墨絵の襖を縫って、三百有余年の時を経た寺の方丈内に、香の薫りが漂う。ふと目を転ずると、庭の木々の合間から降り注ぐ陽光が、瑞々しい風に乗って穏やかな光明を放つ。
 そうした陰翳の彩が織り成す方丈内の空間に、今年は色彩やかな洋花絵に加え、観想する涅槃図、木漏れ日の松林等、簡素と明晰をテーマに作品を展示した。
 人の手が築き上げた歴史と文化が、外界の自然と美しく融合する様を、この空間を彩る一枚一枚の絵から感じ取って戴けたら幸いである。
 又、鮮明で純一な洋花絵が、観る者の心を瞑想の世界へと誘い、やがてその場を離れ、自然の中へと立ち返ることで、心が解き放たれる。
 そんな豊かな趣きをも同時に、今回の異文化空間展を通じて堪能されることを願ってやまない。

加藤力之輔

加藤力之輔プロフィール

1944年横浜に生まれる。
1972年、渡西しスペイン国立プラド美術館にて4年間 イタリアの画家「ティツアーノ」を模写。
後に、神奈川県民ギャラリー、 ギャラリートーシン(1978・1980年)、美術ジャーナル画廊、大阪・高橋公羊堂、京都・同時代ギャラリー(1999年・2001年・2005年・2007年)、小川美術館にて自選展。2004年より異文化空間展ー鎌倉・覚園寺、京都・新善光寺、東京・梅上山光明寺ーなど、各地にて数多くの作品を発表し、現在もスペインにて意欲的に活動中。