02/03 めざせスリーピーホロウ「ジェヴォーダンの獣(ベート)」を観てくる。

 1765年フランス、ジェヴォーダン地方を襲った謎の獣による殺戮は、女性と子供ばかりを襲った惨劇であった。パリの王宮にまで及んだこの話はルイ15世をも動かすことになり、博識の学者フロンサックが派遣される。フロンサックの調査のかたわら、ジェヴォーダン地方を統治する貴族による大規模な狼狩りが行われ、表向きは“獣”の驚異は去ったことが報告された。しかし、その後も“獣”による惨劇が頻発し、フロンサックと相棒のマニは貴族の御曹司トマと共に怪事の真相に迫るのであった。

 映像美のための映像、演出効果のためのVFX、全ての手段が目的のために使われ、落ちついた色彩がいかにもフランス映画らしい仕上がりの作品。すばらしいロケーションの中で撮られた絵は決して環境映像に陥ることなく、舞台の雰囲気をかもし出すことに成功していますね。リアルかどうかは私にはわかりませんが、素敵な衣装も見どころ、赤のベルベットが妙に印象的でした。

 しかしそこは無国籍監督クリストフ・ガンズらしく、香港とハリウッドのエッセンスを散りばめたちょっと奇妙な味つけがなされています。果たしてカンフーアクションが必要だったかどうかは私も首をひねらざるをえませんが、アーリー・アメリカンの自然信仰思想が、大自然を舞台にし、狼を主軸にしたシナリオとロケーションに見事マッチしていることは確か。007的なキャスティングとセッティングも、ストーリーの展開にひねりとインパクトを与えています。

 このキャスティングがまた魅力的で、意外に地味な主人公フロンサック、生い立ちを表わすかのように寡黙な相棒のマニ、絶対何かありそうな退廃的雰囲気をまとわせるジャン、いかにもヒロインらしいかわいさのマリアンヌほか、娼婦や牧師などなど型にはまっていそうで実はそうでもないところがユニークですね。

 もちろん、彼らを生かすシナリオもなかなかに良質なもので、搦め手から攻めるミステリータッチのために面白いほどネタを明かしません。かといって荒唐無稽なでっち上げをすることもなく、謎解きという面でも十分に楽しめると思います。

 ただし、魅力的ともいえるキャスティングとシナリオの妙に反して、“獣”の演出が通り一遍というか、どういうわけか殺人鬼スリラーの域を出ていないことが残念でなりません。もちろん、これもストーリーテラー的な演出でもあり、正体不明の恐ろしさはあるのですが、人間への復讐にしても野性的な狡猾さが感じられず、ともすれば事の真相へと観客を誘う近道になってしまっているように思われます。しかもこの獣の外観が、どう見ても「もののけ姫」の猪、下手をすれば猪の皮をまとった人間のほうに見えてなりません。おまけにCGで描かれたカット、正直言ってちゃちでした。人を襲うシーンも正体を見せないスリラーの手段をとっているのですから、CGのカットは要らなかったんじゃないかな。そうそう、マニとの戦いなんてプレデターだなぁって思っちゃいました。

 まあ、カンフーと獣がなんじゃこりゃって以外は、十分に楽しめました。雰囲気はいいんだけど、変なギミックとカンフーがあるあたりはやっぱり「スリーピー・ホロウ」を意識しているとしか思えないんだよな。それと、2時間18分の上映時間はちょっと長かったかな。あ、エンディングテロップの途中で音楽が終わっちゃったのはさらに減点だね、そりゃあもう間抜けだったよ。でも、お国柄だけで雰囲気にそぐわないシャンソンなんかが使われてなくてよかった。ついでに、マニは若い頃の伊武雅刀に似ていた。

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