BEFORE GET IN SLEEP

04.08
起きてほどなくスタジオ直行。昨日の続き。恐ろしいトラック数になっているコーラス・パートを少しづつ少しづつトリートメントしていく。こんなにフェーダーを書きまくったことはないかもしれない。同じパートが繰り返されることのない変幻自在のコーラス・アレンジが施されているので、パート、パートでエフェクトを変え、パンを変えたりもする。プロトゥールズ内での複雑なルーティングに加えて、アナログに出してからもアウトボートを縦横に使うので、アタマの中も物凄いことになっていく。
この「日曜日」という曲、本当に何度も何度もやりなおしたが、ファイナル・ヴァージョンは朝日と僕が作ってきた音楽に、新しいページを書き加えたと思う。といっても、やっていることはタダのポップスだ。曲は何の変哲もないツーコードが主体。ハウスを基調にしたごくごくシンプルなリズム・トラック。ムーグのベース。アコースティック・ギターとピアノ。後半にはなんとエレキのソロがある。岡村トリビュートの「だいすき」と同じく、全楽器を僕が演奏しているのだが、「だいすき」よりもはるかにシンプルなアレンジ。サウンドも隙間を残している。フィフティーズやシックスティーズのポップスのイノセンスに触れ合うことをやりたかったのだ。
今のアレンジに到達するまでには、物凄くいろんなことを試したので、使われているトラックの中にはかなり以前にレコーディングされたものもある。コーラスのパートがひとつ行方不明になってしまったのだが、半年くらい前のファイルから見つけ出した。途中、サーフィン〜ホットロッドなドラムが炸裂するパートではAKGのスプリング・リヴァーブが大活躍。ギター・ソロは半分はギター・シンセ(LINE6の紫のヤツ使用)で4パート重ねてある。ビーチ・ボーイズ、トッド・ラングレン、スリー・ディグリーズ、マドンナ、ポール・マッカトニー、スタイル・カウンシル、カルテート・エン・シー、マシュー・ハーバート、マウス・オン・マーズ、クレイグ・デヴィッドなんてキーワードが僕の頭の中では回り回っている。笑っちゃうようなネタ感も中にはあるだろうけれど、でも、ミックスはもちろん、今の音楽としてミックスする。リファレンスはもちろん(?)、ハーバート。
始めて8時間ほどで、ようやく完成に近づく。が、フェーダーをたくさん書き込んだので、ちょっと全体がスムーズになり過ぎた気がしてきた。アレンジした人間がミックスをすると、どうしても全部の楽器が聞こえて、アレンジの細部が分かるようにミックスしてしまう傾向がある。どこかラフな遊びの部分が欲しくなって、最後の最後にまた、シンセで遊び始める。歌詞の内容に合わせて、フィルイン的なノイズが乗せられないか? ノード・モジュラーをごちょごちょいじっているところに、朝日が到着。「アレ? 脱音響派じゃなかったの?」「いや、その、コレは・・・」。
とりあえず、聞いてもらうが、コーラス・パートに注文が幾つか。全体のリヴァーブ感なども少しづついじって、さらに数時間。とりあえず、完成にこぎつける。十二時間以上、飲まず食わずでぶっつづけで作業して、深夜になってしまったので、耳にはやや自信がなくなってきた。なので、あす、もう一度、落しなおすことも考えに入れつつ、テイクワンを落す。朝日はCD-Rに焼いて御持ち帰り。あした、HARCOのインターネットのラジオ番組に出演するので、そこでかけてみるという。

