BEFORE GET IN SLEEP

6.15
朝までスタジオ作業。朝日美穂「だいすき」のミックス。ニューヨークの山口泰にふたつミックスを作ってもらったのだが、どうしても、自分でもワンミックス作りたくなった。この曲は全部の楽器をひとりでやっているリズム・プログラミング、ギター、ベース、キーボード。すべての音符のヴェロシティーまでを自分ひとりで管理し、それを自分ひとりでトリートメントして、PRO TOOLSのトラックに並べてある。そこまでの作業のほとんどは朝日も立ち会わないところで一人でやった。結果、出てくるグルーヴは良くも悪くも僕個人のパーソナルなものになっていると思う。
それを一度、人に手に委ねて、パブリックなものにしていく必要性はもちろん理解しているけれど、自分にしか分からない、微妙なバランスの上に成り立っているグルーヴがそこで消えてしまうのは、どうしても避けられない。ならば、ミックスまですべて自分だけの微妙なバランス感覚の上で成り立たせたヴァージョンも作っておきたい。最終的にどっちが良いかは、完成してから判断すればいいだろう。
しかし、コンペの相手は山口。彼のような切れの良いEQ、厚みがあるのに飽和しないローのバランス、そして、全体の音圧感はどうやっても僕には真似できない。真似しようとすると、無理なコンプレッションで歪みっぽくなってしまう。でも、自分なりのやり方があるはずなので、今までやったことのない、いろんなことを試してみる。こないだ手に入れたUREIの1176を使い倒す。いろんなことを学びながら進む。あと一日作業すれば、自分で届きたいところまでは届くかもしれない。
帰宅したのは明るくなってから。本当は朝の8時にJRの川崎駅で待ち合わせがある。今日はPHATの大阪でのライヴ。4人でバンに乗って向かうはずだったのだ。が、これでは荷物をまとめる時間もないので、ダイスケに電話してキャンセル。一度、寝てから、新幹線で向かうことにする。3時間くらい寝て起きるが、雑用もたまっていたので、午前中はそれに費やす。宅急便などを送りに行って、一度、スタジオに寄り、必要になりそうなケーブル類や大阪でのプロモーションのためのCDなどをリュックに詰めてから東京駅に。気がつけば、もう午後4時。ギリギリの時間だ。
車中はもちろん爆睡。一瞬で大阪に着いた。ライヴの場所は南船場にある&'S SELECTIONというお店。ライヴハウスではない。雑貨屋やカフェやギャラリーが一緒になった不思議な空間だ。3階の奥にバースペースがあり、その脇でCDも売っている。売っているCDを見たら、知り合いのが多い。カマ・アイナやロンサム・ストリングス。もちろん、 さかなやPHATも。
その3Fのギャラリー部分をステージに作り替えてライヴをするのだが、僕は8時到着。ちょうど、セッティングが始まったところ。長いドライヴでメンバーは疲れているはずだが、出迎えたスタッフの雰囲気が良いので、気分的には盛り上がってくる。イヴェントの主催者はマブチくんというこないだまで大学生だった男。メールのやりとりしかしていなかったので、ガタイがでかいのに驚く。
お店には十分なライヴ用の機材がないのだが、事前に聞いていたので、持込み機材でなんとか良いセッティングに辿り着く。僕の家からSTEWERTのパワーアンプを持っていったのだが、これが大正解。あと、出掛けにこれが足りないんじゃないか?と思って、長いスピーカーケーブルを持って出たのだが、これもビンゴ。唯一、バンドのヴァンに乗っていなかったケーブルだった。
1時間ほどサウンドチェック。良い感じ。9時オープンの予定が30分ほど遅れてしまったので、店の外にはお客さんが並んでいる。前売りが40枚近くです、とマブチくん。が、そんな人数じゃない。会場は100人も入ればギュウギュウなのだが、アッという間に100人を越える。スタッフを含めると、130人くらいになっていただろう。しかも、若くて、お洒落な人達。2月のさかなの京都でのコンサートの時にも、お客さんの質に驚いたけれど、今回も同じような感じ。しかも、みんな初めて観るPHATに物凄く期待して来ているのが分かる。
メンバーはスタッフにタコ焼き屋に連れて行ってもらい、「感動的にうまかった!」と上機嫌。11時から演奏開始ということになり、まずは45分のセットということで始める。が、お客さんのノリが凄い。1曲終わると大歓声。スジツメ状態なのに、みんな踊る、踊る。釣られて、PHATの演奏もヒートアップ。2ステージあるにもかかわらず、スピーディーな曲ばかりを続ける。先週のリキッドルームの後、ダイスケと話していて、「客が踊っている時はDJになったつもりで、そのまま踊れるテンポをキープしなきゃ」と言ったことがあったのだが、まさにその通りの展開。気がつけば、ファーストセットは60分もやっていた。
1時間休んで、午前一時からセカンドセット。終電も過ぎたので、お客さんも三分の一くらいに減り・・・と思いきや、音を出し始めたら、どんどん人が戻ってくる。セカンドから観に来た人も少なからずいて、再び、ほぼ満員の状態に。PHATの方はファーストで飛ばし過ぎたのか、ミドルテンポの曲でダイスケがカラスを駆使し、インナーな展開でスタート。が、中盤からは完全なアコースティックになり、ストリートでやりなれたスタイルに。最後はPHATの初期の曲を連発。なんだかもうワンマン・コンサートのようなメニューだ。こんな濃いPHATのライヴを観たのは、僕も初めて。しかし、二時を過ぎてもお客さんはまったく減らない。アンコールまであって、セカンドセットは気がつけば90分! 二時半にようやく終了。「大成功や〜」とマブチくん以下のスタッフともども喜び合う。「大阪サイコ〜」「早く次のアルバム出して、来てくださいよ」。
が、さすがにメンバーはもう倒れる寸前で、この日は打ち上げはなし。僕は連日、朝までスタジオやっていたので、妙に目が冴えていて、マブチくんと一緒に別のクラブに。マイス・マレードがダウンというクラブでやっていたのだ。クラブに着いたのは4時すぎでライヴはもう終わって、アフタアワーズだったが、そのイヴェントの主催者で、大阪でラフト・ミュージックというレーベルをやっている笹岡さんに会えた。ラフト・ミュージックは先日、PHATが共演したアコースティック・ダブ・メッセンジャーズなどを出している。ママ・ミルクの次のアルバムもやるそうだ。SAKANAやPHATといろいろ一緒に出来そうな企画を話しあう。今日のイヴェントもそうだったが、ノリで物事がどんどん決まっていく感じ。東京ではいちいち採算分岐を考えてやらねばならない物事が多い。大阪はもっとずっと直感的だ。
マブチくんに送ってもらって、朝五時半にホテルに。あしたは朝八時半から仕事だというマブチくんに深く感謝。

