<新年の特集>

いじめの原因を考える - 子供の人間関係が変わった -

 「いじめ」が大変な社会問題になっています。様々な原因と思われることが研究され、討議され、その解消のための努力がなされています。文部省も熱心に研究を重ね、「こころの教育」と言うものが重視されるようになりました。学校ではそれに力を入れ、行政でも「こころ豊かな学校づくり」など、様々な名称の施策が打ち出されています。

 しかし、それだけではたして解消する問題でしょうか。多くの人はそうではないことに気がついているはずです。もちろん、学校教育の中で知育偏重ではない多方面の教育が行われることは大歓迎ですが、それは子供達の生活の中でのほんの一部分の側面でしかありません。もっと多くの面で、家庭で、地域で子供達を見つめ、その原因となるものを一つ一つ取り除いていかなければならないのです。

 それはあなたもすでにお判りのことと思います。ただ、その原因となっているものの決め手が解らずに模索している最中なのではないでしょうか。それは何か。受験戦争。学力偏重社会。核家族化による親子と家族関係の変化。いくつ思い付いても、恐らくその総てがいじめの原因の一つであることに間違いはないと思います。

 その中の原因の一つに、「最近の子供は精神的に弱くなった」と言う話をよく耳にします。この話しの裏には、「いじめなんて今に始まったことではない。昔もいじめっ子がいたり、軍隊でのいじめがあったじゃないか。それでも自殺などせずに立派に生活してきた」と言う気持ちがあります。確かにそうです。かくいう私も立派ないじめっ子で、今思うと随分いやな思いをさせてしまった人がいると、反省するばかりですが、はたしてそうなのでしょうか。つい最近までは私もそう思っていました。「最近の子は弱い」と。

 しかし、よく考えてみるとそうばかりではないのです。よくよく子供達を見つめてみると、今も昔も子供達の考え方とか、行動にはたいした違いはありません。「夢が小さくなった」とか、「よく情報を知っている」とは確かに思いますが、たいした差とは思えません。では何が変わったのか。そこにいじめとして問題視されるようなこと、また悲惨な結果を産み出す原因が何かあるんじゃないか。そういう目で子供達を見ていると、小さなことと大きなことの二つ、気のつくことがありました。

 まず小さな事としては、昔に比べて子供達がけんかをしなくなったことです。昔は、何かあるとすぐとっくみあいや殴り合いになり、夕方から夜にかけて怒鳴り込みに行く親の姿がみられたものですが、最近では家庭のしつけが行き届いているのか、それだけ子供同士で触れ合う場が少なくなったのか、ほとんどそういうけんかを見ることがなく、大抵の場合は単なる「言い合い」ですんでしまうようです。子供達が殴り合いをしなくなったことによって、人の痛みや、急所に関する感覚が欠乏し、ひとたび力を振るってしまえば、命に係わることが多くなっているように思います。またこれにはゲームによるバーチャルリアリティの関連もありますが、それについては別の機会に功罪あわせて詳しく取り上げたいと思います。

 ただ、大きなこととして気がついたのは、子供同士の人間関係の変化です。昔は、学校が終わるといちはやく外に出て、子供同士で遊んでいました。それはある意味でのコミュニティであり、幾つかのグループが出来ていました。それは仲良しであり、近所であり、成り立ちは様々でしたが、ガキ大将がトップに君臨し、丁稚である幼児まで、だいたい年齢による縦社会が構成され、年功序列による共通した秩序がありました。その内部や、他のグループからのいじめもそこにはありましたが、そうなると年長者が年下のものをかばい、肉体的には別として、精神的には庇護してくれるものがいるために、追い詰められる状態にはならなかったのじゃないかと思います。そして自分が年長者になったとき、庇護してもらったことをまた年下のものに繰り返していく、申し送りのような秩序がありました。

 ところが、今の子供達はどうでしょうか。地域で遊ぶことが少なくなったということもあるのでしょうが、一緒に遊ぶのはほとんどが同級生です。塾に行っても学年ごとの授業になるため、学校以外でも同級生以外との接点は少なく、唯一の接点であるとも言える部活にしても、以前ほどの先輩後輩の絶対的服従と言う図式は保たれていないようにも聞きます。つまり、今の子供達は横社会で生きているのです。

 そこには年功序列の、年下を思いやる気持ちや、いざと言うときの頼りどころとなる年長者も存在せず、同級生の遠慮会釈ない攻撃と、かばうものも頼るものもない孤立が待ち受けているのではないでしょうか。これでは子供は追い詰められて当然です。特に精神的に追い詰められてしまえば、人間思わぬ方向に考えが発展する訳で、現在の様々な問題行動を引き起こしているのではないでしょうか。

 このことは私個人の経験による勝手な解釈であり、当然いじめに対する悲惨な結果の数ある原因の内のたった一つにすぎないのは解っています。これですべてが解決するとは思いません。しかし子供達が健全に発達し、社会に出る前の子供社会の中で、経験的に人間関係を学習するためには必ず必要なことであるにもかかわらず、なかなかできていないこの縦社会の構造を体験させることは、保護者が子供に与えてあげる必要があると思います。学問のための塾も結構です。部活も結構です。しかし、子供の健全な発達のためには、学校や同級生と言うくくりを離れた地域活動や、例えばボーイスカウトなどの広範囲から集まる団体での活動が必要であることも頭の片隅においておいてください。そして地域コミュニティや行政にも、こういうメニューを多く用意し、参加したい子供が気楽に参加できるような環境を作っていくことが、これからの社会には求められていることなのではないのでしょうか。子供達の素晴らしい未来のために。