06.18〜24 世の中はワールドカップ、音楽業界は宇多田のリリースに終始した一週間。僕が日記一時休止宣言したのはどちらとも関係なく、そもそも、たいした理由はなかったのだが、蓋を開けてみたらいろいろあって大変な週だった。祝い事もあり、弔い事もあり。とてもすべては書けないので、思いつくことだけ。
レコーディングはフジワラダイスケのソロ・アルバムを静かに進めているだけ。ディジ・ジャズとか、テクノーガニックとか、テキト〜なキーワードをでっちあげたりはしているものの、どういうアルバムになるのか、僕にも全然、よく分かっていない。少しづつ景色が見えつつあるところか。
祝い事のひとつは中村とうようさんの古希のお祝い。音楽業界の重鎮、伝説的な方々までが集う中、末席を汚させていただいた。挨拶までさせられることになるとは思わなかったが。
なんのかんの言って、中学校の頃、創刊間もないミュージック・マガジン(当時はニューが付いていたが)を読み始めた時から、僕の人生は所詮、とうようさんの手のひらの上と言えないこともない。99点付いてたザ・バンドの『カフーツ』を買ったのが高校1年の時。どこが良いのか、全然、分からなかった。それでも2年間、聞き続けたら、ある日、急に目の前が開けた。あの体験がなかったら、その後の僕の音楽人生もなかっただろうな。
とうようさんには学究肌の、あるいは論理派の難しい音楽評論家といったイメージがあるらしい。でも、僕の中村とうよう像は全然違う(プライヴェートではお喋りしたことがないので、実は人となりはほとんど知らないのだが)。
いや、もちろん、とうようさんのフィールドワークの量と質は、世界でも並ぶ者がないレベル。僕などは語る言葉すら持たないが、ただ、僕がとうようさんから学んだのはむしろ、知識や論理や文章力だけに頼るヤツは駄目だってことだった気がする。フィールドワークは怠ってはいけない。でも、同時に音楽を語ること、あるいは作ること、売ること、すべてに言えるだろうが、大事なのは直感と行動、それに何よりも感情! 感情的っていう言葉は悪い意味に使われがちだが、感情的じゃない表現なんてオモシレ〜かよ! そういうところで、僕はとうようさんにかなり根深く影響を受けている。良くも悪くも・・・だろうけど。
久しぶりにとうようさんのお顔を拝見したが、バリバリにお元気そうでした。まだまだ反骨精神に溢れたお仕事を続けられるでしょう。オレも負けられん、と励まされました。
さて、21日にはめでたく朝日美穂「HOLIDAY」がリリース。前日には店頭に並んでいたはずだが、しかし、今週のレコード店はそれどころではない。300万枚出荷の宇多田の新作のシェアの奪いあいの方が大事。そりゃそうだよね。メジャーのレコード会社はそんな時期に競合する商品を出さないので、いつもならリリース集中するはずの週に、女性シンガー・ソングライターの新譜は宇多田と朝日くらいだった・・・てのは気づくの遅すぎ? まあ、特したのか損したのかはよく分からないが。今回はなぜかタワーよりHMVが朝日に対して好意的。どの店舗でも良い展開をしてくれていて、宇多田の隣のディスプレイもあったり。もちろん、向こうが30枚並んでいる隣に1枚って感じですが。
「HOLIDAY」に対する嬉しい反応も幾つか。ネット上でも、会った何人かの人からも「音が良い」と言われたのは嬉しかった。ハーバートのHIFI版なんて言われた日には、舞い上がるでしょ、そりゃ。正直、プロデューサーである僕の中には不安もあった。ソニー時代のアルバムは1000万円以上の予算をかけて作っている。生のストリングスだって、なんだって、やりたいことは実現できた。でも、今はインディー・プロダクション。個人の財布の限度額の中でやっているに等しい。それでもスケールやクォリティーを落さないでやり抜けるかどうか、ずっとずっと、そのことだけを僕は考えてきた。MEMORY LABの作品をひとつひとつ作りながら、少しづつ少しづつ、精度を上げてきたと言ってもいい。
