OWNER'S LOG

05.05
ゆうべからの原稿仕事を午前中までに3本は終らせた。うち二本は二千字以上のコラム。普通なら、これだけ仕事すればご苦労様ってことで、後は一日寝て過ごすところだが、今日はそうはいかない。午後からは深沢のスタジオでさかなのレコーディング。
思えば、さかなとレコーディング・スタジオに入るのは久しぶり。鈴木くんのドラム・レコーディングなんて、「リトル・スワロウ」以来だ。エンジニアはPHATのレコーディングをずっと手掛けてもらっている吉光くん。
さかなの3人はきっちりリハをして今日の日に臨んでいるので、恐ろしく順調なペースでレコーディングは進み、とあるコンピレーション用の1曲を完パケ、さらに「PANAMANIAN HAT」、「ROCKY MOUNTAIN」、「LOVE SINGER」の3曲のリズム録りを終えました。今月中にあと二日ほどスタジオ入りするかも。ということは、今年は「ONE MORE DOLLAR」とPOCOPEN & NISHIWAKIのアルバムに続いて、さかなの3年ぶりのニュー・アルバムも出てしまうかもしれませんな。
本当はアナログ・レコーディングのはずが、テレコが壊れて使えなかったり、さかな特有の、十数枚もアルバムを残してきたアーティストとは思えないドタバタした局面があったりもしましたが、いや、ゴールデン・ウィークの最後を飾るにふさわしい楽しい一日でした。なにしろ、SONYのC800Gで拾うPOCOPENのヴォーカルの素晴らしさたるや。
そうそう、今回、PRO TOOLS HDを初めて使いましたが、24BIT、48KHZでも確実に違うのが分かった。ハイローがすっと伸びていて、癖がなく、滑らかな音という印象。でも、あのI/0のデザインはヤダ。オレは絶対ヤダ。なので、当分、24MIX PLUS+APOGEE AD8000SEで行くでしょう。96KHZや192KHZにするんだったら、その前にマスターレコーダーをDSDにするだろうな。TASCAMのDSDレコーダー使ってみてえ。MEMORY LABのカタログも将来はSACDにして行きたいし・・・などと考えるこの頃。

05.06
スタジオで藤原大輔「白と黒にある四つの色」のマスタリング手直し。まだやっています。音質的には1曲だけ、レベルを下げて、コンプ感を弱めて、落しなおす。あとは曲順を変更。オレがしつこく曲順について意義を唱え続けていたのだが、ダイスケが折れないので僕がしゃ〜ないと諦めた頃に、「この曲順どうですか?」と別の提案が出て一気にそっちに決まる。ヤッタ! ついに完成! ホントに完成!

