BEFORE GET IN SLEEP

01.14
部屋の片づけや洗濯など。かなり頑張ったが、問題はキッチンに高く積み上げられたCDの段ボール。もはやキッチンというより倉庫の片隅に流し台が付いているという図になってきてしまった。このままじゃ、去年みたいな新年会は出来ないなあ。
ニューヨークではPHATのアルバムのマスタリングが行われているはず。そういえば、昨夜はリキッドルームで「オーガニック・グルーヴ」だったのだが、どうも背中を寝違えた感じだったので、パスしてしまった。今日も静かに過ごす。なぜか、久しぶりにニューオルリンズ・ブームの気配があって、ドクター・ジョンなど聞き返したり。

01.15
昨日の続きで、家の仕事用デスクのまわりを徹底的に整理。とある本によれば、僕のようなフリーで仕事をしている人間、そして、自宅に仕事場がある人間は、自分の中で通勤する習慣をつける必要があるそうだ。つまり、狭い家の中でも、ベッドを出て、仕事用のデスクに向かうまでを通勤と考える。この移動の感覚が重要。勤務状態に入ったら、帰宅するまではゴロゴロは出来ないようにする。なんとなく、分かるな。仕事場は仕事場にしないと行けない。だから、僕はコーヒーすら、仕事用デスクでは飲むことが少ない。ひとり暮らしを始めた頃から、僕はステレオを2セット持っていたが、それもプライヴェートな時間に聞くステレオと、仕事用に聞くステレオを一緒には出来ないからだった。
午後に電話でJ-WAVEのTOKIO HOT100に今週末、PHATの「VENUSIAN DANCE」がチャートインするという情報を知る。慌てて、J-WAVEにプロモーションに。というのも、さしてエアプレイの期待をしていなかったこともあって、J-WAVEには十分にプロモーションしていなかったからだ。知り合いのディレクターにもサンプルを渡していない人がたくさんいる。が、大晦日の特番出演が効いたのか、何人かのディレクターが「VENUSIAN DANCE」をかけ始めて、予想外のチャート・アクションが起きてしまった。だったら、この際、あらためてプロモーションしておかねば。1時間ほどロビーで知り合いを捕まえてはサンプルを渡す。
夜は朝日美穂レコーディング。が、今日は歌詞の検討をしただけで終了。

01.16
家で経理事務などした後、代々木上原のJASRACへ、今日は自転車ではなく、電車で行く。リリースのない月でも、こうやって再プレスの申請に行くことが出来るのは、レーベルにとっては嬉しいこと。アイテムが増えて、長いタームでそれぞれの動きを見ることが出来るっていうのがレーベルをやる醍醐味だっていうのが最近になって分かってきた。
小田急で久しぶりに新宿に出てみることにして、西新宿でパソコン、オーディオなどを見て回るが、何も買わず。買うどころか、見回っているうちに、デザインや色合いの醜悪さになんだか吐き気がしてきてしまった。それからタワレコでCDを見て回ったが、ここでも同じ気分に。10センチばかりの四角の中に買え、買え、買えと言わんばかりの刺激を盛り込んだジャケットばかりに見えて、CDという物自体が実はひどく醜悪な物なんじゃないかと思い始めてしまった。普段だったら、うちのレーベルのCDは面出しされているだろうか?と気にして回るのに、今日はこんな世界で競争することにどんな意味があるのか?と自問自答したり。
渋谷で食料品を買いこんだ後、三軒茶屋のツタヤに寄ってヴィデオを二本。「ミリオンダラー・ホテル」と「ギター弾きの恋」をワイン飲みながら、ダラダラと見る。「ミリオンダラー・ホテル」はいつものように眠くなるヴェンダーズ映画だが、中盤にふっと眠気が晴れて、登場人物達と深い情感を共有できるようになる。ヴェンダーズの映画はいつもそう。夜中にひとりで見るのにも向いている。
ウッディ・アレンの「ギター弾きの恋」はショーン・ペンが全然駄目。「オレはアーティスト」と百回くらい言うのに、まるでミュージシャンに見えない。アメリカのジャンゴ・ラインハルト・フォロワーって設定は気が利いていると思ったのだが、それ以上のバックグラウンドを何も示せない。音ってのは演奏する者の背後に広がる時空を映し出しているものなのに。演奏シーンのフィンガリングに至っては、弦もまともに押さえられない素人ぶりが露。アレンもペンも音楽映画、少なくとも音楽をモチーフとした映画を作るには、あまりに音楽に対する敬意が欠けていないか?

