BEFORE GET IN SLEEP

01.28
なんだか、ちょっとエアポケットに落ちたような気分・・・なのは、昨年後半からのPHATとの激闘も終り、ずっと苦戦し続けてきたNEOTEKの卓のトラブルも解消してしまったからか。暇・・・なわけではないが、すべてのことにちょっと醒めた・・・というか、少なくとも前のめりな状態ではない。忙しくないと不安になる・・・という悪い癖がこういう時には出てきたりする。「こんなんでい〜のか、わ〜か〜らないけれど」だな〜、まさに。
もとより、ずっとずっと、そう思って生きてきたわけだけれど、音楽業界の先行きはどう見ても暗いし、特に昨年後半からはパッとしないのが実感される。でも、自分は相変わらず湯水のようにお金を使って(湯水のように持っているわけはないが、自分の懐具合からすれば蛇口が壊れているかのようだという比喩です)、少しでも良い音でレコードを作るには次はどうしよう?ということばかり考えている。誰から頼まれてもいないのに、日々をそれに費やしているのだから、不安になるのも当然ちゃ当然。でも、この不安に負けないことが大切だというのが、僕が学んできたことでもある。
そういえば、日本の失業率はついに5.6%だそう。見方によっては、僕なども失業者と大きな変わりはないのだから、実質はもっと高いかもしれない。こんな不安が日々増していく世の中でみんな生きているわけで、まして、音楽などで生きていこうとすれば、不安にならないわけがない。だからこそ、僕が心してしなければならないことは、回りにいるたくさんの人達の、そういう不安を少しでも和らげていくことなのだろう。オレが不安になってちゃいけないわけだ。
昼からスタジオに行って、電源回りの改善を始める。アース線をもう一度、引き回して、地面まで落す予定。今も落ちてはいるのだが、実質は半分くらいの機器しか、グラウンドに接していないようなので、それを徹底したい。が、これが結構、大変。まあ、ゆっくり少しづつやることにする。
夕方、山口泰が来訪。彼は京都に自分のスタジオを作ろうとしている。どういう機材を入れたらいいか、アレコレ、ふたりで考えをめぐらす。彼は僕以上にNEOTEKの卓が気に入っているようで、柔らかい音がするのが良いと言う。確かにSSLに比べて、このNEOTEKは柔らかい音がする。80年代のオペ・アンプを使ったコンソールなのに、クラシックな味わいがあるのは、パードン木村さんもサンレコで言っていたように、内部のアンバラ、オール単線、ソケットがなく、すべてハンドワイアリングされている構成が効いているのかもしれない。加えて、EQがとても音楽的。スティーヴ・アルビニやジョン・マッケンタイアのような、買おうと思えばニーヴでもSSLでも買えるだろう人達があえてコレを使っているのも頷ける。
続いて、PHATのダイスケが来訪。あさってのレコーディングのための機材を彼の車に積み込み。それからしばらく、ふたりで今後のことなどを話し合う。今年の目標はもちろん世界制覇! そのための秘策をいろいろ。
さらに入れ換わりに朝日がやってきて、夜半にレコーディング・モード。こないだから作業している曲にピアノ・ダビングを試みる。思えば、彼女の曲はほとんどピアノで作られているので、最初からピアノが入っていることは多いが、合奏する楽器のひとつとして、後からピアノ・ダビングをしたことはほとんどない。が、この曲の場合はリズムの味付けと間奏のソロ楽器としてピアノが欲しいと僕が言い出した。でも、やってみると難しい〜。ふたりで交互に、ダメダメ、オレがやると弾いてみるが、とても使えるテイクには至らず。う〜ん、僕の頭の中には、こうあればいいというのはあって、目の前の鍵盤上の動きもほぼ見えているのだが、いかんせん、弾けないのだ。でも、人に弾いてもらうのも難しい。ピアノが付け加える和声感を限定し、ソロも大きな音符で取りたいのだが、本物のピアニストに頼んで弾いてもらうと、どうしてもゴージャスになりがちだろう。どっかにグラディ・アンダーソンみたいなピアノ弾きはいないものか。