一般のリスナーは制作予算のことなど考えたこともないだろう。でも、インディーの予算とメジャーの予算には5〜10倍の開きがある。が、負けるわけにはいかない。例えば、はっぴいえんどトリビュートと岡村靖幸トリビュートを聞き比べた時、前者は何倍もの予算を使ったに違いないが、しかし、プロダクションの精度はどちらが高いだろう? この2、3年間、あるいは特にこの半年間くらいのことかもしれないが、そこのところの精度を飛躍的にアップできた実感が僕にはある。高いネタ乗せただけの寿司と、本当に仕事した寿司の差みたいなものを人に問える自信が出てきた。
「HOLIDAY」では曲のミックスは僕と山口泰が半分づつやっている。が、今回はクレジットを見ないでどちらがどの曲を、と言い当てるのは難しいだろう。「だいすき」の時はそうではなかった。どちらが良いかは別としても、プロとアマ的な歴然とした差があった。その差を大きく詰めることができたのはこの半年間だ。「THRILL MARCH」はプロ・トゥールズ・ミックスだが、「HOLIDAY」はプロ・トゥールズ+アナログ卓ミックスで、パッと聞きは地味かもしれないが、何年か後に聞いても妙な時代感を感じさせない音に出来たとも思う。プロトゥールズで64トラックぎりぎり使っていても、ごくごくシンプルなサウンド、別の言い方をするとただのポップスとして聞かせられるようになったのも、ちょっと前には絶対に出来なかったことだ。
とはいえ、まだまだ、やることは山積みとは思う。もっと良い仕事を残して、それこそビョークやマドンナがオレに仕事頼みに来るぐらいにしたいもんね・・・なんて、失笑を買いまくっているかもしれないが、少なくともオレには今、前進している実感が20代や30代の頃に比べてもはるかにあるのだ.。この半年間で何を実現したか、言えるわけだから。そんな人生を与えられていることには深く感謝する。だから、あとは日々精進。いつ声がかかってもいいように。
06.25午前中より原稿書きなど。ようやく週に3本以上締め切りがあってもビビらない身体に戻ってきたような。
午後、祐天寺でエーヴェックス本根くんとミーティング。彼とも長いつきあいになってきたけれども、久々に一緒に仕事する機会が出来そう。相変わらず、彼の視点は面白く(そもそも、僕が本根誠という人物に興味を持ったのは、10年以上前、バッドニュースに書いていた原稿を読んで、コイツ、俺より鋭い!と思ったからだった)いろいろとアドヴァイスももらう。グリーディー・グリーンの『MW』は今聞いても傑作だと確認しあったり。
夕方からスタジオでフジワラダイスケのソロ・レコーディング。録ってきた素材の中で、一番、モダン・ジャズな1曲を検討。3人の演奏だけを聞くと、まんまジャズなのだが、実はシーケンスを聞きながら演奏しているので、完全にクリックに同期している。が、ミックスでのエレクトロニクスと生演奏の共存は簡単ではなく、ただ同期している以上の面白いアイデアに到達したくて、いろいろ試す。いつものように話し合いも長くなる。
ダイスケが帰った後、ひとりで別の曲をミックス。非常にシンプルな、静寂感のある曲。エフェクティヴなことは何ひとつする必要がない感じだが、そういう曲のミックスというのは逆に難しい。オフ・マイクの使い方で音場感がガラリと変わるのが、この手のレコーディングに慣れていない僕には新鮮。でも、ジャズ・レコードのように聞き手が踏み込んで聞かないといけないレコードにはしたくない。ポップな意匠もどこかに欲しくて、ビル・フリーゼルの近作など聞き返してみたり。
06.26雑用に追われた一日。ひとつひとつ思い出すのも難しい。
06.27午前中より再び雑用、雑用。まとまって、机に座っていられる時間が足りないので、原稿が滞り始めた。午後、渋谷で新川くんに会って、スタジオの鍵を貸した後、新宿へ。雑用の後、西麻布へ。雑用の後、渋谷へ。雑用の後、また新宿へ。