01.17
今日も家で経理事務など。ピキヌーに遅い昼御飯を食べに行ったら、「BLIND MOON」がかかっていた。今さらながら名盤だなあとしみじみ聞く。
夕方、スタジオに行って、朝日と岡村トリビュート関連の打ち合わせ。それからひとりでスタジオ作業。ジョン・マッケンタイアに送るYAMAUCHIのリミックス用プロトゥールズ・ファイルを作ったり、タイスケ・マツオのフル・アルバムの曲順を考えたり。あすにはニューヨークからPHATのマスターCD-Rが届く。ワクワク。が、深夜に自分で仮マスタリングしてみたCD-Rを聞いていたら、なんだか不安にもなってきてしまった。こんな音だっけなあ? なんだかレンジが狭いような、分解能が悪いような。
なので、家に帰ってから仕事場のステレオでもう一度、聞き返してみたら、なんだバッチリじゃん。不思議なことに、ほとんどの音源はスタジオで聞いた方がよく聞こえる(ミックスした環境なのだから当然)のだが、このCD-Rは自宅の方がよく聞こえる。これは良いことかもしれない。いやあ、あしたが楽しみ。

01.18
暇だあ・・・っていうほど暇じゃないけれど、午前中からヴィデオなんか見たり。「トラフィック」はいろいろ投げかけてはみるけれど、結局のところ、描き切れるはずはないままに幕切れて、ハリウッドの限界を露呈してしまうような映画に思えたな。この監督はずっと「セックスと嘘とヴィデオテープ」を越えられないままだ、とも。
暇なので・・・ってほど暇ではないのだが、珍しく音楽誌も精読。サンレコのハーバートのインタヴューには目が点になった。僕はインタヴューでは機材の話はほとんど聞かなかったのだが、サンレコのインタヴューによれば、レコーダーはVS1880、音源はEMU6400とアカイS612サンプラーのみ。ミキサーはマッキー。ヴォーカルもマッキーのヘッドアンプで、SM58で録っているって? 今時、そのくらいの定番機材を持っているアマチュアは幾らでもいるだろう。なのに、あの音! やっぱり、音作りに一番大事なのは耳であって、機材じゃないのだということを痛感する。
マガジンでは吾妻光良インタヴューに狂喜。写真が最高。ようやく彼は風貌と年齢が一致した!と思ってニヤニヤしたり。彼とは大学時代に知り合った。オレが今まで見てきた日本のギタリストの中で、次元が違うと思ったのはチャーと吾妻光良だ。思えば、ふたりとも僕と同い年。吾妻くんは一浪だったので、知り合った時、僕より学年がひとつ下だったが、あの頃から四十代みたいな貫禄があった。彼はとんでもなく素晴らしいギタリストであるばかりか、人となりをそのまま表したかのようなユーモラスな歌でも文章でも僕を魅了し、嫉妬させた。才能のある人というのはいるのだ。なのに、彼はサラリーマンの道を選んだ。才能もないのに、なんとか音楽で食べたくてジタバタしていた僕にはすごく不思議に思えたものだった。そういえば、僕が自宅録音を最初に始めようとした時、ティアックのM2Aを買え、と教えてくれたのも吾妻くんだった。
さらに思い出したが、大学時代、吾妻くんも僕も国分友理恵というシンガーと一緒にバンド(それぞれ別の)をやっていたことがあったはず。で、奇妙な縁だが東芝EMIのPHATのA&RチーフのHさんも大学時代に、彼女とバンドをやっていたそうだ。世の中、狭いなあ。午後は東芝EMIでそのHさんを交えて、PHATのプロモーション・ミーティング。テッド・ジェンセンがマスタリングしたCD-Rが届いたので、早速、会議室で聞いてみる。ここのモニターじゃ分からないが、良い感じには思えた。
長いミーティングの後、スタジオに戻って、ラジカセで一回、それからATCのモニターでもう一回、聞いてみる。「TIGHTEN UP」だけ、ちょっと曲のグルーヴが違う方向に行ってしまったので問題アリ。が、後はニューヨーク・マスタリングらしい華のある仕上がり。音圧も十分。「FF」という曲などはここまでラウドに仕上げるか!というぐらいにラウド。アメリカはラウド・ミュージックやヘヴィ・ミュージックが多いから、このくらい当たり前なのだろう。
夕方にご近所のカンちゃんから電話。今なら来てもいいよってことで、ショート・ミーティング。あれこれレコーディングに関する相談に乗る。夜は原宿のアイリッシュ・パブでフィッシュ&チップスにぬるいビール・・・のはずだったのだが、SASAKIDELIC氏から今晩ならミーティングできるという電話。残念ながらパブは諦めて、タイスケマツオと3人でアルバムのアート・ワークやマスタリングについてミーティング。PHATのアルバム聞きつつ、あれこれ雑談も。
三人で三軒茶屋までタクシーで出てから解散。今日もツタヤに寄ってヴィデオ。何借りようか迷っているうちに、いけね、気がついたら四十代も後半に突入してた。

