11/25 動体視力コンテスト「ムーラン・ルージュ」を観てくる。

 いやはや、嫌がらせのように目まぐるしいカメラワークとフィルムワークに失神寸前、いったい何をもって映画映像としているのか理解不能。無意味に凝った歌番組レベルの編集には、視点を落ちつかせることができず、実際目が痛くなった。

 とにかく短いカット割りには、長回しなんかとうていできないほどにNGの連続だったのかと思わせられる。全編にわたって鼻の穴の中まで見えるほどに顔のドアップしか映っていないってのは、何かステージ全体を見せられないわけでもあるのかと疑わせられる。さすがにこれらはありえないんだけど、使ったアングルの分だけフィルムを使ったってな感じはあるね。もうほとんどセリフ1フレーズごとにカットがきり変えられるぐらいなんだけど、これのタイミングもはっきりいって早い、悪い。もう数コマためてから切り換えればそれでもきれいに流れたかも、などとシロートさんは思うのでした。顔のドアップが多いのは、そういうフェチだったりして。でも、鼻の穴の中やら目の血管が観察できちゃうというものどうだかなぁ。

 おまけにカメラの選択も悪い意味で期待を裏切られ続けた。クレーンカムでぐるっと追うかなと思ったら固定カメラの激しい切替だったり、そうかと思えばぐるぐるまわり続けて目が回りそうになったり。ステディーカムかズームで迫るかと思ったら手ぶれの激しいハンディーだったり。いったい何が映っているのかわからない映像が異様なほどに挿入されていたぞ。もしかして、失敗したカットしかフィルムがなかったの?

 映画館のスクリーンは大きく、よほど後ろの席でもない限り視界に入りきらないのだから、まったく落ちつくことができない映像は拷問以外の何ものでもないぞ。これをジェットコースタームービーと称するむきもあるけど、それは笑止千万。「死霊のはらわた」でも観て出直してきやがれってんだ。もしかして、これって確信犯だったの?

 とまあ最悪のカメラ・フィルムワークなんだけど、豪華なセットと派手な衣装は意外にも落ちついた色合いに統一されていたし、押しの強いキャラクターとおおげさな演技はファンタジックな演出と見事にマッチしていたし、19世紀末と時代設定をしていながらもユニークな時代錯誤を感じさせる音楽など、映像美と演出はすばらしいものでした。ただし、この選曲で喜べるファン層は狭いだろうね。

 何よりも、古い映画のファンとしては、まるで演劇のようにFOXのシンボルが出てくる冒頭からもののみごとにはめられた。オープニングのタイトルロールばかりじゃなく、ところどころに見られるフランス古典映画へのオマージュには狂喜乱舞だったよ。CGで作られたパリの街並みの俯瞰から、その中へ入り込んでいくカメラワークは、まんま「悪魔スヴェンガリ」なんてマニアックなところをついてくるしね。

 ほかにもパロディー満載だったけど、サウンド・オブ・ミュージックにはひっくり返ったし、メリー・ポピンズみたいなシーンやらアブサンのラベルから飛び出す妖精には笑った笑った。この冗談みたいなディズニータッチの演出のおかげで、わざとらしいミュージカルが懐かしいファンタジーになってたよ。もしかして、ディズニー風のミュージカルしか作れないのかもしれないけど。そうそう、最後のスタッフロールもユニークだったよ。

 ま、編集で台無しになっちゃったのが残念だね。ストーリーがベタで単純なラブコメだったから、目のまわる映像を追う必要がなかったのには救われたかな。豪快なアメリカンが豪快なオーストラリアでとったフランスは、ムーラン・ルージュというよりもグラン・ギニョールでした。次はクレイジー・ホースを希望。

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