05/06 クレしん黒澤時代劇「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」を観てくる。

 野原一家全員が美しい姫様の夢を見た。そんないつもと変わらぬある日、しんのすけはシロが庭に掘った穴の中から一通の書状を見つけた。しかしその手紙に描かれたぶりぶり左右衛門から、手紙を書いたのはしんのすけ自身と知るのだがまったく覚えがない。おたおたしているうちに、しんのすけは突然見知らぬ野原へ放り出されてしまう。ひょんなことから合戦のまっただ中に迷い込み、一人の武将、井尻又兵衛由俊を助けてしまった。春日の城に身を寄せることになったしんのすけは、夢に見た城主の一人娘廉姫に一目惚れ。そんな廉姫に密かに思いを寄せつつ身分の差と戦国武将の意地っ張りで素直になれない井尻又兵衛を励ましたり茶化したりする日々を過ごすが、しんのすけの後を追ってタイムスリップに成功した野原一家共々、大蔵井高虎との春日城を、そして廉姫をめぐる戦乱に巻き込まれてしまう。

 これまではギャグを中心にメッセージを盛り込んできたシリーズですが、前作「大人帝国」から一転し、今回はそれ以上に重厚なドラマの中にギャグがちりばめられています。しかもこれがまたそこらの時代劇なんぞ足元にも及ばぬほどの出来映え、風俗習慣から言葉遣い、特に戦国時代の合戦が陣容から何から、実際にそう行われたであろうというリアルさは驚嘆に値します。ことに「火蓋を切る」の語源がクレヨンしんちゃんで使われるとは。そのリアルさは合戦が命のやりとりであることにも容赦することなく、「クレヨンしんちゃん」で描かれるこれをどう受け止めたらいいのかは正直言ってとまどうところ。そのために、前半までは素直に身をゆだねられるおばかなギャグにも、後半はなかなか笑えなくなってしまいます。ことにあの結末のあとでは、すべてのギャグが頭の中から消し飛んでしまい、純愛時代劇の部分だけが組み立て直されてしまいました。予告編のシーンが出てこないなぁなんて疑問も吹き飛ぶほどに。

 もちろん、人死にの出るアニメが氾濫していることを考えれば何ほどのものでもないのでしょうが、さすがにホーム・コメディーでこれをやられると深慮させられてしまいます。かといって、時代劇の部分だけを取り出して一本の映画に仕立て上げたところで、これほどの作品にしあがるわけもなく、やはりクレしんであることに意義があるんですね。このヘビーなドラマを果たして子供たちがどう受け止めるのだろうかという疑問は、劇場でいろいろな形で見ることができましたし。途中で飽きる子、最後までギャグを楽しむ子、結末にあっけにとられる子、そしてなにやら議論しながら劇場を出てゆく子供たち、まあいろいろ。「七人の侍」が最後まで七人でないことと同じなんですなぁ。

 それでも黒澤明がのっていた頃の時代劇を彷彿とさせられる世界には感動しましたし、冒頭のぼーちゃんのセリフ「裏切り御免」にはぶったまげてしまいました。これはまぎれもなく「隠し砦の三悪人」でしょうね。これらは別にわからなくても十分に楽しめますが、クレヨンしんちゃんという大人としても楽しめる(もともと大人向けのマンガだと思うのですが)作品に盛り込まれていることには、何かパロディー以上のものを深読みしてしまいます。この部分が意図したものの一つなのかどうかはわかりませんが、時代考証にこだわるわりには雰囲気を出せない昨今のテレビ時代劇に一石を投じてくれればと思いますね。

 まあ、ギャグもそれなりに笑えるし、しんのすけの友達の性格形成のサイドストーリーもユニークだし、意外にさっぱりしたというかほっとした雰囲気で終るにもかかわらず、すっきりした気分になれるわけではありませんが、観る価値のある一作であることは断言できます。

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