01.19
ここんとこヴィデオばかり見てるな。今日も午前中から観てたりして。「クリムゾン・リヴァー」と「ミラクル・ショー」。
家のステレオで何度もPHATのマスターCD-Rのチェック。何度も聞くうちに、最初、違和感を覚えた曲も良く聞こえてきてしまった。全体にエネルギギッシュ。マスタリングによって、PHATというバンドの持つ強靭な肉体感が、縦横に編集やミックスを凝らした曲の中からもほとばしり出る感じが出た。このままだとちょっとハイが派手すぎる気もするのだが、東芝のCDプレスの音質を考えると、このぐらいが良い良いのだろう。
午後から朝日美穂レコーディング。リード・ヴォーカルとコーラスの直し。久しぶりにRODE CLASSICをリード・ヴォーカル用に使ってみたら、コレが正解。部分的にSURE SM57も使ってみたら、コレも正解。コーラスに何十トラックも使っていると、ひとつひとつのパートは埋もれがちだけれど、ちょっとマイクを変えてみると、フッと浮きたつパートが作れたりするから面白い。さらに、シンセ・ベースをヴォコーダーに通して、ちょっとドゥーワップ風の感じにしたり、ピアノとリズムの一部を一度カセットレコーダーに通してリレコしたり。このカセットを使うアイデアも大正解。歪んでいるのに耳に優しい音。こういうのはデジタルのプラグインを幾ら使っても作れない。
なんのかんので遅くまで作業。終了後、近くのスタジオで山口泰が仕事していて、京都からトモちゃんもやってきているというので遊びに行く。ホントはみんなでゴハンでも食べに行きたかったのだが、こっちのスタジオもテンパっていたので、スタジオ・ロビーで「ハッピー・バースデイ」してもらう。朝日から貰ったプレゼントはなんと電源タップ!

01.20
PHATのCD-Rを何度も何度も聞く。メンバーからの意見も聞きつつ、最終的に4曲ほど細かいなおしをしてもらうことにして、テッド・ジェンセン宛てにメールを書く。
ところで、数日前にタクシーに乗っていたら、どこかのFM番組でドゥーワップ特集みたいのをやっていて、レイブンズとかフラミンゴズとかがかかっていた。それを聞いてから、50年代のドゥーワップが気になり出して、うちにあるボックス物などを引っ張り出して、あれこれ聞き続けている。マシュー・ハーバートの音楽を聞いていても、僕にはどこかフィフティーズが感じられたりするのだが、フィフティーズ的な、オプティミスティックで温かみのあるものと現代のテクノをうまく混ぜ合わせるこちによって、90年代的なクラブ・ミュージック、あるいは編集主体の音楽とか、音響派的な音楽とかと別のところに行けるんじゃないか。そんな気がしたり。昨日、ピアノやリズムを一度、カセット・レコーダーに通したりしたのも、ドウーワップ、ドゥーワップと思ってたからだった。
夜はだいぶ前に買ったのにずっと観てなかったザ・バンドのドキュメンタリー・ヴィデオを観る。これが面白い。もっと前に観るべきだった。大学時代、よくザ・バンドのコピーをしたりしたのだけれど、その頃は分からなかったことが手に取るように分かったりして。昔のマスターテープを聞く時、ロビー・ロバートソンもレヴォン・ヘルムもジョン・サイモンもみんな子供のようだ。うまく言葉には出来ないのだが、音楽を奏でるって、つまり、そういうことなんだよな〜、と何度も何度も思わされた。
後半、リチャード・マニュエルについてみんなが語るシーンには泣ける(語っているうちの何人かはもう故人だが)。ザ・バンドのメンバーの中で僕はマニュエルが一番好きだった。「ウェイト」や「アイ・シャル・ビー・リリースト」よりも、僕が「ビッグ・ピンク」で一番好きな曲は「イン・ザ・ステーション」。「ムーン・ドッグ・マチネー」でのマニュエルも最高だった。史上最高のメランコリックなロックンローラー。マニュエルは自殺した時、43歳だったのを知った。驚くべきことに、僕は彼よりもう年上だ。