01.29
午後よりスタジオでレコーディングの準備。あしたのPHATのレコーディングはとあるコンピレーション用のカヴァー曲を1曲を録るだけなので、丸一日ロックしたスタジオが余ってしまうだろう。決めごとなしのジャムを録ってみるのもいいが、何か面白いことできないかと思って、ループを幾つか用意する。でも、なるべくPHATっぽくないループでないとつまらない。タイスケマツオからもらった素材集からループをひとつ抽出、あとふたつ、アコギを2、3本重ねたループを作ってみた。
夕方より朝日美穂レコーディング。コーラスをさらに重ねたり、昨日やったピアノ・パートをさらにトライ。結局、仮ピアノを録って、それをゲストに差し替えてもらう方法を取ることにした。仮ピアノの状態でもなかなか良いアンサンブル。なので、ギターもそのピアノが入ることを想定して、録りなおす。前はアルペジオ中心の緩いギターだったのだが、カッティングやミュート・リフ方向にシフト。最近、コレしか弾いていないES-125Tでさらっと弾いたら、自分なりには良いテイクが録れた。が、朝日によれば、僕のギターは「国立〔くにたち)の匂いがする」。しょうがないじゃん、マサユキが小学生の頃に国立でバンドやってたんだから。マサユキも得意な1、2弦を3度で重ねて作るオリブリガートはとりわけ国立っぽいらしく禁止される。
帰宅後、ジョン・キューザックの「ハイ・フィディリティー」を観る。最初、眠かったので、途中でダウンかなと思っていたのだが、見始めたら、目が放せなくなってしまった。だって、これはもうさあ、映画として良いとか悪いとかいう以前に、自分の実人生と比較しながら見ないわけにはいかない映画なんだもん。大きな困難に直面しているわけではなくて、他人から見たら、結構、羨むようなこともしている癖に、将来の展望もなく、微妙に虚ろな状態でいることを選んでしまう男なんて・・・共感するとかじゃなくて、分かった分かった、描かないでくれよ、もうって感じ。舞台のレコード屋がまた、あるある、アメリカにこういう店って店で、ロスアンジェルスのエイロンズとか、思い出した。女の子落とすには、そりゃもう、ミックステープでしょう、とか、音楽にまつわるデティールも苦笑の連続。ともあれ、参りました、ジョン・キューザック。

01.30
PHATのレコーディング・デイ。が、朝9時に電話。ヌマちゃんが風邪で発熱。とてもレコーディングは無理だということに。でも、このレコーディング、締め切りは二日後。今日、レコーディングして、あしたミックスの予定だったのが・・・どうしようってことで、何はともあれ、午前中から自分のスタジオに行く。考えた末、もって行くものがふたつ。ギターとPHATのレコーディング・データが入っているFIREWIREのハードディスク。
セッションは午後1時からだったが、12時半頃にスタジオに着くと、ダイスケとチョースケはすでに到着。楽器セッティングまで済んでいる。非常事態だけに、ともかく、今日やれる中でベストを尽くそうということで、ヌマちゃんのドラムはオーヴァー・ダビングする方向で、進めることにする。PHATの場合、せ〜ののジャムも多いけれど、あえて、3人が別々に演奏するレコーディングもやってきた。それを僕がハードディスク上で編集してもグルーヴのある音楽になるのがPHATの面白いところでもある。今回の曲は事前にかなりアレンジが凝らされているので、後者の方法でも面白いものは出来そうではある。
曲はソニー・ロリンズの「ソニー・ムーン・フォー・トゥー」。本来はブルーズの曲だが、違うコード・シークエンスがついて、途中からは5拍子で展開する。トライバルなリズムとスペーシーなコードの絡みがシークエンスだけ聞いていてもカッコイイ。プロ・トゥールズ上で曲の構成を決定して、サックスとベースのダビングを始める。音決めはスムーズに素早く終了。昨年後半からレコーディング三昧だったので、マイク・セッティングなども慣れたものなのだ。が、さすがに当初のシークエンスだけではリズムが足りず、演奏するのが難しいという結論に。小休止して、やり方を考え直す。ダイスケはMPCでリズム・パートに新しい打ち込み。僕は持ってきたFIREWIREのハードディスクから、使えるヌマちゃんのブレイクビーツを探す。どっちが先にものになるか競争。15分ほどでダイスケが打ち込み終り、僅差で僕は負け。が、去年、レコーディングしたけれども、結局、CDには収録していなかった1曲がほぼ同じBPMだってので、そのドラム・ブレイクを抽出。さらに編集して5拍子のブレイクも作った。これを今日の曲に移植したところ、いきなり、曲がPHATっぽくなる。だって、ヌマちゃんだもん、当然か。
で、このロボ・ヌマと一緒にレコーディング再開。本物のヌマちゃんと一緒だったら、せ〜ので良いテイクが録れたら、それで終わり。細かい直しはプロ・トゥールズでってことになるが、今日はそれぞれの演奏に耳が集中するので、ソロ・パートを何度もやりなおしたりして、いつになく時間がかかった。夕飯前にようやく終了。
さて、以後の時間は余ってしまったので、やれることをなんでもやろうということに。パーカッションのコースケが遊びに来てくれたので、3人でまずはタイスケマツオのループとジャム。続いて、僕のギター・ループとジャム。ともかく、ワンテイクだけ10分くらい演奏だけにして、どんどんネタを違えてやっていく。ダイスケがMPCの中に持っていた別AUPE用のシークエンスでもジャム。しかし、まだまだ時間はある。なので、最後に僕がギター弾いて、オール生のジャムをやろうということに。
そんなもん、レコーディングするの? もちろん!ってことで、プロ・トゥールズ回して、ジャム・スタート。ちょっとでも自分に有利なように、Aキーで先にコード提示する。あとはなにも考えず、ともかく、思いつくままに演奏。なんと、終ったのは35分後。プロ・トゥールズを1000小節以上、回していた。他の3人に比べると、僕の演奏能力はお話にならないけれど、途中、かなり面白いコード感になって盛り上がったところもあり。みんなも今の聞きたい! リリースしよう!とか言っていたので、結構、面白かったのかも。しかしまあ、プロ・スタジオでこんなことするなんて、贅沢な遊びをしてしまった。

