BEFORE GET IN SLEEP

10.28
走るのは無理な状況になってきました。午前中から雑務と原稿準備。今ひとつ結果が出ないまま午後になり、今日もひとりスタジオに。フジワラダイスケから連絡がないので、まずは先週の朝日美穂レコーディングのプロトゥールズ・データの整理。マキシ・シングル用の3曲のラフ・ミックス(ただし全部、仮歌)を作る。「ディズニーランド・コンプレックス」の打ち込みパートはアナログに通したら、音が丸くなりすぎた気もして、一部、もとのデータを呼び出し。デジタルの切れの良さもどこかにないと、今のブラコンぽくならないしなあ。昨日のライヴでやった「PINK CHEEK」はヌマちゃんのドラムスが絶品。でも、ピアノの他にもうひとつ楽器が必要のように思えて、スライド・ギターで裏メロ弾いてみたり。さらに、僕がベース弾いてセッションした中から、ワンコードのファンク・リフを抽出。ギターとオルガンをちゃちゃっとダビングして、壊れたミーターズ風のインストなど作ってみる。使い道あるかな。
暗くなってきたが、フジワラダイスケから電話はないまま。今日は何もないから、PHATの曲のミックスを進めるんじゃなかったっけ。まあ、気にせずひとりでやろうということで、仮題「カッパ」にトライ。仮ミックスの状態でかなり格好良いのだが、僕の中ではイアン・オブライエンの新作みたいな、虚空に拡がる音像のイメージがあったので、いろいろやる。が、いろいろやるうちにリズムが混沌としてきて、アレレ、これなら仮ミックスの方が格好良かったかも・・・と思い出す。
このへんがミックスの難しいところ。でも、リズムまわりのコンプやEQをいろいろやるうちに、フッと良いバランスになって、そうしたら曲の全体像が見え始めた。なので、そこからはがんがんエフェクトを作る。夜半過ぎにほぼミックスが完成。プロトゥールズ内でリヴァーブを4種類、ディレイを5種類も使っていた。いつもはこんなに使えないのだが、今回はアナログである程度、音を作り込んで録ってあるので、EQ、コンプの使用頻度が少なく、DSPパワーに余裕がある。
でも、このミックスはこのミックスで良いけれども、まだ、仮ミックスの方が格好良かったんじゃないかと思ってしまう。リズムを整理して、空間を拡げて、エフェクトを凝らして、クラブでも聞けるようなミックスにはしたけれど、録ったままの仮ミックスには60〜70年代のロック・レコードみたいな塊になった演奏の迫力があった。アルバム1枚、ほとんどミックスなんてしないで、そういうレアでロウな録音物を聞かせてしまうというのもアリのような気がして。

10.29
僕は相当にショキングな内容のことでも、ごくごく平静を装って聞いてしまう癖がある。たぶん、子供の頃、泣き虫だった反動で、その場で感情的な反応をしたりするのがいけないことだと思うようになったかもしれない。涙腺が緩いので、感情をサッと閉じて、対応するというか。
実は今日も相当にショッキングなニュースがあり、僕に告げた方はかなり恐る恐る告げたのではないかと思うのだが、予想していたかのように平然と聞いて、その話題には以後、ほとんど触れなかった。でも、後でやっぱりショックは受けてたりして。
そういえば、ビクターが全面的にCCCD化のニュース。ビクターのコピー・コントロールは独自方式という噂(というより社員から聞いた話)だったが、発表によれば、ミッドバーのCDS200を採用。それによる音質劣化を独自のK2プロッセシング技術で埋め合わせるというものだった。ガックリガッカリ。一度、ビクターのマスタリング・スタジオで技術的理由からK2を外してマスタリングせねばならないことがあって、その時、K2の効能のほどは知ったけれども、それでCDS200による音質劣化を埋めあわせられるとは到底思えない。CDプレイヤーがエラー補正しながら再生せねばならないのには変わりないのだから。ビクターに関して、割と楽観的、好意的に見ていた僕があさはかでした。
しかし、このビクターの発表って、一面ではCDS200は音質劣化すると認めているようなものだよね。そのへんはどうなの? レコード協会的には。自分のところだけ良い顔して、と他のレコード会社は苦虫のはず。あと、ビクターの技術スタッフも可哀想ですね。せっかく開発した技術をこんな風にスケープゴートに使われるというのは。普通のCD-DAに使えば、はるかに音が良いのは明らかなのだから。
しかし、音楽業界はサイアクの方向に進んでいる。上のショッキングなニュースは今はとても書けないが、これまたガックリガッカリ。というより、恐ろしいとしか言いようがないことだし。いずれにしてもCDの時代は終わりだな。五大メジャーの時代も終わりかも。でも、代わるものが見つからないまま、音楽産業自体が沈没していくかのよう。ショ〜ジキ、身の振り方を考えてしまいます。
夕方からPHATのミックスの続き。フジワラダイスケに昨日の「カッパ」の上がりを聞いてもらう。幾つかエディット上の注文をこなし、シークエンスと生演奏のバランスを変えて、全体に太さを出したミックスに作り替える。深夜にかけて、さらに2曲の編集作業とミックスの方向性の確認。何はともあれ、良い音楽を作ることに集中するしかないです、ここは。

