04/29 真説ヘルハウス「アザーズ」を観てくる。

 まずは、この作品はお化け屋敷物らしいぞという程度の予備知識で御覧になることをお薦めします。それと「limbo」の意味がわかっていたほうがネタバレ抜きに理解できるので、英和辞書で調べておきましょう。というか、字幕では「limbo」のままなので言ってること自体が理解できない、前後の会話からそれとなくわかるかなというレベルだと思うのですが。ちなみに決してリンボーダンスの意味ではありません。といったところで極力ネタバレしないように遠まわしにネタバレしつつ雑感を。

 大戦末期の1945年、大英帝国はチャネル諸島の一つジャージー島。グレースは極度の光アレルギーに病む娘アンと息子ニコラスの3人、光をさえぎった暗くわびしい屋敷で暮らしていた。夫チャールズは戦地に赴いたきりなんの便りもなく、いつしか使用人たちも姿を消してしまう。そんなある日、グレースの募集に応えて3人の使用人がやってくるが、それ以来屋敷には彼ら以外の何者かの気配が漂い、子供たちはその影に脅える日々がはじまった。

 幽霊は日本では人に憑きますが、西洋では家や土地に憑くことが多いようで、これはそんな幽霊屋敷の真相にちょっと違った角度からアプローチした作品。全体に抑揚に欠ける展開の中、ニコール・キッドマンのヒステリックな独り芝居の傾向が強いですね。それでも、カーテンと霧に閉ざされた、不気味というより暗く寂しい雰囲気に助けられ、サスペンスタッチに進むストーリーはそれなりに楽しめます。中盤でかなり大きなヒントが出されるのですが、これが思いのほかうまく謎かけになっていました。

 登場人物もグレース以外はみんな妙に不健康、しかも誰もが何か裏がありそうなので、事の真相はラストまで想像の域を出ません。とはいえ、それが災いしてどのキャラクターにも感情移入しにくくなってしまい、観客は観客でしかなくなってしまいました。使用人の3人のうち常に絡んでくるのがミルズだけで、せっかく特徴のあるリディアがうまく使われてないのももったいない。さらに、観客への恐怖演出がお化け屋敷の常套手段でしかなかったのも残念。もっともこのびっくり箱的手法、ラストでその必然性がわかるんですが、これはお楽しみということで。

 さて、怪異の発端となる最大の謎は、高められた期待とテンションとは裏腹に、まるで謎が謎を呼ぶ犯罪の動機がつい出来心だったというくらいにあっさり流れてしまいます。そう、この作品はグリム童話のごとくに愛はないのです。そして結末もどっちの視点になって見るかで感じ方は変わってくるかも。こちら側の立場で見ると、ほんとにただのヘルハウスになりかねないですね。僕はといえば、すいません、笑っちゃいました。まあ、結末も含めて物静かで暗い風景が、大戦末期の暗鬱な時代とマッチして雰囲気だけはたっぷりの仕上がりを見せていますから、その雰囲気を味わう価値はありですね。

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