BEFORE GET IN SLEEP

8.13
直枝さんからメール。何かと思ったら、「カレー日記見ました!」。昨日の学芸大学のGという店は「牛ゆう」ではないかって、いや、その通りです。直枝さんもあそこは「C級どまんなか」と太鼓判だった。
今日は朝からあれこれペーパーワーク。契約書類の整理など。このへんの事務作業がかなり煩雑になってきたので、そろそろ、自分の手でやる限界も感じる。
三軒茶屋で郵便局行ったりした後、渋谷のエッグサイトに。今日はさかなのライヴ。共演は京都のパパボックスと田中亜矢さん。行ったら、田中亜矢さんのリハ中だったのでしばらく聞く。彼女には独特の雰囲気がある。今の歌い手にはなかなか見当たらない雰囲気。見ていて痛くなるような自己主張を感じさせない。でも、音楽の中から自然に滲み出る文体とリズムがある。60年代のグリニッチヴィレッジっぽいところも。パッと見はフォーク・スタイルだけれど、ちょっとノーザン・ソウル的なリズミックな感覚があるところとか。フィフス・アヴェニュー・バンドみたいなコーラス・アレンジをしたくなっちゃう曲があった。
さかなの3人とスタバックス行ってお喋り。話題はもっぱら、鈴木家のオメデタ。最近、あまり彼らと話す機会がなかったので、今日はなんとなく、とりとめのないお喋りがしたかった。
夕方、僕は一度、スタジオに戻ってさらにペーパーワーク。さかなの出番に合わせて、エッグサイトに戻る。今日もまたフリーボ石垣くんに会う。
ステージではそうそう、POCOPEN、西脇ともに今日はニュー・ギターを抱えていた。POCOPENは銀ラメのグレッチのソリッド。なんと新品購入だそう。西脇はたぶん50年代のものだろうP-90ピックアップのついたゴールド・トップのレスポール。シルヴァー&ゴールドってわけか。ラメのセーターにビーズと羽の首飾りをしたPOCOPENはかなりグラムロッカーしている。
ライヴはほとんど新曲、もしくは過去にレコーディングしていない曲。鈴木くんのドラムが凄い。「ロコモーション」あたりはキース・ムーンみたいに叩きまくっていた。勝井さんが抜けて、バンドのバランス、特にお互いの演奏のダイナミクスの受けとめ方みたいのが随分、変わった気がする。が、新しいさかなに到達するにはもうちょっと時間が必要かなとも思った。メンバーもたぶん、そう思っているようで、だから、楽器変えたりもしているのだろう。最近は週二回もリハしているらしいし。
終演後、出演者全員プラス取り巻き中華料理店で打ち上げ。フリーボ石垣くんも同行。飲んで、食べて、楽しいお喋り。一度、お開きした後、POCOPEN、西脇、田中亜矢さんと僕の4人でスターバックスへ。さらにお喋り。男女4人でギター談義など。
田中亜矢さんはうちの近所に住んでいることが分かったので、全員が同方向。4人で1台のタクシーを拾って、一緒に246を下って帰る。

8.14
寝坊。珍しく電話で起こされる。マサ(YAMAUCHI)と約束していたのを思い出して、スタジオに。
YAMAUCHIのデビュー・マキシ用のインスト曲をPRO TOOLSに取り込み。ふたりでミックスを始めるが、ファイルが足りないことが判明し、今日はアナログのEQやコンプの効きを試したりしながら、方向性を定めるにとどめる。あさって、また作業の予定。
夕方、元POSH、現SUのCHIDAがやってきて、YAMAUCHIの別の曲にアコギをダビング。ギターはテイラーの僕の持っているのよりは大きめ、サイド、バックがローズウッドの高そうなモデル。サウンドはやっぱりテイラーらしい、ゴージャスかつタイトな音。C12AとSM57で録る。2パートを数テイクづつ録って終了。
時間があったので、そのまま、最近、ヴィンテージ機材に興味津々のYAMAUCHIのマイク・テストをしてあげる。音の太さの違いに感嘆していたが、そりゃそうだよ、C12AとNEVE1073だもん。
ほぼ入れ換わりに朝日がやってきて、岡村トリビュート・アルバムの予算組みに関して、少し相談。それからカーナ・ピーナにカレー食べに行く。
スタジオ戻ったら、今度はアコダブのメンバーが来訪。先週、作ったミックスを聞いてもらう。ほんの少しだけ、ミュートの箇所などに手直しの要請があったので、手早くやる。トータルのEQ、コンプは少し派手めにやりなおした。マスタリングはイタリア。どんな音になって帰ってくるか、ちょっと不安ではある。