05.07
と思いきや、昨夜、家に帰ってから、考えこむことあり。というのも、持ち帰ったマスターCD-Rを家のステレオでチェックしたら、どうもパッとしない。マスターCD-Rは太陽誘電のマスター用CD-R、1枚400円もするものに2倍速で焼く。が、聞き比べてみたら、前回、チェック用に焼いたCD-Rの方が音抜けはよく感じられる。これは同じ太陽誘電のバルク品を4倍速で焼いたもの。う〜む。実はPOCOPEN & NISHIWAKIのアルバムのマスターも、太陽誘電のマスター用CD-Rで焼いたものの、西脇くんがチェック用に4倍速で焼いたソニーのCD-Rの方が好みということで、ソニーの方を使ったのだった。
太陽誘電のマスター用CD-Rはプロのマスタリング・スタジオでも使われているが、盲信しちゃ駄目ですね、やはり。音に関することは耳で確かめてナンボ。そもそも、こういうマスター用というのは、一般の製品と仕様は同じだが、エラーレイトの低いロットを選んで、別のパッケージで出しているらしい。以前のマスター用CD-Rは16倍速くらいまでしか対応していなかったが、現在は一般の製品が48倍速まで来てしまっているから、新しいマスター用CD-Rも仕様は48倍速のものと同じなのかもしれない。そして、これはもうよく知られていることだが、高速の書きこみに対応したCD-Rは、オーディオを低速で書きこむのには適していない。オーディオ用にはむしろ、8〜16倍速の頃のCD-Rの方が良かったので、マニアの間では当時のCD-Rがとんでもない高値で売買されていたりする。太陽誘電のCD-Rの記録面に記されているロットを見てみたら、マスター用の方がかなり新しいロットだった。バーゲンで買ったバルク品の方が実はヴィンテージな高音質ロットだったかもしれない。
なので、今日は一日潰して、スタジオでCD-Rの音質検証。各社のCD-Rを買ってきて、焼いては聞き、焼いては聞き。メインのモニターで、ラジカセで、ヘッドフォンでも聞く。めちゃめちゃ時間がかかりました。買ってきたのは基本的には現行製品に近いもの。40倍速以上は買わないが、今、普通に手に入るのものなので24か32倍速。あとはオーディオ用のCD-R。でもって、一日潰して見つけたベストバイはというと・・・企業秘密です。まあ、ほとんどのコンピューター用はパッとしなかったな。A社のオーディオ用(ヒントは4N銀を使ったもの)で際立って、音の立ち上がりの良いものがあり。アタック感が全然違う。が、ハイが目立つ分、ローエンドがもう少し欲しくなる。
ローエンドの豊かさでは焼きなおした太陽誘電のマスター用が良い感じ。が、以前から感じていたことだが、良くも悪くも、音が柔らかい。奥行感などはよく出してくれるが、パッと聞き、地味なところがある。
ハイローのバランスがこの2枚の中間にあるものはないかと思って、何度も聞き比べるが、M社のオーディオ用が確かに中間くらいのウェルバランスではあるものの、コレという気にはならない。なんか音が安い感じがする。各社のコンピューター用も同じような安い印象。太陽誘電のバルク品がやはり、中では一番良かった。これは印刷面に何も乗っていないのが良いのかもしれない。なので、今日の結論としては、太陽誘電のマスター用がふくよか、A社のオーディオ用が立ち上がり良し。セレッションとJBLくらいの差がある、まったく違うキャラクターだが、この2枚が魅力的。間を取るなら、太陽誘電のバルク品というところか。ここまで来たら、次は旧製品もチェックですが。
しかし、ここでまた悩む。印象としては某社のオーディオ用はソニーでプレスしたCDに近い。太陽誘電のはMEMORY LABがいつも使っている三洋マービックのそれに近い。が、工場に送るには、どちらのマスターが良いのか? う〜む。

05.08
銀行〜郵便局〜JASRACなど回って、夕方、渋谷で三洋マービックの営業担当者とミーティング。プレスの発注とともに、昨日のCD-Rマスターの件を相談。太陽誘電のマスター用CD-RとA社のオーディオ用とどちらをマスターに使うべきか迷っているという話をする。が、プレス工場では、CD-Rのオーディオ・データを一度、メモリーに読みこんでから使うので、反射面の素材の違いなどによるマスターの音質傾向がそのままプレスされた製品のCDに反映されるかどうかは分からないということ。そうか。その意味ではマスターはともかくエラーが少ないことが、一番重要なのだろう。
しかし、素晴らしいことに、担当者も興味を示してくれて、分かりました、じゃあ、今回は試しに両方のマスターで試験プレスしてみましょう、という話になる。大滝詠一や山下達郎の注文だったらいざしらず、MEMORY LABごときの小ロットのCDプレスに、こんなことを面白がって一緒にやってくれるとは! サイコ〜の会社ですね。そういえば、以前に書いた三洋マービックの新しいプレス・マシーンも稼働し始めたのですが、今回は以前と同じラインでプレスすることに。両方テストすると、訳分からなくなるので、新旧のマシーンの比較は次回になってしまいました。
高田馬場に出て、「OLLIE」「OLLIE GIRLS」編集部にプロモーション。夜はスタジオ。朝日が新曲を持ってきたので、聞かせてもらい、コード進行など検討。