01.31
昨夜はかなり疲れた。午前中に起きて原稿や雑用に着手するもはかどらず。ふと気がつくと、もう4時。今日はクアトロでDJをする日。でも、何も用意していない。慌てて、ターンテーブルのまわりに置いてあるアナログをチェック。アナログではほとんどビートだけのトラックをかける。上物をCDとヴォコーダーとディレイで作って、そこにさらにゲストのフジワラダイスケのサックス+カラス(フィルターとサンプル・ディレイによるカスタム・ラック。PHATのサウンドの要)が乗るというのが今日の作戦。イアン・オブライエンの新作からもひとつトラックを使うことにする。
スタジオに寄って、ヴォコーダーと必要になりそうなケーブル類をバッグに詰めて、クアトロに5時半くらいに到着。テストパターンがリハーサル中。シー・アンド・ケイクあたりにモロに影響を受けたようなギター・バンド。爽やかなプログレみたいでもある。
ダイスケも到着してセッティング。が、トラブルいろいろ。まずCDJがないそうで、ポータブルのCDプレイヤーが1台置いてあるだけ。う〜ん、まあ、なんとかなるか。が、音出ししてみたら、さらにトラブル。ターンテーブルが一台、アースが取れずにブーと鳴ってしまう。アース線の断線だろう。PAの人が治そうとしてくれるが、開場時間も近い。僕達としてはリハーサルする方が大事。なにしろ、まだ何も決めごとしていないのだから。
なので、ターンテーブルも1台でいいですってことにして、ともかく、リハ。4曲ほどリズム・トラックを試す。生楽器が一緒だとかなりライヴっぽくなるので、曲間はバッチリ繋がなくても、ディレイなどで音飛ばしたりして、その間にターンテーブルをかけかえればなんとかなりそうだ。そもそも全部、即興なわけだし。気持ちとしてはDJというよりジャム。
ほどなく開場になり、ジャム・スタート。ガーッと3、40分やる。かなりアグレッシヴだったんじゃないだろうか。システム上、次のトラックはモニターできないし、CDもモニターできない。だから、どういう音が出てくるか自分でも予想がつかない中で、ヴォコーダーやディレイをいじりまくる。でも、ヴォーコーダーは常にリズム・トラックにはシンクしているので、どんなノイズが出てもグルーヴは失わないようになっている。ザッツ・マイ・システム。隣ではダイスケがソプラノ・サックスを吹きまくり、カラスを飛ばしまくり。
受けたのかどうかは分からないが、後でテレビ番組の撮影に来ていた人が「良かったので思わず撮っちゃったんですけれど、放送に使っても良いですか?」と言いに来てくれたので、結構、面白かったんじゃないだろうか? 最近はこうやって、その場の状況に応じて、困難があってもそれを楽しんでなんかやることが、以前よりもずっと楽に出来るようになった気がする。
メイン・アクトのTSUKI NO WAの途中で残念ながらクアトロを後にして、西荻窪に。PHATのヴィデオ・クリップのオフラインを志水くんの家でやっているのでチェックに行く。志水くんのアパートは積み上げられたコンピューターとディスプレイがいかにもって感じの今様、テクノ・キッドの部屋。クリップは後半はバッチリ。前半の構成に関して、ダイスケと僕が幾つか注文を出して終わり。しかし、帰りは僅差で中央線の終電を逃し、高円寺からタクシー。チクショ〜、イテエ〜。

