死霊のしたたり

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 マサチューセッツ、ミスカトニック医大の一室、死の淵にある夫人を蘇生させようとするスタッフの中に、ダン・ケインの姿があった。しかし、電気ショックや心臓マッサージのかいもなく、モニターは心停止を示したままに沈黙を守っている。なおも蘇生処置を施そうとするケインだが、女医にその手を止められる。「見切りをつけることも医者の仕事、彼女はもう戻らないわ」と。

 遺体を安置室に運んだケインは、学長に案内されてやってきたスイスからの転入生、ハーバート・ウェストを紹介された。しかしウェストは、居合わせたカール・ヒル博士に向かって、「ヒル博士の脳研究は自分が師事していたグルーバー博士の模倣であり、すでに時代遅れだ」と言い放ったことからいさかいをおこしてしまう。その場は好調によってうまく納められたが、この確執は後を引くのであった。

 ダンは、学長の娘メグ・ホルジーと付き合っており、娘は父の厳しい目を盗んではダンとベッドを共にしていた。その晩も熱い一時を過ごし、ダンが帰ろうとするメグを見送りにでようとしたところへ、ダンが出した同居人求むの貼り紙を見たウェストがたずねてくる。研究室のある部屋を探していたウェストは、ダンの家の地下室を気に入り、間借りすることに決めた。

 ある晩、いつものようにダンの家にやってきたメグだったが、部屋にこもったきりでめったに顔を見せないウェストの存在に少々いらついていた。ダンの飼い猫、黒猫のルフェスがウェストをさけていることも、彼女の気を逆なでしている。そんなおり、二人はルフェスが見当たらないことに気づいた。黒猫を探してまわるダンとメグ。そしてメグがウェストの部屋へ探しに入った時、半開きになっていた冷蔵庫の中にルフェスの死体を見つけてしまった。

 メグが悲しみの悲鳴を上げた時、ちょうどウェストが帰ってきた。メグをなだめるケインに、見つけた時にはもう死んでいたが、腐らないように冷蔵庫に運び込んでいただけで隠すつもりはなかったというウェストだが、メグはウェストが殺したに違いないといいはって聞かない。ムッとしたウェストは、ケインとメグが学長の目を盗んでベッドを共にしていることをネタにして、二人を黙らせた。

 しかしその深夜、眠りについていたケインは異様な叫び声にたたき起こされた。ウェストを起こそうと部屋をノックするが、中からは何も聞こえてこない。そして、再びあがった叫び声は、地下室から、ウェストの研究室から聞こえてきた。ドアを破り転がり込んだケインは、そこで暴れ回る黒い小動物にウェストが襲われているのを目の当たりにする。だが、その動物をたたき落としたケインは愕然とした。それは死んだはずの黒猫、ルフェスだったのだ。

 事態が飲み込めないケインに、ウェストは打ち明ける。自分が研究し作り出した薬品は、生命活動という化学作用をおこさせるもの、いわば蘇生薬なのだ。これが成功すれば、死を克服することができるのだと。

 ルフェスは死んでいたのではなく仮死状態だったに違いないといって信じないケインに、ウェストは再度蘇生薬を猫に注射してみせる。苦鳴をあげ、二人を睨むかのように頭をもたげたルフェス。これにはケインも信じるより他にはなかった。しかし、なぜか戻ってきたメグにその現場を目撃されてしまう。

 翌日、学長に呼び出されたケインは、謝罪文の提出と、ウェストの大学追放を宣告される。ウェストの研究の意義を必死に訴えるケインだったが、学長は耳を貸さなかった。

 だが、ウェストの研究に興味を持ったケインは、なんとかして人間で蘇生薬を試したいというウェストに協力し、警備の目をごまかして大学の遺体安置室にウェストを伴ってやってきた。状態の良い死体を見つけた二人は、さっそく蘇生薬を注射し、実験を開始する。だが、なかなか反応が見られず、わずかしかない時間が刻一刻と過ぎていく。しかも、ケインには学長からの呼び出しが放送される。さらに薬を注射するも反応がなく、なかばあきらめかけた時、奇怪な叫び声をあげて死体が起きあがった。だが、死から甦ったのは肉体だけであったのか、いける死体は二人を突き飛ばし、暴れ回る。

 ケインを探して校内を歩いていた学長は、安置室からの奇妙な物音を聞きつけた。だが、扉は中から鍵がかけられており、びくともしない。しかしその時、なかで暴れまわる死体が扉を破り、学長に襲いかかる。慌てて生ける死体を再び死に追いやるウェストたちだったが、学長はすでに動かぬ骸となってしまった。