6.16

&'Sで楽器積み入れの後、メンバーやイヴェント・スタッフの人達と一緒に昼食。昨日は打ち上げなかったので、そのかわり。残念ながら、マブチくんは仕事で欠席。本当に今回の大阪は気持ちが良かった。次のアルバムのリリース・パーティーも、東京より先に大阪でブッキングされてしまいそう。
みんなと別れた後、アメ村周辺でレコード店営業。昨日のスタッフの田野くんが最後まで付き合って、道案内までしてくれる。レコード買って、スニーカーも買ったりして。夕方に東京に向かうが、さすがに疲れがドッと出て、車中爆睡。家に戻っても、早く寝る。

6.17

意外に早起きしてしまったので、午前中から雑用。MEMORY LABやSAKANAのHPをあちこちいじる。たいした更新はないのだが。
駒沢公園脇の中華料理店でソバを食べた後、眠くなって昼寝。夕方まで目一杯、休む。それからスタジオに。今日こそ、上げたい「だいすき」のミックス。夜中までかかったが、もうやることないところまでやってみた。コンピューター・パワーの限界まで使っているので、何度も止まってしまう。リヴァーブやディレイのリレコで、なんとかしのぐ。あしたはマサユキとナチュカラ森くんがやってきて作業するので、セッティングをバラさねばならない。PRO TOOLSミックスとはいえ、今回はアナログ機材をいろいろ使っているので、トータル・リコールは効かない。でも、もう十分やることはやったのでOKだな。山口ミックスとどちらを取るかは、マスタリングの時に判断することにしよう。
この曲、実を言うと、僕は岡村靖幸をほとんど聞いたことがなく、当然、思い入れもなかったので、最初は自分が何をすべきなのか、分からずに戸惑いつつやっていた。が、途中でパッと視界が開けた。メインのチョッパー・ベース・リフはプリンスの「ポップ・ライフ」。岡村へのオマージュはできないけれど、岡村の元ネタはプリンスなわけだし、プリンスへのオマージュなら僕にも出来る。朝日は朝日でプリンス〜チャカ・カーンの「アイ・フィール・フォー・ユー」を意識したヴォーカル・トラックを作っている。さらにギターは往年のレイ・パーカー・ジュニアのスタイルでやってみた。めちゃめちゃエイティーズな躁状態のトラック。カッコワルイすれすれ。でも、BPM123でキックは4つ打ち。ドラムンベースやツーステップで使われるようなベンドするベースも隠してある。
中間部のアコギは一度、生で弾いたものをMIDIの打ち込みでコピー。それを弦を一本づつ鳴ら形で6トラック使って録音。その各トラックにオーディオ的な仕掛けをした。パッと聞くと、ただのアコギのアルペジオのようだが、実は生では絶対に弾けないインポッシブル・ギター。そのかわり、ボトムに絡むラテンっぽいベースは手で弾いた。実はベースも生と打ち込みとサンプルと4トラック使っている。奇妙なトラック。すべてがイビツで嘘っぽい。が、曲には合っていると思う。
なんだか、僕も岡村が好きになってきてしまった。