02.01
午前中からヴィデオ。「ファスト・フード、ファスト・ウーマン」を観る。登場人物がみんな一癖ある、でも善人ばかりだった。オレもこの程度には善人であるだろうか?などと考えてしまった。しんみりする佳作。
なんだかんだで夜になり、韓国映画「イル・マーレ」を観る。しんみりする佳作。

02.02
カンちゃんの参加しているユニット、エストランジェイロのレコーディング。昼頃から歌入れ、夕方からミックスの予定だったが、いろいろあって、なかなか始められず。夕方からカンちゃんとふたりで歌入れ。マイク・セッティングとEQをいろいろ試し、違うセッティングでダブルで録って、一方を隠し味的に使う。6チャンネル使ったコーラスはかなり良い感じ。
夜も更けてからユニットの首謀者、3人とミックス。トラック数が多いのでアッという間にDSPを使いきる。アナログに出して、EQもコンプもエフェクトもしているのにおかしいなあ。でも、リズムに対する陰影の付け方を試す中で発見いろいろ。AKGのスプリング・リヴァーブは今日も最高。終了後、焼き肉屋へ。豚と鳥ばかり焼いて食べた。
帰宅後、「あの頃ペニー・レインと」を観る。高校生の音楽ライターがロック・バンドのツアーに同行する話。オレもあんな背伸びしたティーンエイジャーだった頃あるなあ、と夕焼け楽団を追っかけてた頃のことを思い出したりはするが、いろいろ詰めが甘いところも見えてしまう。1973年という設定に対する時代考証も甘過ぎ。あれじゃ、バンドは1969年くらいのバンドに見える。もうドゥービーやオールマンの時代なのに。ローリングストーン誌の描き方があんなんじゃ、デイヴ・マーシュはさぞ怒っただろう。もっとも、アメリカでも今や、ロック・ジャーナリズムなんてものが地に落ちているからこそ、こんな映画が作られちゃうのかもしれない。
とはいえ、ペニー・レイン役の女の子の優美な微笑みにはやられる。あと、途中でエルトン・ジョンの「タイニー・ダンサー」が流れるシーンがいい。エルトンはもとより、バーニー・トーピンってやっぱり凄いなと思った。「ヴァージン・スーサイズ」のトッド・ラングレンの「ハロー・イッツ・ミー」が流れるシーンが好きな人は、この映画好きかも。題材ににつかわしくない淡さが漂うところも、そういえば、どこか似ている。

02.03
昼からスタジオに行き、昨日のミックスの続き。曲は3部構成で、3部とも楽器編成が違う。ということは、3曲分のミックスを同時にやっているようなもので、全体像を把握するのに時間がかかる。トラックは60トラックを越えていて、プラグインはEQやコンプなど、ベーシックなものだけでほぼ手一杯。なので、エフェクトかけたトラックをバウンスしてしのぐ。だんだん形が出来てくるにつれて、唯一の生楽器であるギターとバック・トラックのコンビネーションが気になってきたり、部分的に出てくるヴォーカルの位置に悩んだりして、微調整にも手間取る。
途中、青葉台のスタジオでPHATのヴィデオ・クリップのMAをしていたので覗きに行く。最後の確認作業だけして、スタジオに戻り、さらにミックス。夕方にメンバーがやってくるが、まだ全然終らないので没入。夜の9時頃にようやく形が見える。全体的に端正な打ち込みが後半に進むに連れて、ライヴ感を付け加えていくような展開にしてみた。が、かけきれないプラグインを一時的に外して作業したりしていたので、しまった、セーヴし忘れた!という局面が何度か。トータルのコンプとEQを作り込んで、落し終ったのは12時近く。時間かかったなあ、今回は。
終了後、カンちゃんの家で鍋。カキやタラや豚肉や納豆の入ったチゲ鍋。サイコ〜。マブいアメショーと遊ぶ。