8.15
久しぶりにほぼ一日、家で過ごす。メアリー・J・ブライジとマックスウェルの新作を何度も聞く。どちらも、それぞれの前作ほどゴージャスではない。かわりにある種のラフさがある。ブルージーな感覚も強い。聞きながら、これからの音楽の作り方について、また、いろいろいろいろ考えてしまった。
部屋の片づけを試みるが、どうやっても収納できないCDが床を占領したまま。レーベル在庫のダンボールもキッチンで冷蔵庫と同じくらいの容積を占めている。抜本的な対策が必要だが・・・。
サマーソニック出演のためにチボ・マットがやってくるので、マネージャーのデヴィッドとメールでやりとり。8月後半はまたいろいろあって忙しくなりそう。

8.16
一昨日、PRO TOOLSに取り込んだYAMAUCHIの曲のミックス。午後からでふたりでスタジオで作業する。基本的に彼のリクエストに僕が応ずる形で進めていく。アナログ機材もフルに使う。久しぶりにDRAWMERの1960が大活躍。やっぱり音太いわ。
YAMAUCHIの曲は構造が新しいので、把握するには時間がかかる。例えば、リズムトラックにはハイハットは入っていない。かわりにキックは5トラックぐらいの音が重なっている。持続するイーヴンのビートはなく、寄せては返す波のような感覚で、大きなグルーヴが形作られる。日本的な「間」の感覚のあるグルーヴとも言えるかもしれない。
うわものもあっちから鳴ったり、こっちから鳴ったりで、モアレ上のハーモニーを織りなしていく。グルーピングをたくさんしたので60トラックぐらい使ってしまった。が、音楽にはすごく空間がある。その空間にさらに奥行きを与えることと、リズムを太くしつつ、オリジナルの微妙なグルーヴ感を損なわないことを心してミックス。5時間ぐらいで、ほぼOKのところまで。
久しぶりに「おおむら」で蕎麦食べた後、ちょっとだけ好きに作らせてもらう。プラグインを使い切ってしまっていたので、幾つかリレコしてしのいで、新しいリヴァーブを加えたり、たくさんオート・パンニングを作ったりして完成。カッコイイ。というより、確実に新しい。最近、ERROR RECORDINGで奏でられる音楽はちょっと凄すぎないだろうか、とさえ思う。
帰宅後、原稿仕事の準備。準備なんて言ってる場合じゃないのだが、ホントは。

8.17
久しぶりに夏の太陽が眩しい日。午前中、プール行きたかったが、午後のスケジュールを考えると、体力的に自信がなかったので諦める。情けない。
午後はまずは溜池でミーティング。PHATのメンバー3人も一緒。PHATは2002年からは東芝EMIとコラボレーションしていくことが決定した。といっても、MEMORY LABから東芝EMIに単純に移籍するのではない。MEMORY LABでPHATの音楽を制作していくことは変わらず、プロモーションやディストリビューションに関して、東芝EMIとコラボレーションしていく形。今日はそのための第一回ミーティング。ダイスケが長時間、熱弁をふるう。素晴らしい。方法論はいろいろあるだろうが、本質が伝わらないければ最終的な成功はない。彼の音楽家としての自信と気概が僕にも伝わってきた。
それにしても、PHATみたいなバンドにメジャーが興味を持つというのも面白い。ジャズ・マーケットはとっくに死んでいる、という話がミーティングでは何度も出た。が、マーケットが死んでしまったのは、魅力的なアーティストがいなかったからでもあるだろう。そういう意味では、誰もいなくなったところで、PHATは何かをしようとしているのかもしれない。ともかく、彼らみたいなバンドは、少なくとも、日本では他に見当たらない。かわりが見つからないという存在は、それ自体が絶対的に強味にもなるだろう。
ともあれ、メジャーに行くことは決まったが、その前に秋にはPHATはMEMORY LABからの2作目を出す。インディーでの実績をもっと作ってから、次に展開にシフトしたい。そのためにもラッシュして、音源を仕上げないと。やることは山積みだな。
昨日、来日したチボ・マットのマネージャーのデヴィッドとで電話で来週のスケジュールを打ち合わせ。東芝でさらにもうひとつ、ビジネス・ミーティングをした後、スタジオに。昨日、ミックスしたYAMAUCHIの曲の手直し。細かい部分をあれこれやる。で、もう一度、落とした後、CD-Rに焼いてラジカセやカーステレオでチェック。サイン波のキックとベースのバランスが再生装置によって、かなり変わって聞こえる。そこをさらに詰める。こういうやり直しが効くのがプライヴェート・スタジオの強味。もう、僕にはこれ以上は出来ないというミックスになった。
それにしても、YAMAUCHIとの作業は楽しい。音を追いこむことも、すごくリラックスしてできる。それは彼が彼自身の完璧なプロデューサーであるからかもしれない。おまけに、今、制作している音源のオーナーでもある。僕はそんな彼の技術的アシスタントであればいい。プロデューサーとして、彼は明らかに僕より優れているのだから。それがハッキリしているせいか、あれこれ悩まず、スパスパッと決まるのだ、コンプもEQも。
YAMAUCHIの車で送ってもらって帰宅。アップルズ黒田くんの日記読んで気になった「回路」のヴィデオを見る。マジに何度も鳥肌立った。観る者の後ろでパタンとドアを締め切って、閉じ込めてしまうような映画。矛盾だらけのストーリーを補ってあまりある、特異な空間構成術のようなものがある。でも、音楽が安いなあ。サウンド・トラック、別に作りたくなってしまった。

