03/04 聖者なんていないんだ!「ロード・オブ・ザ・リング」を観てくる。

 それぞれの指輪に託されたそれぞれの部族と国の平和、しかしたった一つの邪悪な指輪の力はそれらを上回るものだった。そんな指輪に翻弄される数奇な運命の幕がここに切って落とされる。がんばれホビット、中原の行く末は君の肩に掛かっているぞ。

 というわけで満を持して登場のソード&マジックの世界第1部、静かなホビットの村から始まるかと思いきや、壮大なスケールで描かれる指輪誕生の冒頭からいきなり異世界に放り込まれてしまいます。これがけっこう駆け足なんだけど手に汗握って目が離せません。サウロンの指輪がビルボに渡って舞台はようやく牧歌的なホビットの村に移り、フロドにガンダルフも登場します。このロケーションがまたのどかで、ビルボの誕生祭もいかにも田舎のカーニバルでいい雰囲気なんですね。それにビルボの冒険話に夢中になる子供たち、なんと目の輝いていることか。ここでこの世界に引きずり込まれたらもうしめたもの、あなたも私も冒険の旅の一員です。このあとからは急転直下、奇怪な騎士団の追っ手を逃れつつ冒険の旅が始まりますが、劇場でのお楽しみ。壮大で美しく素晴らしいニュージーランドのロケーション、息をもつかせぬ3時間、ドキドキハラハラワクワクしっぱなしですぞ。

 長大な物語の映画化は基本が大切ということで脚本重視、さすがにあわただしい感は否めないけど語るべきところはしっかりと語られます。各キャラクターの背景が弱いかなとは思いますが、なぁに主人公フロドだって外の世界は知らないんだからいいじゃないですか。そんな旅の仲間たちも含めて、誰一人として聖人君子ではなく、指輪の魔力にうち勝つ者もいれば屈してしまう者もいます。この疑惑と葛藤の描写がまた生々しいんですが、だからこそありがちな冒険活劇にとどまらないんですね。ただし、エルフの森でのそんなシーンにはかなり腰砕け。心理描写は生身の役者の本領なのに、CGでやっちゃいけないよ。

 そんなこんなで良くも悪くもテンションはあがりっぱなしなんだけど、中盤ではたと気づく既視感にも似た妙な違和感。いや、クライマックスの連続なのはさておき、俯瞰のカメラアングルがやけに多いんですね。浮遊感もさることながら、せっかく入り込んだ物語を一歩下がって見る感じになってしまいます。さらに、そうでなくても同じアングルになりやすい空撮が多用されすぎているのが残念、まるで特番ドキュメンタリーを観ているようだった。ついでにいえば、アクションシーンが今時のアップ多用でなんだかわからなかったのも残念。これさえなければ手放して喜べたんですが。

 さてさて、この作品で何が楽しみってやっぱりクリストファー・リーの出演でしょう。「スリーピー・ホロウ」のちょい役とは違い、物語の要ともいえる魔法使いサルマンってのがうれしいですね。リー=ドラキュラ伯爵のイメージが強いために衣装が白ってのがちょっとだけ不満ですが、御年80歳のリー伯爵、自身も役もまるで仙人でした。何よりも悪役、ふっふっふ。

 「ハリーポッターと賢者の石」に続く魔法の世界は、童心に返るのではなく大人として楽しめる逸品でした。あ〜だれです、また原作云々ってケチばっかりつけてる人は。そんなんじゃどんな映画見たってダイジェストにしか見えないよ。もちろん、映画観るのに原作は必読なんてのも、もってのほかだよ。

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