01.21
強風の中、実家近くの銀行へ。ここに僕は小学生の頃から口座を持っている。口座番号は5桁しかない。そんな古い口座を持っている人はそうはいないらしく、番号を言うと、エッ?という顔をされたりする。今は三井住友銀行だが、ちょっと前まではさくら銀行だった。そのちょっと前までは太陽神戸三井だった。さらにその前は太陽神戸銀行で、その前は太陽銀行。そして、最初に口座を作った頃は平和相互銀行だった。しかし、合併に合併を重ねた今、ここの支店は本当にひどい店になってしまった。無気力が店を覆っているのが端から見ても分かる。マイ・バンクがそんなことじゃ困る、と思わされることしばしば。何度か苦情を言ったが、その時はハイハイと聞くだけで、改善しようと動く人間は誰もいない。今日も客への配慮のなさに怒る、というより呆れた。僕の前の客などは番号札持って帰っちゃったし、こんなんじゃ顧客も減るだろうな。
その銀行のおかげで、JVCマスタリングセンターに遅刻。今日は世界の小鉄さんとPHATのプロモCDのマスタリングとアナログ・カッティングだったのだ。言われるとは思ったが、「今度はテッド・ジェンセンですか。スターリング・サウンド、お好きなんですねえ」とジャブをもらった後、まずは「MEXICAN PUSHER」のプロモCD用ショート・ヴァージョンをマスタリング。じゃあ、聞いてみましょう、ということでテッド・ジェンセン・マスタリングのロング・ヴァージョンと聞き比べ。「テッドのに似せて作りましたよ」と言いつつ、小鉄さんのはやっぱり小鉄さんの音。テッドの方がややハイ上がりなのだが、小鉄さんの方が硬質な感触がある。日本人的な頑固さが表れたような硬質さ。ちょっとだけベースに柔らかな太さを加えることだけリクエストしてOK。
続いて、「MEXICAN PUSHER」、「TAISO」、そして「KING OF PIMP」収録の「VENUSIAN DANCE」の3曲をアナログ・カッティング。アナログはやっぱり良いなあ。小鉄ルームの巨大なジェネレックは最初はハイエンドが派手なので戸惑ったが、アナログ・カッティング3度目にして慣れてきた。マスタリングでこういうラージ・モニターを使うスタジオは多くないが、このぐらいので聞かないとクラブ・ユースの音源は分からないところがある。
夕方に終了。小鉄さんとしばし雑談。音楽業界の現状などについて、アレコレ質問されたり。小鉄さんは好奇心旺盛だ。
帰りに久しぶりに蒲田の街へ。楽器やオーディオに掘り出し物の多い中古屋を覗く。オッと思うギターがあったのだが、置場所ないので諦めて、何故かショートのマイク・スタンドを購入。それから近所の定食屋で肉じゃが定食。この京浜蒲田のあたりは異様に物価が安い。アーケードの感じや串カツ屋が2軒もあったりするあたりは大阪っぽくもある。肉じゃが定食も肉じゃがというより豚の角煮にじゃがいもやにんじんがドカドカ入った異常なヴォリューム。ゴハンや味噌汁がまた大盛りで凄いわ。このへんに来ると、今、住んでいる世田谷の物価の高さはどういうことかと思う。その一方じゃ、最近の世田谷は犯罪多発地区だし。
ホント、冗談じゃなく、世田谷は明らかにおかしい。迷宮入りしそうな一家惨殺、三軒茶屋の駅前では警官が刺し殺されるし、日体大では放火とおぼしき大火事があるし、今度は病院の院内感染で7人も死亡だという。こんな恐ろしいことが普段、自転車で走り回っているエリアで次々に起こるなんて、「ツイン・ピークス」じゃあるまいし。
天候不順なので、スタジオに行くのはやめて、家にまっすぐ戻る。夜はCDをたくさんたくさん聞く。何枚か聞いてはPHATのCD-Rに戻ってみる。制作費の桁が違うCDとも聞き比べつつ、アレコレ考える。もっと太くて、スムーズな音を作るにはどうしたらいいんだろう? 結論はスタジオのさらなるチューンナップ。やっぱり電源からやらねば。