04.09

昨夜はかなり疲れたので、なかなか起き上がれず。さらに非常に腹立たしい出来事が追い打ちをかけてくれた。
というのは、2カ月前のEMSの事故に関すること。目黒郵便局の担当者が2カ月も経ってから、訳の分からないことを言ってきた。破損した品物には860ドル、日本円にして11万円以上の保険がかかっていた。事故は全損事故と認定されている。が、受取人である僕が日本で補償を受ける場合、最高2万円までしか補償が得られないという。11万円の品物を壊しておいて、2万円しか補償しないというのは盗人に等しい。あるいは、11万円の保険をかけました、として保険料を取っておいて、いざ、事故が起こったら、補償は最高2万円ですとするのは、詐欺としか言いようがないだろう。
当然、こちらは2万円では承伏しない。もとより、目黒郵便局から担当者がやってきた時には、11万円あまりの補償を求める手続きをしている。が、この時、担当者は勘違いをして、EMSではなく、保険付き国際小包として、補償手続きの用紙を書かせたのだそうだ。これまた訳の分からない話なのだが、物が国際小包であれば、11万円あまりの保険は日本国内でも有効。が、EMSの場合は保険がかかっていても、最高額は2万円と決めてあるという。EMSの方が国際小包よりも送り賃が高いにもかかわらずだ。
さらにひどいことに、目黒郵便局は郵便局側の勘違いによって、間違った手続きをしたにもかかわらず、そのことをこちらには告げず、勝手に「EMSなので限度額2万円」という補償の手続きに差し替えてしまっていた。そして、二ヶ月も経ってから、「2万円でよろしいですか?」と言ってきたのだった。良いわけはない。が、それ以上の保険請求をするには、保険料を支払った差出人の方から、アメリカの郵便局に対して破損事故に対する報告を求め、差し出し人が保険請求しなければいけないという。そうならそうと、2カ月前に告げるべきことだ。
しかし、さらに問い正すと、この事故はいまだアメリカ側には報告がされていないことが分かった。アメリカからのEMSの輸送状況はUSPS(UNITED STATES POSTAL SIRVICE)のウェブサイトに行き、トラッキングナンバーを打ち込めば、簡単に見ることができる。見てみると、この荷物は無事着いたことになっている。
呆れて物が言えなかったのは、目黒郵便局の清塚という担当者にそのことを告げると、彼は「USPSというのは?」と聞いてきたことだ。アンタ、EMSの事故補償を担当しているプロじゃないのか? USPSも知らないで、仕事になるのだろうか? ともかく、ウェブサイトを見てくれ、と言っても、出来ないという。郵便局にはインターネットに繋がったコンピューターすらないのだろうか?
日本から事故の報告がアメリカに行っていないのだから、アメリカ側で差出人が保険請求したところで、そんな報告はない、とされるだけだろう。にもかかわらず、2万円の補償では承伏できないなら、アメリカでやってくれ、と目黒郵便局側は言っているわけだ。そのことを指摘しても、はあ、と言うばかり。申し訳ありません、の一言すらない。その一方で、保険請求の期限は3カ月ですよ、などと言ってくる。そのうちの2カ月、自分達の勘違いをこちらに告げず、アメリカ側には事故の報告すらせずに、無駄にしてしまったのは目黒郵便局なのだが。
ともかく、EMSの事故というのは本当に多い。しかも、保険料を取るにもかかわらず、いざ、補償を得ようとすると、こうやって訳の分からないやりとりになり、ウヤムヤにされてしまう。3年前には僕はニューヨークに送ったEMSを紛失されている。なんと、それはマルチのマスターテープ。それも一口坂スタジオでストリングスを録ったマルチだった。ともかく探してくれ、と目黒郵便局に何度も頼んだが、アメリカから見つからないという報告が来ました、というだけ。本当に調査したかどうかも分からない。しかも、この時は目黒郵便局は補償に関してはまったく逆のことを言った。補償を受けるには、受取人がアメリカのポスト・オフィスに対して、補償を求めなければいけない、と言ってきたのだ。しかし、そのEMSはニューヨークでミックスダウンを行うために、僕が送り、僕がニューヨークで受け取るためのものだった。日本に帰ってきてしまっている僕が、もう一度、ニューヨーークに行って、ポスト・オフィスに手続きに行くなどということが出来るはずはない。
その目黒郵便局が、今回はEMSの保険請求は差出人からしないと、保険がかかっていても、補償は出来ないというわけだ。まったくアベコベ。こんな目茶苦茶な話があるだろうか? 民間の会社がこんなことしてたら、信用問題でとっくに潰れているだろう。
ともあれ、教訓はEMSでは2万円以上の品物は送ってはいけない!ということ。その場合は保険付き国際小包の方がまだ、紛失や破損に対する補償が受けやすいようだ(といっても、上記のような間抜けな郵便局員とのやりとりが必要になるのは同じだが)。この話の顛末は別のページにまとめることにしてみよう。