10.30〜11.01
いろいろあって、ジョギングも出来なければ、このログすらも書けず。長い間、音楽に関わる仕事をしてきたけれども、かくも本質とは無関係な、馬鹿馬鹿しい物事にエネルギーを奪われねばならないのは、不愉快を通り越して鬱にすらなってしまう。極楽トンボとすら呼ばれるくらいシンプルでハッピーな僕を鬱にするのだから、CDS200というのも凄い技術といえば凄い技術だな。イスラエル企業の巨額の利益の他には誰ひとりハッピーにすることのない、醜悪なテクノロジーが僕の前にどよ〜んと横たわっている。うちのNEOTEKの卓をOLD NEVEに代えてくれても、DATマスターをSTUDERのハーフインチ・マスターに代えてくれても、CCCDになるのだとしたら、埋め合わせは不可能だ。そのぐらいのことでは到底取り返せない、鈍った音を聞かねばならないのは、スカパラやアート・リンゼイが証明してしまっている。スタジオの空気自体がもう、どんよりするしかないよ、こんな時代には。アナログ・マルチで録って、それをプロトゥールズにコピー〜プロトゥールズ内である程度、トリートメントして、グループ分けしたものをアナログでミキサーに出してミックス〜TASCAMの24BITのDATレコーダーで24BIT/48Kのマスターを作る、というのが、最近の僕のやり方なのだが、意味あるのだろうか? こんなことをして・・・などと考えながら働かねばならないのはとても辛い。
しかし、そんな時こそは本質に向かうしかない。とにかく、このスタジオで聞くことのできる最高のミックスを作ってやろう。今やれることはそれしかない。3日間で3曲ミックス。ほとんどひとりきりで作業。いつにない集中度。連日、深夜もしくは明け方のタクシー帰宅。

11.02
昼前になんとか起き出して、眠い目をこすりつつ新宿へ。フジワラダイスケと会ってシリアスなミーティング。結論は出ず。内容は現段階では書けることではない。
ちょっと時間があったので、ダイスケが今夜、ソロ・ライヴをやる職安通りの軍艦マンションへ。この屋上でパーティーがあるのだという。初めて軍艦マンションの内部に入ったが、内部も軍艦みたいでした。こういう奇妙な建物は好きだな。一階には剥製屋が入ってたり、怪しいことことのうえなし。
職安通りの上海屋台で餃子など食べた後、神保町のミュージック・マガジン編集部へ。こないだ断ったシンガー・ソングライター特集の原稿は、萩原健太くんも忙しくて執筆できなかったため、結果、健太くんと僕が対談をするという方向に。が、まずは話はCCCD。なぜ、イスラエルの技術を買わねばならないのか?という話など。ヤバイかもね〜、オレ達、言いたいこと言い続けていると。
しかし、他の音楽ライター達はなぜ、かくも無関心なのか? CCCDの問題は図らずも、音楽に関わる仕事をしているすべての人間に本質を問いかけている。キミはどうするのか?と。ある意味、それは9月11日とも無関係ではないのだ。どうしようもないでしょ、と見て見ぬ振りをしている連中にスティーヴ・アールやトム・ペティの新作を語ってもらっちゃ困る・・・って、今日の本題はシンガー・ソングライター対談でした。
前にも書いたが、僕と健太くんは同じ1956年の東京生まれ。中学〜高校ぐらいの音楽体験は驚くほど近い。学年にひとりくらいジェームズ・テイラーやニール・ヤングが好きな奴はいたけれども、ニルソン聞いているのはオレだけだったとか。あの頃はニュースソースはわずかだったから、同じ音楽雑誌の記事を読んで、同じラジオ番組を聞いていたようだ。森直也さんのFM東京の番組でグラム・パーソンズを知ったとかね。そして、同じレコードを買い、同じコンサートに足を運び、同じようにジェームズ・テイラーのギターをコピーしていた。あ、僕はジェームズ・テイラーについてあまり書いたことがないはずだが、ギターの弾き方の基本はジェームズ・テイラーなのです。コードの押さえ方、右手のフィンガリング、ヴォイシングやシンコペーションの感覚。多分、一番影響受けている。
なわけで、話の半分はジェームズ・テイラーだったような。でも、ジェームズ・テイラーは別格に凄いです。30年間、メジャー・レーベルで活動続けていて、ベスト・アルバム出すと何げに1000万枚とか売れちゃうわけで、そんなシンガー・ソングライターなんて他にいないもん。だいたい、シンガー・ソングライターって言葉には、何かこう、浮かばれない感が漂うところがあって、そこがまた思い入れをかきたてたりするわけでさ(ローラ・ニーロが好きとか、ロンセクが好きとかいう人に金持ちはいないような気がするでしょ)。リヴィングストン・テイラーはどうしているだろう?
まあ、話題は70年代から2000年代へと飛び、オルタナ・カントリーからエレクトロニカまでを横断し、ふたりともこれでもかというぐらい喋ったので、まとめるのが大変そうな対談ではありました。終了後、高橋修編集長を含め、再びCCCDの話から音楽業界の構造不況まで、さらに一時間ほど喋る。こんな時代がやってくる前に歳を取っちゃって、オレ達は幸せだったかもしれない、とか。実はこっちを原稿に起こした方が面白かったりして。
スタジオ行って、昨日ミックスしたPHATのアルバム・タイトル曲「タユタフ」の手直し。さらに、もう1曲ミックスを始めるが、完成には至らず。