夕方、新宿タワーレコード入り。朝日美穂インストア・ライヴなのだが、今日は完全なソロ・セット。彼女がひとりでタクシーで全機材を持ってくる。搬出に行こうか?と聞いてみたが、大丈夫というので新宿で待つことに。が、到着してみたら、大きな忘れ物ありで、急いで楽器屋に駆けこんだり。
朝日のキーボードは買ったばかりのノード・エレクトロで、可愛い〜。オレも欲しい〜。今、スタジオにあるキーボードはノード・モジュラーとノード・リード、それにマスター鍵盤用のDX7IIなのだが、DXをこれに代えたらノード・シリーズ全機種揃って、真っ赤なキーボード3台になるぞ。
ライヴは3曲でMDでリズムを出して、エレピを弾いて歌う曲とエレピの完全弾き語り、それにMDでカラオケを出して歌うだけの歌謡ショー・スタイル。3曲とも新曲。セッティングは朝日がしっかり詰めてきてあったので、僕はさしてやることなし。エンジニアもタワーのスタッフに御任せでOKそうだ。
ざわざわしたレコード店内でのライヴは演奏する方も観ている方も集中力を必要するが、まずまずの内容だったような。僕は歌詞憶えているのだろうか、初めて使うノード・エレクトロの操作は大丈夫だろうか、とかハラハラしながら観ていたのだが、アレ〜、一夜漬けで頑張ったな〜。意外に落ち着きあるライヴでした。雨の平日にもかかわらず、わざわざ観に来てくれた人達には感謝。
あたり見回すと、ハイポジもりばやしさんやフリーボ石垣くん、アップルズなかじ〜が。わかちゃん、ササキデリック氏などネットで会話かわす人達も数人。「わたし、もう全部歌詞覚えて、歌えるよ」ともりばやしさん。敬愛するアーティストから、「HOLIDAY」のあそこがいい、ここがいいと言ってもらって、これ以上、嬉しいことないです。
インストア・ライヴなのにチャイチャイが打ち上げ用意してくれて、8人で沖縄料理屋へ。たくさんお喋りして、たらふく食べる。10時頃にお開き。タクシーに機材を乗せて朝日を家まで送ってから、深夜、スタジオに。ちょっとやりたいことが出来たのでゴチョゴチョ実験。一昨日の課題にひとつ出口を見つける。
06.28さっき帰ってきたエルヴィス・コステロ@BLITZ、さすが!というしかない濃密なライヴでした。アトラクションズとはベースが違うだけのインポスターだけれど、ちょっとヘヴィでソリッドなサウンド。エルヴィスはギター弾きまくり。そでに10本くらい置いてあった。最後に弾いてたブルーのメタリックの(テスコ?)はヘッドに値札がぶるさがったままでした。
あとは今日も雑用いろいろ。渋谷でレコ屋をめぐってみたが、HMVでは「HOLIDAY」は売り切れ。タワーはあと1枚。給料日後の週末での品切れは痛いなあ。ツタヤは三茶には入っているのに、渋谷では見当たらず。でも、朝日美穂コーナーはあって、「THRILL MARCH」売っているんだよね、ココ。
しかし、レコード店は元気ない感じ。宇多田も一段落して、元ちとせのアルバム待ちみたいな時期? でも、ともかくレコード店に夢が落ちてないように感じられてしまう。面白くしよ〜よ、もっと、と思わずにいられない。といって、僕に出来るのはひとつひとつCDを作っていくことだけなのだが。
06.29岡村トリビュート・イヴェント@新宿ロフト。思えば、去年の青山CAYのイヴェントから11カ月。去年のイヴェントはスタッフなど誰もいなくて、それこそ、ミュージシャンの手弁当と、PAエンジニア、佐藤恭一ひとりの現場能力に支えられて作ったイヴェントだったが、今年のイヴェントはタワー・レコード主催。ロフトに着くと、江口寿史のイラストによる大きなポスターが至るところに。タワー・レコード、ハイライン・レコード、ソイツァー・ミュージック、それにロフトのスタッフにもがっちり支えられたイヴェントで、2時に現場入りしたものの、僕などはもはややることがない。ここまで来たんだなあ、という感慨しきり。そして、今日ですべては終わり、という思いもある。