04.10

昨日のは日記になってないが、何をしていたかというと・・・ほとんど思い出せない。深夜までスタジオにはいたのだが。
今日は深沢のスタジオでPHATのレコーディング。とあるアーティストの楽曲をヴォーカルのみ残して、リセッションして、作り直すという仕事。昼過ぎに歩いてスタジオに向かうと、メンバーは到着済み。ダイスケはなんと、オーバーハイムのエクスパンダーを持ちこみ。楽器というよりは、昔のSF映画に出てくる機械みたい。
先日のプリプロが順調だったので、すんなり進むかに思えたレコーディングだが、蓋を開けてみたら難航。まずは、同期問題。オリジナルのプロトゥールズ・ファイルにレコーディングされているクリックが微妙に揺れていて、91.02という小数点ふた桁まで設定しないといけない。が、ダイスケがシークエンスを打ち込んできたMPCは小数点ひと桁までしかBPMが設定できないので、ちゃんと同期しないのだ。仕方がないので同期せずに流し込み。が、MPCのテンポも微妙に揺れる。BPM91のはずが、プロトゥールズに録ってみると、91.03だった。もとのクリックとはたった0.01の差でしかないわけだが、聴感上のズレは無視できない。が、ファイルをタイム・コンプレッションしたりするのは嫌なので、細かいリージョンの貼り付け作業で凌ぐ。
プリプロの時に僕が11拍子でギターを弾いていたので、ダイスケがそれを念頭に11拍子のシークエンスを組んできたのだが、シンセ(エクスパンダー)の音色だとインパクトありすぎ。11拍子の支配力が強くて、いかにもアブストラクトなアレンジを凝らした感じに聞こえてしまう。僕が11拍子でギターを弾いたのは、何も考えずに、ヌマちゃんの5拍子に対して、面白い感じになることをやったら、たまたまそうなっていただけ。が、それをシークエンスとして組んでしまうと、意味が違ってくる。
さらに、そのシークエンスが醸し出すコード感とベースやサックスのトーナリティーのマッチングも迷走状態になっていく。いろんなベースのパターンを試し、協議につぐ協議。ようやく、6拍子でFを基調にしたフレーズに落ち着く。続いて、ダイスケが様々なスケールでソプラノサックスを数テイク録音。ポリリズム、ポリコードはPHATの特色のひとつだけれども、今回はヴォーカルと共存しなければならないので、普段より、丁重な作業が必要になる。結局、夕飯時までかかって、なんとか録り終える。しかし、これは明日から僕が頑張らねばならないということだな。エディット〜ミックスは1日2日では到底終らないだろう。
残りのスタジオ時間でやはりエクスパンダーを使った新曲を1曲録音。PHATの初めてのカントリー調? いや、カントリー&ウェスタンならぬ、スペース&ウェスタンって感じかな。面白いのが録れた。しかし、今日はほとんどコントロール・ルームに座っていただけなのに疲れました。

04.11

隣家の造園工事が恐ろしい爆音。僕としたことが、先日までの建築工事の騒音には静かに耐えていた。が、今日のはひどすぎるのでクレームに。降りていくと、すでにうちの真下の2Fの奥さんが現場監督にクレームをつけていた。しかし、部屋に戻ると、また再開。低い防音壁しか築いていないので、4Fの僕の部屋は直撃される。再度クレーム。対策をきちんとしてからやってくれ、と言うが、その時点で音はやんでも、部屋に戻ると状況変わらず。たまらず、警察と区の建築指導、それに施工業者である住友不動産に電話。警察はすぐにやってきて、一応は指導してくれた。
さらに、夕方、住友不動産の人間から電話がかかってきた。お詫びに伺いたい、という。お詫びはいいから、工事するならするで、きちんと対策をしてからしてくれ、と言うと、今やっているのは造園工事で、私は建築の方の担当なので・・・と言う。じゃあ、何でお詫びに来るのか?と聞くと、建築工事は3月一杯の予定だったのですが、工期が伸びたのでお詫びとご説明に・・・。
???? オレは建築工事に関しては、何もクレームはつけていない。今日の騒音は常軌を逸しているから、なんとかして下さい、と苦情を言っているわけだ。電話したのも、外溝造園部というところだ。そこからまわりまわって、オマエが謝ってこい、となったから、電話してきたんじゃないのか? そうでなければ、僕の携帯電話番号をアンタが知っているはずはない・・・・と問いただすと、スミマセン、担当者から電話させます。もうホント、日本はタライマワシ社会だからな〜。連日、こういうことが続くと、非常に疲れる。
スタジオに行くと、ドアに名刺がはさんであった。EMSの件でお詫びに伺いました、と目黒郵便局の課長が書き置いていた。ホント、日本人は詫びるのが好きだ。それ自体は悪いことではないが、とりあえず頭下げておけばいい、でも、それ以上はしない、というのがミエミエのことも多い。オレが今までにこうむった屈辱的な出来事の多くは、「ご迷惑をおかけしました」という一言で終結している。
どっちがいいとは言い難いが、アメリカなどではそんな風に謝ってしまったら、非を認めたことになり、裁判で負けてしまう・・・と人々は考える。だから、とりあえず詫び入れとけ、なんてことはない。これは宗教的な背景もあるかもしれない。許しを乞うとしたら、それは神に対してであって、神の名に恥じることをしていないのに、人に謝罪するなんてことは有りえない、というようなところだろう。日本人は保身のためだったら、神などすぐに捨てる。
スタジオでは昨日のセッションのファイル整理。巨大な不要ファイルがたくさん出来てしまうという不可解なことがあり、手間取る。深夜まで作業するが、まだ2、3割か。