05.09
ネットをフラフラしてみると、世の中にCD-Rオタクと呼ばれる人達が少なからずいて、いやもう、そのオタク度たるや、物凄いことになっていたのですね。僕は普段はアールにコピーなんてしないから、年に10枚もあればいいマスタリング用のCD-Rが定められれば良いだけなのですが、マニアの間では高音質だと言われる旧製品が高値で取り引きされ、幻の63分メディアなんて、青天井だったりする。中にはコレクションのためだけに保持している人もいるようです。CD-Rは色素の変質があるから、長期間は性能が維持できないと思うんだけれどな。音楽マニアでもオーディオ・マニアでも全然なくて、パソコンで音楽聞いてそうな人達(それもコピーで)が、こと、CD-Rの音質にだけはウンチクを傾けているのも奇妙。しかし、16倍速より前くらいの旧製品の方がオーディオ用には良かったというのは定説で、加えて、現在は国産のCD-R自体が減って台湾産が主流になり、生産量の増大によって品質管理も甘くなっているようなのは困ったことです。だから、安定して手に入るということでは、太陽誘電のマスター用に頼らざるを得なくなるのだけれど、その音質に疑問を持ってしまうと、こりゃ大変。とある各社CD-Rの詳細な音質検証をしているHPを見てみたら、一昨日、僕がチェックしたCD-Rについては、ほぼ、僕が抱いた感想と同じことが書いてありました。が、63分メディアに血まなこ、みたいなCD-Rオタクに混じって、旧製品を買い集め、音質検証するなんてヤダなあ。
などと思いつつ、三軒茶屋のバッタもん屋を覗いたら、通称「イルカ」が置いてあったので、あるだけ買っちゃったり。
午後、スタジオで藤原大輔とカメラマンの田中さんと3人でミーティング。PHATの膨大なライヴ音源とPHATを追い続けてきた田中さんの膨大な写真をネットに公開する件について。深沢のサウンドアライヴに月曜日のさかなのレコーディングのデータを取りに行ったり、家に戻って、もろもろ雑用したりした後、夜はまたスタジオで朝日美穂レコーディング。ひたすらヴォコーダーの日。キーボードにかけたり、シューゾーくんのギターにかけたり。オートチューン使って「あめ〜りかん・ら〜いふ」とかやるのが流行りの昨今ですが、クラシックなヴォコーダーはファンキーで良いぞ。そうそう、最近、ザップ〜ロジャー・トラウトマン・ブームなんですよね、また。ライノから出た2枚組ベストも買っちゃったし。でも、ライノのCDってマスタリング悪い。

05.10
マックのトラブル。というか、以前からそうだったのだが、FIREWIREのHDをフォーマットしたいのだが、フォーマッターがディスクを認識してくれない。二社のフォーマッターでどっちも駄目。そもそも、うちのスタジオの環境はいまだに9600とOS8.6。それにFIREWIRE+USBのボードを差して使っている。これ自体が問題なのかもしれない。PRO TOOLSはCPUにさして依存しないので、現状のシステムのパフォーマンスで問題はないし、非常に安定しているので、当分、環境は変えたくないのだが、OS9.1くらいは使えるようにすべきか。が、ここでまた問題。SCSIディスクはシステムの入っているもの以外、DIGIDESIGN推奨のフォーマッターでフォーマットしてある。すると、OSはインストールできないのだ。SCSIディスクの内容をひとつ、どこかに移して、アップルのドライヴ設定でフォーマットしなおせば、OS.9.1をインストールできる。そうすれば、FIREWIREのHDもフォーマットできるのかもしれない? が、試すのは面倒臭いなあ。結局、今日は諦める。
遅い午後に、西脇くんがやってきて、さかなの曲の簡単な編集作業。それからAD8000SEを使っての初めてのミックスに突入。さかなの曲、といってもカヴァー曲です。加川良さんの「白い家」という曲。が、これがPOCOPENの歌唱によって素晴らしいフォーク・ブルーズ、個人的には初期フィービー・スノウを思い起こすような曲に生まれ変わっている。今日はとりあえず、ミックスの方向性を決めるために、ひとりでラフを作ることにする。バックはドライで土臭い感じで、ヴォーカルは柔らかくリヴァーブをかけて、ということで西脇くんとは話したのだが、始めてしまうと、いろいろやってしまうわけで、結局、なるようにしかならないわけで、オレっぽいミックスになってしまいました。とりあえず、CD-Rに焼いて、西脇家とエーヴェックスのディレクターに送ることに。

