菊地秀行的ラヴクラフト&クトゥルー神話の世界

【書籍名】妖神グルメ
【出版社】朝日ソノラマ文庫
【初版日】1984年6月30日
【 ISBN 】4-257-76278-0
【定 価】480円

菊地秀行といえば、自他共に認めるH.P.ラヴクラフトのファンである。その彼が正面切ってクトゥルー神話の邪神たちを押し出した作品がこの「妖神グルメ」だ。腐りかけの野菜くず、足元の雑草、そして蠅。このような材料から天上の美味を作り出す「イカモノ料理」の天才。それがこの物語の主人公、内原富手夫(ないはらふてお)なのだが、この名前を聞いてピンときた方は多いだろう。そう、ナイアルラトホテップをもじっているのである。 実はこの作品、クトゥルー神話の有名人たちが実名で登場するだけではなく、ラヴクラフトが創造し、オーガスト・ダーレスたちによって発展させられたその勢力図や役割もほぼそのままなのだ。クトゥルーはもちろん、マーシュからアーミティッジ博士と実に多彩なキャラクターが登場し、活躍する。無論、書籍や地名もそのままだ。ラヴクラフトファンをして思わずにやりとさせることうけあいである。 しかし、そこは菊地秀行の作品である。原点であるラヴクラフトのしっとりした恐怖や狂気を離れ、読者をスカッとさせるジェットコースターホラーに仕上がっている。現代科学をもって古代のパワーに挑む姿は随所に見られ、ことに原子力空母<カール・ビンソン>VS海魔<ダゴン>は見物である。無論、派手なシーンばかりではなく、料理の腕一つで邪神に立ち向かう内原富手夫の活躍にも手に汗握ることだろう。 「妖神グルメ」からラヴクラフトに走るもよし、ラヴクラフトファンとして一読するもよし、未読の方にはお薦めの1冊である。そして、この作品で菊地秀行に興味を持った貴方には、ぜひとも「魔界都市<新宿>」を手にして欲しい。デビュー作であるこの中には、菊地ホラーの原点が詰まっているのだから。 (このコメントは、ミスカトニック予備校の機関紙「ラヴクラフトの黙示録」、およびそのオンライン出張所に発表されたものに、加筆修正したものです。)

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