底なしの記憶力


 底なしの記憶力と聞いて、「さぞや良い記憶力で」と思われる方がいるといけないのであらかじめ断っておく。いわゆる「ざる頭」とは記憶する能力の低い事、もしくは記憶することを苦手とする人を馬鹿にする言葉として用いられるが、ざるには底がある。

 そう、私は底なしの記憶力の持ち主として世の人々に知られたり知られなかったりし、行く先々でその能力を余す所なく発揮しているのだ。まあ、手短に言えば、とにかく私は日常生活に支障をきたすほどの底なしの記憶力を誇っている。もっと解かり易く述べれば要するに記憶力が無いのである。

 昼飯に何食ったか覚えていない、又は食ったかどうかすら覚えてない、電話を切ると相手の名前か用件かもしくはその両方を忘れてしまう、同僚の名前と顔が一致するまで1年以上かかった、同じ部署の先輩となると未だに分からない人がちらほら。

 と言うわけでメモは欠かせない、しかし時折聞いてメモを取るわずかの間さえ記憶が欠落してしまうことがある、こうなると既にこれは病気としか言いようがない。ここまで来るとさすがに自分の事ながらあきれ返ってしまう、これはもう補助用具に頼るしかないのでは無かろうかと真剣に悩む。

 ではどのような道具があればよいのだろうか、これはもう答えは出ている電算機でいう補助記憶装置だ。ここでは何故かものすごいテクノロジーで脳味噌との記憶デバイスとのインターフェースが確立しているとする。不思議なのだがこの前提条件を取っ払うと話が進まない、ツッコミは不許可である。

 さて、問題となるのは記憶を補助記憶に移すトリガーである、コレをきちんと考えないとWIN95に殺されてしまったワープロのようにいくらでかいデバイスを積んでいても何も覚えていないという自体が発生してしまう、だからといって入ってくる情報すべてを保存していたのでは容量がいくつあっても足りないうえに、後々処理しきれなくなる。処理しきれなくなった情報は只のゴミだ。

 では、覚えたいことについて強く念じるというのはどうだろう、必要以上に情報があふれることが無く、念じるという動作は本人の意識が介在するので情報の選別が容易そうだ。だがあなたは覚えたい対象を的確に意識しながら「記録したい」と念じる事ができるだろうか。いやこれは単に底なしの記憶を持つ私だけの問題かもしれない、ただ急速に薄れ行く記憶をとどめたいという欲求に答えているとは言いがたいと思う。とりあえず底なしの記憶の補助をさせるのだから私レベルでも扱えないと製品の存在価値が問われてしまう。

 と、言うわけでトリガーを人間の意識に介在させているとあまり便利でなさそうな事が判明した。つまり人間の意志の干渉を少なくする事が必要なのだ。

 人間の意志を干渉させないトリガー、そんなものが可能だろうか。トリガーをかけた瞬間の意識はトリガーをかける事に集中してしまっている。そのためその瞬間の出来事を記録しても無駄だ、ではトリガーをかけた瞬間の出来事を記録しようとしなければよい事になる。

 つまり、補助記憶装置にバッファをつけるのだ、そして全ての情報をいったんバッファに通す、トリガーがかかった瞬間にそのバッファの内容を補助記憶装置に保存すればよいのだ。

 さらに発展させれば補助記憶装置内で何回か参照したデータについては記憶レベルをあげより永続的に近い保存形態にする、逆に参照の頻度が極端に少ないものは補助記憶装置から抹消する。こうしておけば補助記憶装置がオーバーフローする事をある程度防げる。

 そして、本人の参照するキーワードを分類して記憶レベルを可変すれば...
................人間いらんやん(;^^)。

 ところで「技術屋の話と全然違うやんけ、タイトルまちごうてんのと違うか」と思った人へ
「タイトルをつけた頃....さあ、そんな昔のことは忘れちまったな。」



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