魑魅魍魎の世界

    −古代史盗掘−山師入門実践編


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  読者の賢い騙し方 実践編




  本頁をお読みになるに当たっては、先ず基礎編をお目通しください。

  それでは、以下に単なる牽強付会の実例をお示しします。これを山師の目から見て、騙しのテクニックによって如何にブラッシアップできるか、ポイントを解説致してまいります。


 ケーススタディ 1

『続日本紀』和銅六年(713)七月の条
「大倭国宇太郡波坂郷の人、大初位上村の君、東人、銅鐸を長岡の野地に得て、之を献ず。高さ三尺、口径一尺。其の制、常に異にして、音、律呂に協ふ。所司に勅して之を蔵めしむ。」  (巻九、元明天皇)
 
  有名な銅鐸発見の節です。
それでは、これを引用して解釈を加えた例をみてみましょう。

 古田武彦著「日本列島の大王たち」(朝日文庫)
 「和銅六年といえば、(中略)『日本書紀』が成立した年、養老四年(七二〇、元正天皇)の七年前である。したがってこの一文によって、少なくとも、日本書紀』の編者がこの奇妙な古物を眼前にしていたことが判明する。
 日本書紀の編者が、書紀完成の七年前に出土した「見慣れぬ遺物」のことを知っていた可能性はあります。これを「眼前にしていたことが判明する」と断言して、既定の事実であるかのように強調しています。
  はなから少々飛ばし気味の感があります。最初はもう少し押さえ気味の方が反発を食らわないでしょう。このような局面では、最初は「〜なのではないか」「〜ではなかろうか」という論調で、既存の解釈に疑問を次第に植え付けていくのが効果的です。

  なお、書紀の編者は、責任者の舎人親王の名前以外伝っておらず、専門の史官であったかも不明です。

 「元明天皇とその朝廷の官人たちの認識は、かなり的確である。」
 「これを楽器と見なし試みた結果、『これは楽器としての機能をもつ』、そういう認識をえているのだ」

 あんな物が目の前にあれば、どんな音がするのか試してみたくなるのは人情で、原文では「音、律呂に協ふ」(音階に合っていちゃんとハモる>>これは楽器であろう)と言っています。ごく自然な発想をしただけですが、ここは「認識がかなり的確である」と持ち上げて強調し、「的確な認識」というイメージを刷り込んでおきます。ここでは、直接関係なくとも、誰もが納得するような話題を幾つか詰め込んでおくと効果的です。

 「重要なのは「其の制、常に異にして」の一句だ。「其の制」といっている。この楽器が(中略)一定の古えの制度の産物、製作物であることを、基本の認識としているのである。」
 「其の制」の「制」とは、「つくり」「こしらえ」「体裁」の意。これを「古えの制度の産物」と敢えて誤読します。
 先に刷り込んだ「認識は的確」というイメージがここで生きてきます。ここはもう少し「単なる『こしらえ』の意ではない」とする蘊蓄を盛り込んでおきたい所です。

さて、次からが本題です。
 「その制度の中の製作物は、「常に異にして」という。いいかえれば、”われわれ天皇家内の楽器とは、その制度、製作物を異にしている”、そういっているのだ。つまり、天皇家以外に、そして天皇家以前に、このような楽器を(儀礼の場において)用いていた制度が存在した」
  1. 「その制度の中の製作物(誤読)」が「常ににして」いる。
  2. 「われわれ天皇家内の楽器とは、その制度、製作物を異にしている
  3. 天皇家以前に、このような楽器を(儀礼の場において)用いていた制度が存在した

 単に、”見たことのない体裁の楽器(?)”というだけの一文が、天皇家以前の「制度」の存在を『続日本紀』に見える元明朝の人々が認めたという証拠になってしまいました。

  しかし、ここで短兵急では、強引な展開が読者に見えてしまいます。摺り寄りには、もう少し興味を引く「関係ない話」を交えて引き伸ばすのがよいでしょう。

 無論、「礼楽の制度」の存在は、「王朝」の存在を示唆します。非天皇家の王朝の存在証明まであと一歩です。

「この重大な事実を率直、簡明に認めたもの、それが右の一文なのである。」
  断言パワーで一旦しめくくります。

  大量の銅鐸の出土をはじめとする考古学的事実を知っている現代人の常識から考えると、さして奇異でない結論と思われるかもしれません。
  しかしこれは「前王朝」があったとすることではなく、『続日本紀』にえがかれた元明朝の人々が「前王朝があると知っていた」とすることに意義があるのであり、従って彼らの書いた「日本書紀」が虚偽を記していると読者に印象付ける重要なポイントなのです。
  むしろ、急に奇異な結論に導かないことが重要です。人は、一定のリズムでそれまでの思考をプレイバックします。株価にもストップ高というものがありますが、性急に論を進めすぎないように留意しましょう。

  こうした手法で一つ一つのアイテムを確立していった上で、芋蔓論証で核心に向かいます。一見迂遠に見えますが、こうした積み重ねで読者の認識を少しづつずらしていくことで獲得したビリーバーは強固です。二三の「事実誤認」や論理の誤りが露見しても、「あくまでも部分的な誤りで、理論の方向性は正しい」と、まだまだ騙されてくれます。
 


  おことわり:本項では、文庫本で入手し易い名著という理由で古田氏の著作を用いました。上記はあくまでも論理展開に飛躍がある文例であり、騙しのテクニック例ではありません。  
 
 

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濫用にご注意ください。    【 続  く 】


以  上

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