04.12

隣家の造園工事の現場監督と話し合い。なにしろ、電話の呼び出し音も聞こえなくなるほどの騒音なので、対策してもらわないわけにはいかない。話し合いの結果、午前中は掘り起こし作業はしないことを約束させる。午後は外出するしかない。
スタジオで昨日の続き。リズム・セクションは録り音が良いので、すぐに良いバランスに。マレットで叩いたコロコロ転がるスネアをアナログ・ディレイ+デジタル・ディレイでガムランっぽい感じに作りこむ。トライバルな雰囲気のトラック。しかし、ヴォーカル編集は大変だ。ドラムは5拍子で、ベースは6拍子。シンセ・リフは11拍子なんてオケに、もともと4拍子だった歌を合わせようというのだから。ベースとドラムは30拍でアタマが揃うから、ヴォーカルを7+7+8+8=30で進行させてみたり、シンセ・リフに合わせて、8+8+8+1で進行させてみたり。
夜、ダイスケがやってきたので聞いてもらうが、ヴォーカルの扱い方に関して、議論になる。ダイスケからはまったく違う提案。さらに議論。目の前の音楽よりも、はるか彼方の形而上的論題に進みかけるが、お互い気を取り直して、ともかく、ダイスケの提案に沿って、作業することにする。2、3時間、エディットを続け、まったく違うヴァージョンに到達。しかし、これを仕上げるには、まだ一日必要だな。

04.13

昨日の作業の続き。夕方過ぎにほぼ完成に近いところに。朝日がスタジオにやってきたので聞いてもらう。コーラス処理が綺麗だと誉められる。実はかなり山口泰のテクニックを盗んで使っているのだが。
夜遅く、ロフトのギグを終えたヌマちゃん来訪。上がりを聞いてもらうが、ヌマちゃんはヌマちゃんでまったく違う提案。まったくもう。でも、やってみましょう、ということで、またリズム・エディットに戻る。ヌマちゃんの提案は最初に僕がやっていたアイデアに近いが、よりシンプルでスマート。最小限のエディットで、リズムの気持ち良い絡みを生み出す
深夜までかかって、ヌマちゃんヴァージョンもほぼ完成。ダイスケのヴァージョンは間をたっぷり取ることによって、音楽的な空間を生み出しているのだが、ヌマちゃんのヴァージョンの方がリズム的にはポップ。ある意味、静と動。が、今回は後者の方が良いかな。曲全体にアッパーな高揚感がある。どこがアタマか分からない複雑なポリリズムなのに身体が動く。。毎度、思うのだが、ヌマちゃんのプロデューサー、あるいはエンジニア的センスは非常に鋭い。僕が山口泰の作ったリヴァーブ・プログラムを盗んで使っているのもすぐに見抜かれてしまったし。

04.14

昨日の作業の続き。細かいEQやコンプ、フェーダーオートメーションを書きこむ。ディレイとリヴァーブ、モジュレーション・エフェクトもかなり複雑に作り込んだ。が、最後にリード・ヴォーカルの処理だけがどうしても納得いかない。もともとは打ち込みのリズム・トラックの上で歌ったヴォーカルだけに、生演奏の、それも超ポリリズミックなトラックの上では、どうも呼吸感のようなものが足りないように聞こえてしまう。EQやコンプ、リヴァーブ、ディレイなどいろいろやってみるが、今ひとつ。が、最近に手に入れたDBXの古い(安い)民生用のコンプレッサーを使ってみたら、非常に面白い効果が得られて、リード・ヴォーカルがリズムに参加するようになった。ただノイズが非常に多くなるので、コンプのアウトは一度、プロトゥールズに戻して、ゲイトなどで処理。ヴォーカルが決まったので、一気に完成。このミックスは自分で言うのもなんだけれど、すごくプロフェッショナルなバランスというか、今までミックスした中でも完成度が高いと思う。あ、ずっと、誰の曲だか書いていなかったけれど、5月末に出るらしいシュガー・ソウルのリセッション・アルバム中の1曲です。カッコイイヨ。