05.11
日曜日だというのに、いろいろ雑務多し。考えることも多し。MEMORY LABも3年目に入って、現在、レーベルの周辺はとても充実した状態にある。今年のリリースはまだ新川忠「SWEET HEREAFTER」とさかなの「ONE MORE DOLLAR」だけだけれど、6月には藤原大輔ソロが出るし、さかなレコードからのPOCOPEN & NISHIWAKIも出る。さかなの新作レコーディングも始まっちゃったし、進行中のプロジェクトは幾つあるか分からない状態になってきた。遅れに遅れているさかなトリビュートや朝日美穂新作も早く仕上げなければいけないし、PHATのライヴ盤だって出したいし。その一方では新しくやりたいアーティストも2組いる。YAMAUCHIやタイスケマツオや新川忠のようなアーティストはいつ、アルバム出来ました、と言ってCD-Rを差し出すか分からないし、彼らの作品だったら出したいに決まっている。みんなに作らないんですか?と聞かれる僕のソロ・アルバムは・・・なんて話はやめときましょう。でも、僕は物書きだったこともあって、熟慮してから行動する人間に思われるのかもしれないが、ほとんどいつもやっちゃうのが先、考えるのは後。お金のことを考えるのは一番後。で、いつのまにか、こんな風になっていて、これはもう今までの人生で一番面白い局面!と言ってもいいくらいなのですが、問題は会社が破産せずに、自分が健康を損なわずにやりぬけるかだったりする。まあ、精神は頑丈(鈍感)な方だから何とかなるでしょう。でも、走らなきゃなあ。もう半年も走っていない。2キロのリバウンド・・・ぐらいならば、簡単に戻せる・・・と思っているうちは、なかなか走り出せない。新しいスニーカーでも買うかな。
などとしているうちに、夕方になり、スタジオに。今日も朝日美穂レコーディング。ベース・ダビング・デー。デモで弾いた僕のベースがシューゾーくんのギター・ダビング後は、いまひとつ噛み合わなくなってきたので弾きなおす。そういえば、先日、生まれて初めてベースの弦を張り替えた。僕のフェンダー・ジャズ・ベースは6、7年前にニューヨークで買ったものだが、以来、弦は買った時のまま。ギターでも僕は古い弦が好きなので、出来れば、張り替えたくなかったのだが、どうも録り音がパッとしない気がしたので、太めのゲージに張り替えてしまいました。生音はビンビンいって、あまり気持ち良くないが、ラインで録る音は出力も上がり、かなり良くなった。
朝日美穂のトラックはほとんどの場合、僕がアレンジして、打ち込みして、弾ける楽器は自分で弾いて、限りなく本チャンに近いデモを完成させたところで、ミュージシャンに来てもらって、各パートを差し替えていくというやり方でやってきたのだが、最近は人に頼んで、差し替えてもらうのが良い結果を生まないことが増えてきた。今の朝日や僕が求めているのが、マシュー・ハーバートやマックス・ツンドラの音楽に感じるようなユーモアの感覚だったりするということもありそう。本物のミュージシャンのプレイはどうしてもシリアスになる。自分で弾いたものの方が、多少、粗くても出したいフィーリングが出せるので、なるべく頑張って、自分で弾こうと思うようになっている。しかし、ベースを何時間も弾くのはキツイわ〜。普段はそうでもないのだが、レコーディング・モードで弾くと、もう指ボロボロ。自分的にはファースト・テイクで良い線行ったつもりだったのだが、朝日からいろいろ注文が出て、延々やりなおしに次ぐやりなおし。アクセントのポイントを変えたり、エフェクトかけ録りしたり、いろいろやるが、やるほどに混乱してきて、ゴメンナサイ、もう弾けません状態に。
結局、ファースト・テイクにムーガーフーガーをかけてリレコし、編集したものをOKとすることにした。今日のオレはイケてると思って弾いているファースト・テイクにはフレッシュさがある。なんだよ、やっぱりイケてたじゃん。
終了後の深夜、珍しく朝日が「ワインを飲みたい」などと言うので、246沿いのイタリア料理屋でピザをつつきつつ、デカンタでワイン・・・といっても、彼女はグラス半分も飲まないので、僕がひとりで飲んで酔っ払う。家に帰ってから目が回って、気がついたら、朝までソファで寝てました。こんなんじゃ、走れんわな、まだ。