をおこして川に流されてしまった。そして彼が流れついたのは田舎の小さな町ローソン、だが、大きな怪我こそなかったものの、頭を打ち記憶を失っていたのだった。その町で、戦死したものと思われていたルークに間違われ、ルークの年老いた父の経営する映画館を発て直し、ルークの恋人だったアデルと恋に落ちる。しかし、赤狩りの手は記憶を失ったピーターに近づきつつあるのだった・・・。

 「サハラの海賊」(SANDPIRATES OF THE SAHARA)はさすがに実在の映画じゃないと思いますが、ローソンの町に再開された映画劇場マジェスティックにかかる映画の数々、これがまた古い映画のファンにはたまりません。1951年の作品、「巴里のアメリカ人」に始まり「地球が静止する日」なんてのも飛び出します。もちろん「サハラの海賊」も雰囲気たっぷりに作られ、どうもダグラス・フェアバンクスっぽく思えるところがありました。このマジェスティック劇場の復興だけ見ていると、なんとなく「ニュー・シネマ・パラダイス」を思わせるところがありますが、やっぱりちょっと違うかな。

 時代を反映している部分といえば、ピーターが自身の作品を観る冒頭で流されているニュース映画、ハリウッド・テンといった赤狩り時代のハリウッドを象徴するものが流されているんですね。これは大戦直後のハリウッドを語る上で欠かせない出来事ですし、決してマニアックに過ぎることはありませんが、日本での知名度はどうなんだろう。それはまあいいとしてもう一つの大戦後の悲しみ、多くの家族を失い、すっかり活気を失ってしまったローソンの町。この町と人々の復興と、ピーターの、というよりもハリウッドの赤狩りへの挑戦を、すでに古き良き時代を懐かしんでいた1950年代を舞台に描くことにより、いくつもの「希望」がうまく昇華されています。

 ただし、全編に渡って流れるモダン・ジャズに、かなりオーバーでこっけいな演出ながらローソンの町の暖かさと雰囲気は素晴らしいのですが、マジェスティック劇場復興の部分が長すぎて途中赤狩りのことなんてころっと忘れてしまいました。同時進行している二つのストーリーなのですから、もっと噛み合わせてもよかったんじゃないかな。そもそもピーターに赤狩りの嫌疑をかける原因がいまいち面白くなかったですね。せっかくの夢物語が妙に現実的になり、結果として赤狩りに打ち勝ったのではなくやられたらやり返せって感じです。

 あらかじめ赤狩り時代ハリウッドの予備知識があると、手短に描かれるこの部分がより楽しめると思います。第二次大戦時にナチスの台頭によって貴重な人材を流出したドイツ映画界、まさに非米活動排除の名の下にこれと同じ過ちを繰り返していた、自由のない自由の国の一時代だったのです。ある意味禁酒法よりも恐ろしかったと思いますよ。また、ストレートなストーリーは途中ウトウトッとしちゃったけど、ちょっと長めの2時間半はそれなりに楽しめました。黒人の劇場スタッフ(ごめん、見覚えのある俳優なんだけど名前忘れた)が渋くていい味出してますね。あの声、ルイ・アームストロングっぽくて深みがあります。

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