出演者は順にクラムボン、HARCO、朝日美穂、イルリメ、FLEX LIFE、ニーネ、直枝政広&ブラウンノーズ+鈴木祥子。一言でいえば、これは「岡村靖幸ウッドストック」だな。最高にピースフルなイヴェントだった。会場も楽屋も柔らかい空気に溢れ、すべてのアクトが暖かいリアクションを受けた。朝日とソイツァー・アライで練り上げたセット・リストがまたよく出来ていて、普段は絶対に一緒にやることのないアーティスト達がひとつのパーティーを作り上げてしまった。とりわけ、イルリメ〜FLEX LIFE〜ニーネの流れの良さには僕も観ていてビックリ。あんなに盛り上がるとは。
見どころはもう書ききれないが、個人的にはイルリメのトラック担当、リョウアライ氏の恐るべき編集センス! 岡村ちゃんネタだけのブレイク・ビーツで、超ファンキー、超クールなリズム・トラックを作り上げていて、天才ですね、彼はやっぱり。5人編成のFLEX LIFEは完璧な演奏。まさにアコースティック・ソウル。たった3曲で観客のハートをがっちり捉えていた。僕の大好きな「WAR」やってくれたし。りえんぬ最高!
最後の直枝さんの「あの娘・・・」が始まった時にはみんなのジャンプで床が揺れ、うしろの方には泣いている人もいた。鈴木祥子さんを加えた「イケナイコトカイ」ではやってくれました! 長〜いギター・ソロ。ウッドストックだよ、もう。倒れそうになりました。そして、あらためて思うのは、こんなイヴェントを作らせてしまった岡村靖幸という音楽家の凄さ。
ロフトの会場でそのまま打ち上げ。イヴェントが成功する裏には、たくさんの人達の人には知られない努力があるわけで、わずかな演奏時間にもかかわらず、このイヴェントのためにリハーサルしたスペシャルなステージを見せてくれた演奏者達、そして、細やかなサポートをしてくれたスタッフ達、みんなが笑顔で打ち上げできたというのは素晴らしいことです。そして、パーティーは終わり。みんな、それぞれの頑張る場所に帰っていく。頑張れ! 岡村靖幸も頑張れ!
06.30静かに家で過ごす。6月ももう終り。なんだか一カ月、何もしていないような気がする。原稿はたくさん書いたが、書くということよりは、書けるということを証明することの方に気持ちが行っていたような。まあ、苦痛が減ってきたのは何より。今日も数えてみたら、なんのかんので週明けまでの締め切りが6本。4本は書き上げたいという気持ちはあるけれど、まだ1本。頭の中には4本まであるので大丈夫、と言い聞かせつつ。
しかし、原稿ばかり書いていると、今度はレコーディングできる身体に戻るのに、しばらく時間がかかってしまう。レコーディングというのは、特にたったひとりでやっている時のそれは、実はいろいろとスペクタクルな体験があって、時にサイケデリックだったり、凄いグルーヴの虜になったり、トランスして何時間も過ぎちゃったりという状態にも入りこんでいく。終ってみると、夢から醒めたような状態で、どうやって自分がその音を作り出したのか、本当に自分がやったことなのかどうか、といった疑問すら湧いてきたりする。日によって、僕はいろいろな仕事をするので、ひとつの仕事からちょっと遠ざかると、自分のやった仕事なのに、凄いなあ、こんなの自分には出来るはずない、という感覚に陥ったりもするのだ。特にアレンジやミックスはそう。
そんな感じが今日はまたぶり返してきて、次にやらねばならないことが高くそびえ立って見える。今年の後半はまたレコーディング・ラッシュになりそうだけれど、もっと凄いアレンジやもっと凄いミックスが自分にできるのだろうか、とか。
残念ながら、僕は自分が築き上げたルーティンの中で凄いものを作り上げられるわけではない。でも、ルーティンができちゃったら、すぐに飽きてしまうだろう。もっと実験しないと。実験したいな。「実験ガール」(by ハイポジ)でも聞こ。