8.18
うちから歩いて数分のところにある某スタジオで、YAMAUCHIのミックス。今日は3348とSSLでアルバム用のヴォーカル入りの曲をミックスする。エンジニアは間瀬さん。僕は初対面だが、ペンパルズなどを手掛けている人。ドイツのムジークというメーカーのパワード・モニターを持ち込んでいる。さらに僕も使っているA.R.JORDANのENTRY Sというミニ・スピーカーも持ちこみ。ムジークはペアで70万円ぐらいするそう。パッと聴いた感じ、ジェネレックなどよりずっと上品で素直な音がしそう。
スタジオのセットアップ中に、昨日、僕がミックスした「FADE」という曲をラージ・モニターで聴いてみるが、ドーンと伸びたローは良い感じ。これがマスタリングでもう少し、ゴーンに近づくともっといいな。トータルでちょっとだけハイが足りないかもしれないが、これもマスタリングで補えるだろう。しばし雑談などした後、ミックスが始まる頃に、僕はスタジオを後にして、幕張のサマーソニックに向かう。
第一会場のマリン・スタジアムに着いたら、ちょうどチボ・マットがステージに上がったところ。パワフルな演奏。ミホちゃん、相変わらずカッコイイ。こういう大きいフェスティヴァルのステージのやり方も心得ている感じ。アッという間だったが、楽しかった〜。
バックステージパスがもらえていなかったので、マネージャーのデヴィッドに電話して、駐車場でピックアップしてもらう。そのままバンに乗って、第二会場の中にあるチボの楽屋へ。ユカちゃんは6月にニューヨークに行った時に会ったけれど、ミホちゃんは一年ぶりくらいか。ユカちゃんの両親、弟のチャキもいる。パスがもらえたので、バックステージに設置された食堂で一緒にゴハンまで頂いてしまう。と、隣のテーブルに篠原ともえちゃんがいて、これまた久しぶりの挨拶。
でも、ワイワイできたのは束の間。チボ・マットはテレビの取材を終えた後、そのまま羽田空港へ。来週、東京に戻ってきたら、ゴハン食べに行こうと約束。デヴィッドとは来週のビジネス・ミーティングのアポを整理。ティモ(・エリス)がソロ・アルバムのCDを2枚くれた。1枚は会場で岡村詩野に奪われてしまったが。
残った僕はとりあえず、マシュー・スウィートを観る。ヴェルヴェット・クラッシュがバックで、もちろん、良い演奏なんだけれど、ちょっと大味には感じた。アメリカン・ロックンロールの安定感がありすぎというか。「ガールフレンド」を出した直後にリチャード・ロイドがギターだったマシュー・スウィートのバンドを観たことがあって、あれは最高だったからなあ。リチャード・ロイドのあぶなっかしいテンションを持ったプレイが、死んじゃいそうなくらいに格好良かった。ロックって、そういう、いつでも再現可能とは限らない、壊れやすい部分が魅力だったりするわけで、それがないと今ひとつ面白くないのだ、僕には。
続いて、エールも観たが、これはもっと退屈。だって、B級のプログレみたい。なんだかピンク・フロイドでも観ているような、というのは、もちろん悪い意味で、ピンク・フロイドはファースト以外、ほとんど興味ないからね、僕は。なので、岡村詩野とアジア系屋台のメシをつつきつつ、ビール飲んでお喋り。幕張の会場の音響、あるいは居住性にも不満が多かったこともあって、あれやこれや悪態合戦してたような。話題は移り、ピンク・フロイドの悪口から、某評論家の悪口まで。
アップルズ黒田くん一行、MM編集長、高橋修くんら、何人かの知り合いに会うが、結局、ひとりで電車で帰ることに。で、深沢町内まで戻って、YAMAUCHIのミックスの上がりを聞きにスタジオへ戻る。行ったら、9時間ぐらいかかって、ちょうどミックスが上がったところ。聞かせてもらうが、間瀬さんのミックスは素晴らしいの一言。何一つ、注文をつけたくなるところがないというのも珍しい。完璧なバランス。かつ物凄く音楽的でもある。もちろん、YAMAUCHIも大満足。間瀬さんとの作業はあすも続くので、サッと解散。