 落胆するケインだったが、死んだばかりの学長を前に、これを好期と学長の死体で再び蘇生実験を始めるウェスト。先程の死体とは異なり、反応はすぐに現われたが、蘇生した学長は二人に襲いかかってくる。しかもちょうどその時、学長と共に来ていたメグがその物音を聞きつけ、警備員も駆けつけてきた。だが、学長がいちど死んで蘇生したなどとは知らぬメグと警備員に、ウェストはその場をごまかす嘘をいう。学長は狂ってしまったのだと。

 そして狂った学長は、ヒル博士の研究室に引き取られていった。また、密かにメグを狙っていたヒル博士は、これ幸いとばかりにメグを我がものにしようとする。だが、それに気付いたのか、学長はガラス窓の向こうから体を打ちつけ邪魔をするのだった。

 家に戻ったメグを待っていたのは、ケインだった。そしてケインは真実を語る。学長は、メグの父親はすでに死んでしまったのだと。

 そのころ、ウエストの研究室にカール・ヒル博士がたずねてきていた。ヒル博士は学長の状態から、すでに彼が死んでいるこをと知っていたのだ。ヒル博士は、殺人容疑で突き出すこともできるのだとウエストを脅し、その研究成果を渡すよう要求する。

 しかし、ヒル博士が顕微鏡をのぞき込んでいるすきを狙い、ウエストは博士を叩き殺したあげく、その首を切り落としてしまった。さらに、離れ離れになったヒル博士の首と胴体のそれぞれに蘇生薬を投与し、実験という復讐を始める。しばらくしてヒル博士の生首が罵声をあげた時、甦った体がウエストの頭をテーブルにたたきつけ、彼を気絶させてしまった。そしてウエストが気絶から醒めた時、そこにヒル博士の姿はなかった。

 家に戻ってきたケインは、地下の研究室にやってきてそのことを聞かされる。懲りないウェストをせめるケインだったが、ヒル博士はケインも消そうとしていたのだと聞かされ、さらにヒル博士の研究室で見た学長の状態と重ね合わせて愕然とする。学長は、ヒル博士にロボトミー手術を施されていたのだった。また、ヒルがメグのナプキンや髪の毛を集め、異常な執着を持っていることに気づいていたケインは、急ぎメグのもとへ向かうのだった。

 自分の首を抱えたヒル博士は、ウェストの研究記録と残りの蘇生薬をもって、自身の研究室に戻ってきていた。蘇生薬を注射し、輸血用の血液で血を補ったヒル博士は、言いなりになった学長に何事かを命令した後、大学の遺体安置室にやってきた。そこで博士は、死体の頭に何か細工を始めるのだった。

 そして生ける死体の学長が向かったのは、自分の家。ヒル博士の命令とは、メグを連れさらってくることであったのだ。駆けつけていたケインを叩きのめした学長は、ヒル博士の思惑通り、気絶した自分の娘を遺体安置室へ、ヒル博士のもとへ運びこむ。そしてヒル博士は、長年の念願かなってメグを犯そうとするのであった。

 しかし間一髪、駆けつけたウェストとケインによって、メグは助けられる。だが、安置室に置かれは死体は全て、ヒル博士によってロボトミー手術が施され、蘇生薬をも投与されていたのだった。生ける死体たちに取り押さえられたウェストは解剖台に押さえつけられロボトミー手術の餌食に、さらに、ケインとメグにも魔の手がさしかかろうとしていた。必死で学長に話しかけるメグ。ロボトミーが完全ではなったのか、メグの声が届いたのか、学長はヒル博士に襲いかかり、その頭を力任せに押しつぶした。主を失って暴れまわる死体たちは、手当たり次第に部屋をたたき壊しはじめる。

 そして、蘇生薬を過剰投与すれば倒すことができるとばかりに、首を失ったヒルのからだに蘇生薬を注射するウェスト。だがしかし、ヒルの体からは首の恨みを晴らそうかとでもするかのように、内臓が飛び出し、ウェストを絞め殺そうとする。さらに、娘を守ろうとした学長もまた、生ける死者たちの手にかかってしまった。

 急ぎ、安置室を出ようとするケインとメグに、ウェストは取り戻した研究成果を放り投げ、安置室に立ちこめはじめた煙の中に引きずり込まれてしまう。

 バッグを拾ったケインたちはなんとかエレベーターに乗り込むが、扉が閉まる直前に押し入ってきた生ける死者にメグがつかまってしまう。その凶暴さに太刀打ちできないケインは、急ぎ消防用の斧をもってきて死者を切り倒すが、首を絞められていたメグはすでに息をしていなかった。

 メグを病室に運びこみ、蘇生処置を施すケインとスタッフ。だが、メグのまぶたは再び開かれることはなかった。落胆するケイン、しかし、その手はウェストのバッグにのびる。彼が取り出したのは、黄緑色に燐光を放つ蘇生薬なのであった。

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