11.03
身体というのは正直なもので、オレは肉体改造に成功した!などと思っていたのも束の間。一週間ほどジョギンギをさぼり、連日、スタジオの卓の前に明け方まで座っているような生活をしていたら、肩凝りも腰痛もちゃんと戻ってきたりして。いかんなあ。冬のエクササイズをまずはウェアを揃えるところから練りなおさないと。
といって、今日も終日、スタジオワークでした。前半、PHATで後半、朝日美穂という最近のメニュー。どちらもケツカッチン。この一、二週間が勝負。ところで、ケツカッチンのカッチンって何でしょうね? カチカチ山?
これまで2ミックスのトータル・コンプにしか使っていなかったAVALONのコンプを単体でヴォーカルに使ってみると、さすがにハイファイな結果が得られてグ〜だったとか、ほとんどの人は興味がないようなことしかトピックはなし。あ、最近、スタジオで毎日聞いているのがサンタナの新譜。タワーでかかっていたのを思わず買ってしまった。これは凄いです。笑えます。CCCD対策でもないだろうに、なんと75分間、これでもかというくらいに繰り出されるあの手、この手。どこまで考え抜かれたのか、あるいは何にも考えていないんじゃないか?と思わされる荒唐無稽な企画の数々。家に持ち帰ったら絶対に聞かないと思うが、スタジオ行って、さて!という時の景気付けにはサイコ〜。僕に決定的に欠けている資質である、潔いあざとさ、とでもいうべきものについて考えさせてもくれます。
そういえば、今日、スタジオで初めてとあるCCCDをかけようと思ったら、かかりませんでした。YAMAHAのCDレコーダー、CDR1000だったから当然なのか。実は最近、もはや入手困難なCDR1000の二台目を買って、家のCDプレイヤーもこれに代えようと思っていたのだが、代えたらCCCDのサンプル盤は聞けないじゃん。参りました。SONYがDVDとSACDのコンパチ・プレイヤーを4万円台で出したらしいので、それでも買おうかな。
思うに、宇多田ヒカルや桑田佳祐がCDSを採用するレコード会社に嫌気が差して、ソニーに移籍。洗練されたセキュリティー・メディアであるSACDのみで新作をリリース。同時にソニーが1万円台のDVD、SACDコンパチを出して、数百万人にハードを買わせちゃうという一点突破で、日本は世界に先駆けて次世代メディアに移行・・・なんてことにならないかなあ。経済活性効果もあると思うけれどなあ。そういう意味じゃ、世の中変える力を握っているのは宇多田のお父さんだったりして。
別にソニーが好きで言っているわけではないんだけれど、イスラエルの技術使うくらいだったら、日本は国産技術至上主義で行こうよ。ビクターのEK2も併用してさ。ところで、ビクターといえば、桑田佳祐の新作って僕は持ってないのだけれど、アレって通常のCDだったのかな?