8.19
目が覚めたら、もう10時。急いで飛び出す。スタジオまで早足で行くが、すでに間瀬さんやYAMAUCHIは到着済み。昨日、ミックスした曲のDATコピー中。スタジオのロビーでコーヒー落として息を吹き返す。コーヒーメーカーのコーヒーじゃなくて、エスプレッソ・マシーンで自分でコーヒー落として飲めるなんて良いスタジオ。
今日は2曲ミックスの予定。1曲目の「樹海」に取りかかったところで、僕は自由が丘に。ちょっと買い物の後、家に戻って雑用。夕方に再びスタジオに。ミックスは今日も順調。「樹海」は最初のマキシ・シングルの表題曲で、先々月、山口泰にもミックスしてもらったのだが、ニューヨークと東京のやりとりでは詰めきれず、間瀬さんでやりなおすことに。かなりアブストラクトな曲なのだが、優しい光が差しこむミックスになった。曲にはほとんど繰り返しがなく、行ったっきり戻ってこない構成。当然ながらサビと呼べるようなパートもないのだが、でも、不思議なポップさがある。ビョークやレディオヘッドやデスティニー・チャイルドが今のポップだとしたら、この曲も同じようにポップでありうるという気がする。
ヴォーカルの処理に一点だけリクエストをして、僕は再び外出。リキッドルームに。エゴラッピン、ママ・ミルク、アコースティック・ダブ・メッセンジャーズの出演するイヴェント。アコダブのステージはクールで、でも、ちょっとだけ土臭くもあって、カッコイイ。演奏も音響もステージ途中からどんどん良くなっていって、お客さんの反応も良かった。なんだか嬉しくなって、バックステージに。ベースの高橋くんやフルートの佐藤さん(双子のお姉さんの方)とお喋り。
それにしても、エゴラッピンの人気はさすが凄くて、リキッドはお洒落なお客さんで一杯。DJはUFO矢部くんとクボタタケシ。矢部くんとも久しぶりに話す。コンポジット誌のアンケートに僕が書いていたことに共感しましたよ、と矢部くんに言われた。
ママミルクのステージを少し観たところで、残念ながらリキッドルームを後にして、駅前で沖縄そばをかきこみ、再びスタジオに向かう。2曲目のミックスはやや難航。昨日から働き詰めなので、間瀬さんもYAMAUCHIも耳がかなり限界に来てもいるだろう。僕は外出しているので、リフレッシュできているが。
間瀬さんは小音量でミックスする人なので、ロビーでYAMAUCHIのサポート・スタッフのGくん、Iくんの打ち合わせ。22日は「樹海」のヴィデオ・クリップのオフライン編集。23日にはMA。その晩にとある場所で試写会の予定。マキシ・シングルのマスタリングは30日。アルバム用の曲もあしたから僕が1曲、インストをミックスし、26日に別のエンジニアでヴォーカル曲を2曲ミックスすればほぼ完成する。時間はかかったけれど、凄いものが出来つつあるので、みんなでワクワクする。
結局、ミックスは午前2時すぎに完成。お疲れさまでした。